第44話 最初のドル箱はブライアン・魔女チームの商品 そして

 魔女たち3人は、それぞれゼレの隣近所の部屋をもらって、そこで暮らすことにした。仕事としては、主に補綴薬を作ること、それと、キャサリンたち女性メンバーと一緒に化粧品を作ることになった。皺が取れる、シミが取れる、二重顎などたるみが取れる、など、女性たちが飛びつきそうな化粧品が薬草と魔法と魔術によっていろいろできてくる。女性たちは自ら進んで実験材料となった。そして、その効果は抜群で、営業に行く必要が無いほど、大人気である。ブライアン・魔女チームは研究所の最初のドル箱的存在となった。


 化粧品のパッケージは、スーザンの姉のクレアがいかにも貴族が好みそうなデザインにしてくれた。姉のクレアは補綴薬で顔や首、デコルテの大きなやけどが治り、その使用前使用後の写真と、さらにそれ以後の化粧品を使った写真をパンフレットに提供してくれたので、それが大きな活躍をしてくれていた。

パンフレットは他に、腕が戻ったジェフ、癌が完治したアルの写真と体験談も載っている。クレア、アル、ジェフが営業に行くと、客とその家族は涙を流して期待し、高額でも惜しげもなく支払い、さらに今後の研究にと寄付までしてくれるところもある。それほどに、補綴薬は画期的で大事な薬であった。


 クレアほどの大きな傷でなく、肌に問題がある、程度の人には、化粧品を勧める。化粧品は薬草が主であるが、それに魔術と魔法を加えているので、驚くほどの効果がある。それに、なんと、男性用のハゲに効果がある。これは物凄い反響となった。しかも、使い続けないと効果が失せるので、定期的に買う必要がある。

「どうじゃ、商売上手じゃろ?」

ゼレがそう言ってニヤニヤしている。

「いやまったく大したもんだ。中高年の男の弱みをえぐる商品だな。」

ウッドフェルドがそう言って笑っている。


 そんなわけで、ブライアン・魔女チームは物凄い売り上げを出した。


 次に稼いでいるのはレスター・チームのハンバーガー店とカレー店である。どちらも連日満員で外に行列ができていて、その行列が通行人の興味を引き、一度試せば常連となる、という好循環で、2号店、3号店を開店していっている。

店が増えるというのは、収入の面でも良いのだが、他領から移住してきた者たちの就職先として、大変役に立っている。移住したものの仕事が無い、では生きていけない。しかし、店は常に求人募集をしているので、そこで最初の収入を得ながら、魔法の訓練をしたり、学問も身に着けて、いろいろな仕事に就いていく。


 そこでセビエスキに課題ができた。

想定していたよりはるかに多い移住者が押し寄せたのだ。

とりあえずの仕事はハンバーガー店とカレー店で解決するが、住むところを確保するのはなかなか大変だ。


 「前世に『団地』と言って、たくさんの家族がそれぞれ独立して、でも同じ建物の中で生活する場がありました。そういうのを作ってもいいかもしれません。」

キャサリンがそう言うと、セビエスキが大きな興味を示した。

「それはどういうものか、もう少し詳しくお聞かせ願えないだろうか。」

「はい。では、もし速く作ることも念頭に置いて、ブライアン様とラルフ・アレックスチームの方々をご同席お願いしてもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ。」

キャサリンは簡単な間取り図を描いた。

「うふふ、私、絵は描けなくても間取り図くらいなら描けますわ。」

キャサリンは自慢気に言う。

「あっはははは、キャサリンが絵で自慢してるよ。」

アレックスが派手に笑う。

「イメージとしては研究所の横の宿舎で、あれの一部屋がもう少し大きくなっている感じです。今、ビニ―さんは弟妹さんたち4人と一緒に5人で暮らしていらっしゃいますでしょ。2部屋続きにお風呂が1つ、簡単なキッチンがひとつあります。あのキッチンがもう少し大きくなって、お部屋が2つだったり3つだったりする、という感じです。速く作るには、魔法で作れますか?」

キャサリンがそう言ってブライアンの顔を見る。

「そうだな。土魔法で外側と仕切りを作り、水魔法と火魔法で風呂とキッチンを作ればよいだろう。」

「土魔法使える者がだいぶいるから、ちょうど建物を作る練習になって良いな。水はドンとバート、火はレスターとイレーネか。まあ、俺もアレックスもできるし、もちろんブライアンもできるから問題ないな。実地訓練は貴重な機会なので助かるよ。」

