第3話
母さんがベルを鳴らす。
それがうちの商売の始まりの合図となる。
昔から変わらないというこのベルは父さんが母さんにプロポーズしたときにプレゼントしたものらしい。なんとも父さんらしいというか。
「う〜ん今日もいいもんが揃ってるねぇ!」
「いつもありがとねザリさん。今日のやつはどれもあの人の力作だからハズレはないよ」
ザリさんは昔からの常連らしくいつも先頭に並んで待ってくれている。
「そりゃぁいい!んじゃあこれを貰おうかね」
「はいよ、5コインだね」
「ありがとよ」
ザリさんはいつも決めるのが早くてささっと会計まで済ませていく。
「お次の人、どうぞ選んで」
ザリさんの次に並んでいた人はどうやら新規の人のようだ。ザリさんが去った後戸惑っていたから、こういう商売のやり方に慣れていないのかもしれない。
「えっと……では、これを頂けますか」
「はーい、2コインになります」
差し出された2枚のコインを受け取って選んでくれた商品を手渡す。
「ありがとうございます」
「また来てくださいね〜」
その人は丁寧にお辞儀をしてから立ち去った。
旅の人かもしれない。たくさんの荷物を持っていたし、礼儀正しい人が多いらしいし。
「よっ、ララ。元気そうだな」
「おっ、ケリー!そっちこそ元気そうだね」
次に並んでいたのは私が初めて街に来たときに最初に仲良くなった子だ。
「今日はなにが必要なの?」
「ああ、この間父さんの使ってるナイフが壊れたから修理頼もうと思って持って来たんだよ。レイナさん、いけるか?」
ケリーはそう言ってポケットから柄の折れたナイフを取り出した。鞘は無事のようだ。
「ああ、いけると思うよ。ただそれなりにかかると思うから暫くは別のでなんとかしてもらうしかないけど……」
「その辺は大丈夫だ。今日はそれの代わりになるやつを買いに来たのもあるからな。てことでこれくれ」
ケリーは今日並べている中でも1番いいナイフを指差して言った。
「流石ケリー。それ今ある中で1番いいやつ」
「やっぱりな。あたしもなかなかやるようになってきただろ?」
私が目利きを褒めるとケリーは得意げに笑う。
「ならそろそろ1人で勝手に狩りに行くのはやめておくんだね」
母さんが少し揶揄うように言う。
「なっ、なんで知ってんだよ!」
ケリーは驚いて声量が上がる。
「私には何でもお見通しだよ」
母さんは少し得意げに片目を瞑って言った。
「くっそー……ララ、これいくらだ?」
母さんの得意顔に少し悔しそうだ。
「それは10コインだよ。いいやつだから」
「おーけー」
ケリーは腰に下げている袋から10枚コインを出して私の手に置いた。
「んじゃ、あたしは帰るな。またな!!」
「気をつけてね〜」
笑顔で手を大きく振りながら走り去るケリーに私も軽く手を振り返して見送る。
相変わらずとても元気だ。
そんな具合で並んでいたいつもの常連さん達を捌ききると少し落ち着く。
「母さん、腰どう?」
「大丈夫。最近ララが荷物たくさん持ってくれるお陰か治りが早いんだよ。ありがとね」
「えへへ、これからも荷物は私に任せてよ!いくらだって持って歩いちゃうんだから!」
褒められて嬉しくなったせいで少し盛って話しちゃったけど母さんはただ笑ってくれた。
その後は時折来るお客さんを相手して、夕方になる頃には持って来た商品は全て完売した。
「さて、じゃあ売るものも無くなったし日も落ちて来たから帰ろうか」
「はーい」
母さんと一緒に荷物をまとめていると、ミルトさんが恨めしそうにこちらを見ていた。
「あぁ〜うらやましーなーこっちは全然客が来ないし来ても買ってくんないしで閑古鳥が鳴いてるってのにそっちは完売ですか………はぁ」
ミルトさんはそう言ってがっくりと肩を落とす。
「あんたのはそうたくさん買ってもらえるような商品じゃないからだろう。絵なんてどっかのお貴族様相手でもなきゃ、そう売れないよ」
母さんはメルトさんの言葉に呆れたように返す。
「でも今日は1枚売れたみたいですね?」
来たときと比べて並んでいた絵が1枚減っている。いつの間に売っていたんだろう。
「ああ、今日は珍しくな。なんかちょっといい服来て従者っぽい人を連れてるやつが気に入ったとか何とかで1枚買ってったんだよ。金持ってそうだったから大金ふっかけてやったけどな」
そう言ってミルトさんは悪い顔で笑う。
ミルトさんの話を聞く限り貴族っぽいけど、この街に貴族が来るなんてそれこそ珍しいこともあるものだ。そう思いながら母さんと帰り支度を全て済ませてその日は家に帰った。
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