第2話 仲良くなった、かな。

静けさがこのまま続くかと錯覚しそうになった頃。

比較的近い席にいた、人の良さそうな少年が、おずおずと口を開いた。

「えーっと。ここ、男子校、だよ」

「へ?」

自分でも人生で1番間の抜けた声を出したと思うアース。

拳を握り締め、ぷるぷると震える

「お」

「お?」

「......?」

「親父に騙された―――!!!」

哀しみを帯びた絶叫が響く。

それを皮切りに、講堂内ががやがやと騒がしくなる。

「本気かあいつ」

「アザゼルの王子だろ。海を挟んで隣国じゃないか」

「男子校って知らずに入学したのか?」

「神殿国家の秘蔵っ子が他国に行くって割と噂になったよな?」

「どんな怪我でも治すとか、死者すら蘇らせるとか」

「神様の生まれ変わりとまで言われてるし」

「そっちも知らなかったってことだよな」

「どうやって入学試験受かったんだ?」

「あ、でもあの国、気候も王族の頭も春だから、野生の勘だけで生きてるって言われてるしな」

「あいつの頭も春」

「納得」

「聞こえてるぞ!」

大衆に叫んで、 続けるアース。

「俺の鉛筆転がしの正答率は七割を超えるぜ!選択式の試験なら俺は生き延びられる!」

胸を張る彼に対して(あー、こいつバカだな)という空気が蔓延った。


「と、そうじゃなくて」

聴衆からくるりと金髪の少年の方に向き直り。

「ごめん!」

ぺこりと頭を下げるアース。

「何が」

静かに、でも良く通る声。

「いや、性別間違えて」

「別に」

「髪もサラサラで肌もピカピカでてっきり女の人だと。でも嫌な思いしたよな、悪かった!」

もう一度頭を下げる。

返ってきたのは溜息。

「妹と間違えられることはよくあるから、本当に気にしていない。それより」

「あ、許してくれるのか。良い奴だな!ありがとう!俺はアース」

差し出された右手。

何かを言おうとして、諦めたように空の色の目を伏せ、開きっぱなしだった本を閉じ、立ち上がって綺麗な所作で胸に手を当てて一礼。

「お初にお目にかかります。我が名はカリオン。以後お見知りおきを」

握手。

「あ、そっか、初めまして、宜しくな!」

ぶんぶん、と握ったまま手を振るアース。

男子校だったのは残念だけど、まあ、なんとかなるだろう、と思いながらカリオンの隣の席に座った。

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