第2話

10年の時が経った。

結局あの時の男の子は2度と来なかった。

独りぼっちだった私はその後近くに住む夫婦に拾われて大切に育ててもらった。

美味しい食事に綺麗なベッド、清潔な服に部屋、毎日体を綺麗に洗えるのが1番嬉しかった。

決して裕福ではないと思うけど、たまに多少の贅沢を出来るぐらいには満たされた生活。

最初は2人のことを父さん母さんとは呼べなかった。私の両親が私のことをとても可愛がって大切に育ててくれていた、その思い出が捨てきれなかった。でも2人は決して呼び方をこれと決めなかったし今では普通に呼べるようになった。

「ララ、そろそろ街に行くわよ」

「はーい」

軒先で洗濯物を干していると母さんが窓から顔を出して私を呼ぶ。

私達は家で作った工芸品や食品などを街で露天商のような形で売っている。

うちは商品を並べている間にもう列が出来るぐらい人気だ。

「いってきます父さん」

「おお、いってらっしゃい」

工房に籠る父さんに一声かけてから商品を持って母さんと家を出る。

ここから街まではそう遠くない。

昔は途中から母さんに背負ってもらっていた道を今では母さんより多い荷物を持って歩いていく。母さんは最近腰を痛めたからあまり多くの荷物を持っては歩けないのだ。

「通行証を見せてください」

街の前まで来ると門があって門番さんに通行証というものを見せなければいけない。

大体5年くらい前に王様が変わってから各街に門が建てられてそれぞれの街を行き来するのに通行証が必要になった。籠から私と母さんの通行証を出して門番さんに見せる。

「よし、どうぞ」

門番さんがそう言うと門が門壁の中に収納されるように動く。いつ見ても面白い。

「ありがとうございます」

「ありがとうね」

母さんと軽く会釈をして門を通ると、すぐに後ろで門が閉まりはじめた。

「さて、どこか空いてるところを探そうかね」

「だね。あ、ミルトさんの隣空いてそうだよ」

街に入ったらすぐに場所探しが始まる。

この場所というのも案外大事で変なところに出してしまうと閑古鳥が鳴いたり、同じような商品を並べるところの近くに出してしまうと常連さんは来てくれると思うけど新規の人は取り合いになってしまう。

だから場所の厳選はまだ母さん主導で、私は候補を出すだけだ。

「ミルトの隣か。いいんじゃない?周りに競合もいないみたいだし、ミルトなら顔見知りだから安心して隣でやれるよ」

「やった。じゃあ私場所取りしてるね」

より多い荷物を持っている私が先に行って敷物を敷く。これが仮場所取り。

「ミルトさん、ここ私達で使っても良い?」

そして隣人から必ず許可を貰わないと場所取りにならない、これがこの街のルールだ。

「おお、ララか!もちろんいいぜ」

「ありがと!」

たまにちょっとした条件を出してくる人もいるけど、大体は良心的なものだ。

「ララ、そいつにそう愛想良くしないでいいんだよ」

母さんが荷物を下ろしながらそう言う。

「ちょっとレイナ、ヒドイじゃないか」

「どの口が言ってんだか」

「レイナ〜」

ミルトさんと母さんは昔からの顔馴染みらしく、こうやって商売の隣人になると何かと言い合っている。でもお互い顔が笑ってるから本気じゃないだろうな。

2人の会話を聞きつつ持ってきた商品を並べて値札を書いていく。

正直これを読める人は殆どいないけど、母さん曰く読める人が来た場合信頼度が高くなるからあった方がいいらしい。

ミルトさんなんかがそうだけど、値札を置かず来た人を見て値段を上下させる商売人もいる。

読める人はそういうのを好まない人が多いらしく、ミルトさんもそういう人相手で成功したことはほとんど無いらしい。

そうしてる間に何人か様子を見に来た常連さんが次々並んでいく。気になるものがあった通りがかりの人はそれに習って並んでくれる。私は他の街のを知らないから分からないけど、母さん達が言うにはこの街は治安がいいらしい。

こうやってきちんと並んでくれるのはあまりないんだそうだ。

全ての値札を書き並べ終えると母さんがベルを鳴らす。これがうちの商売の始まりの合図だ。

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