ラルフは、これを機に、魔法の訓練になると嬉しそうだ。

「では、これからちょっと邸に行って、そのダンチというものの場所を確保してくるので、他の準備をお願いして良いか?」

「どうぞどうぞ。こういうのって楽しいねえ。」

アレックスが、なんだか喜んでいる。

「アレックス、お前、砂場遊びするみたいに考えてないか?」

ラルフが揶揄うと、

「えー、だって、同じようなもんじゃん。」

アレックスは否定せず、砂場遊びを楽しもうと思っているようだ。


 ほんの少しでセビエスキは戻って来た。

「場所は確保しました。うちの宿舎のように、まずは一人か二人で暮らせるようなものを1棟、それから子供が何人かいるような家族用のものを1棟、とりあえず作っていただけますか?」

「承知した。では、俺はちょっと人を集めてそこに行く。場所を教えてくれ。」

「ここだ。カレーの1号店から近いところだ。」

「いってらっしゃいませ。あ、内装はスーザンさんとクレアさんがお得意そうですわよ。」

「そうだな。ありがとう。キャシー、悪いがそれ、頼んでおいてくれないか?俺たちは現場に行って外側を造るので。」

「はい。内装に入るのはいつ頃でしょう?」

「魔法の練習もしながらだから、ちょっと余裕をもって、明日だな。」

セビエスキが驚いて

「あ、明日ですか!」

と、大きな声で言った。

「練習しなければ今日中にできるだろうが、やはり練習するとなると少し遅くなるなあ。悪いね、訓練したいと頼んだもんだから。」

ラルフは優しい。

「そうだな。アレックス、悪いがレスターにダンチができるということを説明しておいてくれないか?もしかしたら、カレー店やハンバーガー店で働く者はダンチのほうが便利だからそこに移動したいと思う者もいるかもしれない。」

「ああそうだね。それじゃレスターに説明してから現場に行くね。それとさ、事務室みたいなところ、作っといてくれない?移住してきた人たちは、まず魔力鑑定とか、就職の世話とか、いろいろあるでしょ?一部屋くらいあると便利じゃない?」

「そうだな、承知した。では、ここで解散。」


 ブライアン、ラルフ、セビエスキは、それぞれ必要な物や道具を持って現地に行く。アレックスはレスターに会いに、キャサリンはスーザン達に会いに行く。


 キャサリンはその話の後、ブラッドレー・ウッドフェルドチームに行って、ダンチの説明をした。

「それは良いことを決めたな。しかし、そこまで大きくなってくると、王家が気にするであろうな。今夜、ブライアン君が戻ったら、アレックス君とも話してハース国に行くようにした方が良いだろう。もちろん、転移で毎日でもここに来てもらえるので、寂しいことは無かろう。」

「ははは、ジム、寂しいのはティモシーと少しでも離れないといかんと思うお前じゃないのか。」

ウッドフェルドが揶揄うと、ブラッドレーも負けずに

「ポールよ、お前こそ、愛娘とティモシーに会う時間が減ると寂しいんじゃないか?」

と言い返す。

「くっ、お互い様だ。」

そんなふたりの父を見て、キャサリンは幸せそうに笑っているのだった。


 ダンチの建設は、アレックスの言ったように、魔法の訓練にもなったが、どうやら参加した者たちは、砂場遊びの感覚で大いに楽しんだ。また、土魔法を使える者が最も活躍の場があったのだが、この2棟の練習のおかげで、この後ビルの建設には皆自信を持てたようで、これからいろいろと着工していこうということになった。

また、アレックスのアイデアによって、事務室を作ったことから、他領からの移住者は、そこで移住の手続きをし、魔力の鑑定をし、そして仕事や学校の斡旋を行うようにした。その結果、セビエスキ領は税金が無く、住まいも仕事も学校も提供してもらえるという評判がたち、移住者数が激増した。同様にアレックスの生家であるトーレス領もセビエスキ領と同様にしているので、移住者が押し寄せている。


 2つの棟が完成したら、すぐに次の棟を建設することになり、とりあえずは全部で10棟建設していくことが決まった。移住者たちは、魔力があるものが多く、訓練所が忙しくなっている。

キャサリンとティモシーは、ハース国に保護してもらい、ブライアンも一緒に住み、そこから転移で研究所に通っている。ハース国の王太子妃マリアはアレックスのいとこだが、キャサリンとすっかり仲良しになり、マリアの子供たちがティモシーをお守りしてくれたりして、キャサリンはマリアのことをお姉さまと呼んで慕っている。


