第6話
「今日はこのあと事務所内を自由に見学していっていいからな。小田原、案内を頼む」と社長が送り出してくれた。
だけど。正直、今日だけは見学を遠慮したい。
ashのメンバーがいないときならばいくらでも見て回りたいけど、今日は遭遇する危険しかないからかなり嫌だ。
そんな私の内心など知らない菫さんは、楽しそうに私の手を引いてどんどん前を歩いて行く。
事務所の人で私の素性を知っている人は社長と菫さんだけで、すれ違う人たちには皆、菫さんの親戚の子が社会科見学に来ているということで押し通した。
◇◇◇
「grisさん、ほんとにash見なくていいんですか?」
一通り案内し終わった菫さんが、事務所の1階スペースにあるカフェラウンジでコーヒーを飲みながら聞いてくる。
ashはいくつかあるミーティングルームで今日は打ち合わせをしているらしく、ミーティングルームがある3階を通ったときにサラッと説明された。
全然会いたくなかった私は、これ幸いと菫さんを押してそうそうに引き上げたのだ。
「じゃあ、邪魔しないようにこの階はスルーしましょ〜」
さっきのカフェでは暑い中、冷たいカフェラテを飲むのが最高に美味しかったけど、冷房の効いたこの建物内であったかいコーヒーを飲むのもまた幸せな時間だ。
社長室と同じく北欧のインテリアで飾られたこのカフェもまた、オシャレで居心地がよくてかなり気に入った。
うっかり長居をしてしまいそうになったとき。
1階が少し騒ついたのを感じで、急いで立ち上がる。
「え?grisさん?」
「す、菫さん!私……トイレにっ」
「あ!それなら、ここを出て左手にある受付の奥に……」
「はぁーいっ」
説明してくれる菫さんの話を待たずに私の足はすでに小走りに動き、この場を早急に離れたかった。
トイレ我慢してる子に見えても全然いい!
とにかく早くトイレに逃げ込みたかった。
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