魔王と一騎打ちしたり友達増えたり空を飛んだり落第しかけた俺の入学初日の出来事
伊織
第1話 拳を握り締め僕らは出会った
学園都市、と呼ばれる町がある。
有名な魔導師を何人も輩出した名門魔法学校。白亜の城とも見紛う校舎から扇形に広がる活気のある街並み。
そこから広がる草原の向こう側。
小川を越えると対照的に草木も少ない土地の更に丘の上に石造りの堅牢な建物がある。
魔法学校より歴史の古い元は城砦だったそれは、主に貴族の子弟が通う士官学校だった。
―――大講堂。
天井の高い空間に等間隔に椅子が並べられている。
学生の数の数倍あるのは、現在は新入生しかいないから。
遅れて入ってきたのは黒髪の少年。屈託のない顔つきと生命力を感じる海のような青い目が特長だった。
まだ時間より早いが、既に今日から学友になる少年達は既に適当な椅子に腰掛け、雑談に興じている。
ただ一部に限り、静けさが支配していた。
結界が張られたかのように誰も座らない一角。その中心に座る人物だけ、誰とも会話をせず、俯いて本を読んでいる。
一見すると無機質で彫刻のような美貌。整いすぎていて純粋な人間種族ではないのだろうが、だが陽光を束ねたような髪と空のような瞳は冷たさより温かさを感じる色で、精霊種族よりは生命力を感じさせる。
本を捲る所作も機械のように寸部の狂いもなく、他の学生が近寄りがたさを感じるのも当然だろう。
黒髪の少年―――アースも一瞬その雰囲気に飲まれそうになったが、意を決して真っ直ぐ進んだ。
彼がもう少しだけ周りに意識を向けていたら、他の生徒が会話をしながらも此方の様子を窺っていたことに気付いただろう。が、彼は前しか見ていなかった。
3歩、2歩、1歩、正面。
「お姉さん、俺と付き合って下さい!!」
時が止まる。
呼びかけられた方は無表情のまま、視線が本から声をかけた相手へと向けられ。
青空の瞳と海の瞳が交差した。
ため息1つ。
「俺は男だ。断る」
形のよい唇から紡ぎ出された声は、思ったより低かった。
これが、2人の出会いである。
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