 ハース国の王家をはじめ宰相、重鎮たちは、研究所に来てセビエスキたちと共に、新しい王制後の体制づくりに精を出している。


 「ブライアン様、おかえりなさい。お疲れさまでした。」

ブライアンが帰ると、キャサリンはブライアンの上着を受け取り、着替えを手伝い、お茶を淹れる。

「ありがとう。」

「すぐにお夕食にしますか?」

「そうだな。腹減った。」

「ふふふ、では、すぐに。」

キャサリンはそう言うと、侍女のマリーと共に夕食の準備をしに行く。平民になってから、キャサリンはマリーに手伝ってもらいながら、家事はほぼ自分でやっている。ブライアンはキャサリンが無理をしていないか心配しているが、キャサリンは

「マリーさんが手伝ってくれてますもの、ぜんぜん楽なものですわ。それに、自分で作ったお料理をブライアン様に召し上がっていただくのって、とっても幸せなんです。私の幸せを取り上げないでー。」

と、嬉しそうに言っている。


 キャサリンが夕食の準備をしている時は、ブライアンはティモシーの守りをしている。

「ティム、きょうはなにか良いことはあったか?」

などと言いながら高い高いをしたりしていると、ティモシーは声を上げて笑っている。それを見てブライアンは、

「おおそうか。良いことがあったようだな。」

などと言っていて、そういうふたりを見ると、キャサリンは幸せすぎて涙が出そうになる。


 「お待たせしました。さあ、どうぞ。」

「おっ、きょうはコロッケか。これは美味いんだ。」

ブライアンは好物が出て嬉しそうだ。

食事をしながら、ブライアンは

「キャサリン、ちょっと聞いてくれないか。まだしっかり整理できていないのだが、ちょっと思いついたことがあってな。」

「はい。何かしら。わくわくしますわ。」

「ははは。この間から考えていたのだが、ノートのようなものを作ろうと思ってるんだ。」

「ノート、ですか?」

「うむ。例えば何か研究するだろ?それをノートに書きつけているよな。だが、それはノートが燃えてしまったり、無くなってしまうと内容がすべて失われてしまう。それで念のためもう一冊ノートに書いたりしているが、それってなかなか手間がかかるものだ。そこでだ、手で紙に書くということをせず、小さな機械に記録するようにするんだ。書くのと同じように記録することもできれば、思いついたことを口に出すと、それを文字に直して記録するようにもできる。さらに、それを電信鳥のように人に送ったりもできる。・・・まあ、ざっというと、そんなところなのだが、どうだろう?キャシーはどう思うか?」

キャサリンはそれを聞いて、ぽかーんと口を開けて黙ってしまった。

ブライアンが心配そうにキャサリンを見て

「キャシー?」

と言って、キャサリンは我に返った。

「ブライアン様、すごいわ、ブライアン様って、やっぱり天才なのですね。」

「何をまたそんな大袈裟な。」

「いいえ、大袈裟なんてことありません。それ、私の前世で一番新しいことでしたのよ。そして、それに至るまでには、200年とか、いえ、もっと時間がかかって、少しずつ少しずつ進歩して行ったことなのです。それを、ブライアン様は一足飛びに思いつかれて。本当にもう、天才なのですね。」

キャサリンは、感動して泣きながら言っている。

「キャサリン、ありがとう。そんなに言ってくれて嬉しいが、しかし、俺は天才だとは思わないけどな。でも、そうか、君の前世でそういうものがあったなら、きっとそれは便利なものだったということだろう。よし。それでは早速それを開発していこう。」

「すごいわ、ブライアン様、すばらしいわ。」

キャサリンは感動して泣きながらブライアンに抱きついている。

「でも、あまり根を詰めすぎないでくださいね。疲れて倒れたりなさったらと思うと心配です。」

「ああ、気を付けるよ。でも、こういうことは楽しくてなあ。やりだしたら止まらないんだ。」

「では私がお止めしますわ。」

「頼むよ。」

こんな会話から、この世界にコンピューターとインターネットが生まれていくのだった。


 ブラッドレー・ウッドフェルドチームは小型の動力工具をいくつも作った。動力で動かすのこぎり、研磨機、かなづち、ねじ回し、等。このおかげで大工や職人たちは作業がものすごく速くできるようになり、もともとこの領の名産品であった家具や木工品が、量産できるようになったので、それを聞いた職人たちが他の領から移住してくるようになった。


 ラルフ・アレックスチームは、ブラッドレー・ウッドフェルドチーム細かいところはに託して、専ら大きな農業機械を開発していった。これによって、耕したり、種を蒔いたり、肥料を蒔いたり、収穫したりといった作業が画期的に速くできるようになり、生産物の量と質が信じられないほど上がった。他の産業と同様に、他領から農民たちが続々移住してくる。


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