幕間・・・ティモシー名付けの由来

 「キャシー、赤ん坊の名前なんだが。」

「はい。何かブライアン様お考えがありますか?」

「ああ、まずはキャシーの気持ちを聞いて、と思っていたんだ。」

「私は、特にこれといって思っていないの。私の一番好きな名前は『ブライアン』ですから。」

ブライアンは思わずキャサリンを抱きしめた。(ううっ、なんと可愛いことを言ってくれるんだ。天使か?女神か?)

「ブライアン様のお考えは?」

「うむ・・・それなのだがな、ブラッドレー様の想い人」

「ああっ!」

キャサリンがブライアンの言葉をさえぎった。

「ごめんなさい。おっしゃってるのを遮ってしまうなんてお行儀の悪いことを。」

「いや。いいよ。キャシーが嫌なら忘れてくれ。」

「違います!その反対です。それ、凄くいいアイデアです。私、どうしてそれに気づかなかったのかしら。お義父様、きっとお喜びになって、可愛がってくださいますわ。」

「良いのか?」

「もちろんです。」

「じゃあ、訊いてみようか。」

「はい!」

キャサリンがにこにこしてブライアンにもたれかかってスリスリしている。

「ん?」

「やっぱり私のブライアン様って優しいな。好きー。」


 そこに、ブライアンの助けが欲しいとラルフがやってきた。

「キャシー、すまない。これは今行かなければならんようだ。」

「ブライアン様、お気になさらないで。例のこと、お義父様に伺ってきますわね。」

「ああ、頼んだよ。」


 キャサリンは父たちの研究室に、赤ちゃん連れでお茶とお菓子を持って行った。

「ごめんくださーい。」

「おや、珍しいね。」

「ふふふ、たまには、ね。」

「ブライアン君がヤキモチ妬かないかね?」

「ほんとは一緒に来たかったんですけど、ラルフ様と至急のご用にいらっしゃいましたので、私一人で来ましたの。」

「ほう。茶と菓子持参とは、気が利いてるな。」

「お願い事がありますので、すこし賄賂でも、と思いまして。」

キャサリンがいたずらっぽく言うと、2人の『おじいちゃん』は、楽しそうに

「それじゃあ賄賂をいただこうか。」

と、早速菓子に手を伸ばした。


 「それで、どんな願いだな?キャサリンの言うことなら何でも聞くぞ。」

「おいお前、それはちょっと危険だぞ。何を言われるか。」

「お前こそ、自分の娘を信用できんのか?」

「うふふ、あの、お願いと言いますのはね、この子の名前のことなんです。ブライアン様と相談してて、やっと答えが出たものですから、それをお助けいただきたいんです。」

「ほう。決まったのか。良かったな、君に名前ができるぞ。」

ブラッドレーはそう言って、赤ん坊をさっと抱き上げた。

「あっ、お前、抜け駆けはいかんぞ。」

出遅れたウッドフェルドは少し悔しそう。

「あの、本当に、お願いをなんでも聞いていただけます?」

「当たり前だ。男に二言は無い。なあ、お前さんも、男だからな、覚えておけよ。」

ブラッドレーは上機嫌だ。


 「では・・・あの・・・お義父様、お義父様が昔愛された方のお名前をいただけませんか?」

キャサリンのこの言葉に、ブラッドレーはそれまでデレデレしていたのが、カチ―ンと固まってしまった。ウッドフェルドは気づかわし気にブラッドレーを見ている。

「い、いや・・・その・・・え?・・・」

「ブライアン様も私も、この子には愛のある人生を送ってもらいたいと思っているんです。たとえ、どんなことがあろうとも、愛する人を離さないと、相手がどんな人でも愛を貫けるようになってほしいと。その為には私たち、全力で応援したいと思っています。お義父様の想い人であった方は、きっと、お義父様のことをとても愛して、その為に大怪我なさって、さらに身を引いて、でも、ほんとはずっと一緒にいたかったことでしょう。お義父様が愛したほどのお方ですから、さぞかし素敵な方だったの ろうと思います。そんなふうに人を愛せる人になってほしいと思います。一緒にいたくても引き裂かれる苦しみはお二人ともよくご存じですから、きっとその愛がこの子を幸せにしてくれるでしょう。そして、その方の分までこの子を愛していただけたら幸せなことだと思います。」


 ブラッドレーはキャサリンの言葉を聞きながら、赤ん坊をぎゅっと抱きしめて、静かに涙を流している。その背中を、ウッドフェルドがとんとんと、あやすように叩いている。

ウッドフェルドは

「ジム、良かったな。」

と、ウッドフェルドも嬉しそうだ。

「いいのか?ブライアン君も、それで?」

「はい。むしろ、私より先にブライアン様がおっしゃったんですのよ。」

「そうか・・・そうか・・・」

ブラッドレーはそう言って頷いている。

「おい、ジム、もったいぶってないで、さっさと名前を言え。」

「あ、ああ・・・ティモシーだ。」

「まあ、ティモシー・・・可愛いお名前だわ。嬉しいです。ありがとうございます。」


 ちょうどそこに、ブライアンがやってきた。

「あ、ブライアン様、私たちの可愛い赤ちゃんの名前は『ティモシー』だそうです。」

「おお、良い名前だな。ありがとうございます。」

「本当に良いのか?」

「もちろんです。な、ティモシー、良かったな。良い名前だ。」


 そこに、ラルフとアレックスがやってきた。ラルフが、父が赤ん坊を抱いて泣いているのを見て

「え?どうしましたか?何かありましたか?」

と、心配そうに父を見た。

ブライアンが

「君のお父上に、赤ん坊の名をつけていただいたんだ。」

というと、ラルフが驚いて

「え?うちの?キャサリンのお父上じゃなくて?」

話がよくわからない、というように訊いてきた。

「ああ。君のお父上が愛した人の名前をいただいたのだよ。」

「えっ。・・・ そ、そうか。それでいいのか?」

「もちろんだ。こちらからお願いしたんだ。きっと天国から喜んでいただけるだろう。」

「ブライアン、キャサリン、ありがとう。・・・いや、なんだか俺も泣きそうだ。」

少し湿っぽい雰囲気になったとき、アレックスが

「よかったね、きっとおじいちゃんにデレッデレに甘やかしてもらえるよぉー。」

と、お茶目に言った。

「それで、なんて名前なの?」

「ティモシーだ。」

「へえー、ティモシーちゃんか。良い名前だね。よろしくねー、ティモシーちゃん。」

「よろしくな。えーと、俺の甥ってことだな。」

ラルフも楽しそうになった。

アレックスが

「そうだ、ちょっと厨房に行って、お祝いの相談をしてくるね。」

と、急いで出て行ってしまった。


 「おい、話があるから来たんだろう。ちょっと待てよ。・・・まったく落ち着きがないというか、なんというか。」

ラルフがそう言って苦笑している。

「まあ、それがアレックスさんの良いところですわ。アレックスさんって、優しくて、気が利いてて、この研究所のムードメーカーですわね。」

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