3話 人生は星の数
突然の店員の言葉に俺は動揺していた。なんで、急に?状況を飲み込めないままふと店員の手元に目を向けると理由が分かった。財布の中に入っていたサカナクションのステッカーを持っていたのだ。おそらく財布を落としたときに一緒に飛び散って飛び
散ってしまったのだろう。
「ああ、急にすみません。」
店員は申し訳そうな素振りをしながらも、長い前髪で半分隠れた目を輝かせていた。いつもの不愛想な様子とはまるで違う。ステッカーを俺に渡しながら鼻息荒く話しかけてくる。
「僕、サカナクション好きでして、このステッカー持っていたということはあなたもサカナクション好きなんじゃないかと思って。ああ、ほんと急にごめんなさい。お客さんよく見かけるので話しかけてしまっただけです。すみません。」
おそらく、突発的に話しかけてしまったのだろう。畳みかけるような勢いだ。だが、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
「ああ、なるほど_です。これはあれですね。先月のライブで買ったステッカーですね。」
動揺を少し残しつつ言葉を返す。すると店員は返答してくれたことに安堵を感じたのか少し笑顔をみせた。見慣れなさか違和感を感じる。
「やっぱそうですよね!僕もそのライブ行きました!めっちゃよかったすよね!」
そういいながらいつもよりすばやい動作で小銭を拾い、俺に渡してくる。
「あ~めっちゃよかったです。」
そう言いながら小銭を受け取る。おそらくこれで拾い終えた。
「ごめんなさい、ありがとうございます。」
立ち上がって店員にお礼をいう。今回は噛まなかった。
「いえいえ、こちらこそ突然話しかけてしまってごめんなさい。」
そう言いながら店員は作業に戻った。この店員は意外と普段おしゃべりなのかもしれない。俺は今度こそ目的の豚の角煮を手に取った。そしてまだ近くにいた店員声をかけた。
「すみません。お会計お願いします。」
いつもより元気な声がでた。
____
レジまで行き、商品を預ける。
「この角煮、食べたことあります?」
なぜかわからないが、言葉がすっとでた。絶対に店員と客ではありえない会話だ。ちょっと調子に乗ったか、という思いはいらぬ心配だった。
「あ~ありますよ。めっちゃうまいっす。YouTubeで見ておいしそうだなってお思って!」
思わぬ返答に気分が高揚する。
「え、僕もYouTubeみて買おうと思いました。」
「まじっすか、考えること同じっすね。」
ははっ、軽い笑いが起きる。会計が終わり、名残惜しくゆっくりと商品を手に取る。店員をちらりと見ると何か言いたげだったので帰ろうと出口に向けた足先をレジに戻す。
「今って大学生ですか?」
「あーはい。」
「お、同じっす。ってことは今春休みですか。」
「そーですね。っていっても家で一人でダラダラしているだけですけどね。」
ははっと情けない愛想笑いをする。つい、ネガティブな発言をしてしまった。
「まあ、いんじゃないすか。過ごし方は人それぞれですし。ちなみに僕はバイト漬けの日々ですけど。」
そういって、店員はまた見慣れない笑顔をみせる。人それぞれか、、、このとき頭の中のごちゃごちゃした何かがほぐれていくような気がした。
「ピロロロン!」
会話の終わりを告げるかのように来客のベルが鳴る。チラッと見ると3人組の男たちが大きな笑い声をあげながら入ってきた。派手な髪色、前に俺のアパートの近くで話していた若者たちだった。充実した側の人たち。しかし、前と違って今はこの3人組と俺を比較しようと考えることはなかった。
「ありがとうございます。」
何が、ありがとうございます、なのかはわからないがそういって店員との会話を終わらせ、出口に足先を向けた。
「はい、ありがとうございます。深夜飯楽しんで!」
いつもより少し温かみのあるその言葉をききながら歩きだす。
コンビニを出ると再び冷たい夜風が俺を襲う。しかし、行きより風が収まった気がした。家に帰ったら担々麵に角煮をぶち込んで、やばい、考えただけでお腹が空いてきた。あと食べながらネットフリックスでアニメでもみるか。いろいろ楽しい考えが巡ってきた。人それぞれ、そうだ、俺だけ何もないことはない。人それぞれ違った人生の楽しみ方があるのだ。
ふと上を見上げる。そこには俺の家のせまい、真っ白な天井はなかった。先が全く見えないほどの広い夜空には様々な星が光り輝いていた。視線を前方に戻すと、俺はしっかりとした足取りで歩きだした。
____完
これも人生 ゆぴきち @Yuppy_173
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