第3話

「やっべ……ちょっと騒ぎになってきた〜」


「おい、事務所まで走るぞ」


「RUI!お前もだよ!」


「え〜、暑い……」



バタバタと楽器を持った彼らが、私の前を通りすぎようとした時。


私のスマホが再び着信を知らせて鳴り出した。



ひっ!なんでよりによって、今……っ!


慌てて席を立つと、キャップを目深に被りなおして、俯き気味に店内へとダッシュで逃げ込んだ。



「お〜い!るーくん!何やってんだ、止まるなっ!」


背後でリーダーの神奈かんなれたようにRUIを呼ぶ声が聞こえた気がした。



そんな事を気にするよりも、私の目下の心配事は……。



『grisさん〜っ!どこいるんですかぁ〜!どうして来てくれないんですか〜〜』


「は、はい!ごめんなさい、すみれさん!すぐ行きます……っ」


事務所行きをすっかり忘れてカフェでくつろいでいたことを、菫さんにどう弁解しようかということ。


ごちそうさまでした、とお会計を済ませて店の外に出たときには、さっきの騒ぎはすでに収まっていた。



もう地図アプリ見ても自力で到着は出来そうもないから、ダメ元でさっきのカフェの店員さんに事務所の場所を聞いてみることにした。


「あ〜、それならこの道を真っ直ぐ行って、突き当たりを右に行ったらありますよ」


すごくあっさり教えてもらえた。



私がこれから所属する芸能事務所は、音楽家や芸術家のマネージメントを得意とするところで、このあたりで働く人はだいたい知っているくらい場所も有名らしい。




白いレンガ調の5階建てのビルの前に、スーツ姿で半ベソの女性が立っていた。



「あっ!grisさん、ようやく来た〜っ!もう心配したんですよっ」


「菫さーん、お久しぶりです」


「なに呑気に挨拶してるんですか!って、あら?」


「……ん?」


「grisさん。なんでこんなに野暮ったい、地味な格好してるんですか?」



菫さんが私の荷物を受け取りながら、不思議そうに私を見つめてくる。


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