第5話
「社長、grisさんお連れしました」
「お、仁那遅かったじゃねえか」
対面に並べられた北欧家具のようなスタイリッシュなソファとテーブル。
そこに似つかわしくない強面の40代の筋肉質な男性。
「お久しぶりです……社長、仁那じゃなくてgrisって呼んでください」
白目をむきながら冷ややかな視線を送っても、この男性……一ノ瀬社長にはなにも響かないのは初対面のときから学習済みだ。
「うるせえなぁ、グリだかグラだか知らねえけど俺は英語の名前は覚えづらくて嫌いなんだよ」
「grisね、それとフランス語だから」
一ノ瀬社長は、黒髪の短髪で清潔感はあるのに、顔が強面で口も悪いからどこぞのヤクザみたいな風貌をしている。
私が自作の曲をアコースティックギターで弾き語りをしている動画を、動画投稿サイトにアップしたのを見つけて、スカウトしてくれたのはこの人だ。
あのashをライブハウスで見つけてきたのも社長だというのだから、その手腕はきっとすごいのだろう。
◇◇◇
「じゃあ契約内容はこんな感じで問題ないな?」
「はい、大丈夫です」
「しっかし、こんな何もかも非公開って……お前、その容姿利用すりゃあすぐに売れるだろうに……」
「いいんですー、有名になりたいんじゃなくて曲を聞いてもらいたいだけだから」
「ふぅん……、それにしても今日のその格好はなんだ?仮装か?」
「かっ、仮装って!社長、grisさんに失礼ですよ〜」
菫さんがフォローしてくれるのはいいんだけど、あなたもさっき野暮ったいとか言ってませんでした?
「え?いいでしょー!これ」
「はあ?最近はそういうのが流行ってんのか?」
「まさかぁ〜、仮装ですよ、仮装!」
「なんだやっぱり仮装じゃねえか」
「え?grisさんなんで仮装してるんですか?」
「んっと、趣味?」
不思議がる2人にも本当のことは言えないので、この際変な趣味をもつ女とでも思ってもらおう。
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