第43話 作業用マシーン

 翌朝、ブライアンはキャサリンの寝顔を眺めている。

(ゆうべはずいぶん無理させてしまった。きょうはゆっくり休んでもらわないとな。それにしても、キャシーはなんと可愛いのだ。俺はもうだめだ。)

そんなことを考えていると、自然と顔がにやけてきてしまう。

(まずい、今目を覚まされると、このにやけた顔を見られてしまう。)

そう思った時、キャサリンがぱっちりと目を開けた。

「ブライアン様」

「お、お、おう。おはよう。よく眠れたか?辛くはないか?」

「はい。とってもよく眠りました。ブライアン様は?」

「俺もぐっすり眠ったよ。・・・すまない、ゆうべはあんまりキャシーが可愛くて、歯止めがきかなくなってしまって、ずいぶん無理をさせてしまった。本当に大丈夫か?」

「はい。大丈夫。ゆうべはブライアン様、とっても男らしくて素敵でしたわ。私、もう、ブライアン様に夢中です。」

「俺こそキャシーに夢中だよ。」


 2人が熱いキスをしかけたとき、ドアがノックされた。

「おはようございまーす。もう起きてるー?」

アレックスだ。

「ああ、ちょっと待ってくれ。」

「ううん、ドア越しでいいのいいの。朝飯済んだら、急ぎの用が無かったら、ちょっとうちの部屋に来てもらえないかと思って。動力車関連の話をしたいんだ。できればキャサリンも。」

「わかった。まだ朝食取っていないので、しばらくかかるが、良いか?」

「全然OK.. ・・・じゃ、お邪魔しましたー。」


 急いで朝食を済ませ、身支度してラルフの部屋に向かう。

「何かあったのか?」

ブライアンが少し心配そうに訊くと、

「いや、悪い話ではない。動力車は、とりあえずしばらくはこれで作っていけばいいだろう?それでな、今度は大型の作業用マシーンを作りたいのだ。農業のものが良いな。どんなものを作ればよいか、アイデアが欲しい。」

「素晴らしいですわ!でも、そう言うお話ならお父様方をお招きした方が良いのではありませんか?」

「そうだな。ヘソを曲げられても困る。」

ラルフはそう言いながら父たちを呼びに行った。


 全員が集まったところで、作業用マシーンの開発についてだ。

「キャシー、前世ではどういうものがあった?」

ブライアンがまずキャサリンに訊いてみる。

「ええと、農業ですと、耕す機械、種を蒔く機械、刈り込む機械、畜産だと自動餌出し機、搾乳機、などです。お魚は船に大きな網をつけ、それを自動で巻き上げて魚を獲る、というものがありました。」

「おもしろいな。耕したり、種を蒔いたり、収穫するのはすごく大変で体力が要る。それを機械でできれば、すごく助かるだろう。この領地の名産物の野菜や小麦を機械を使って作れば、百姓の人手が少なくて済んで、そのぶん別の仕事ができるようになる。」

と、ブライアン。

「魔力を考えて、人手を他の産業に回せば、この領地の収入が上がって、経済が豊かになれば、人は飢えないから犯罪も減るだろう。子供を働かさなくても良くなって、皆学校に行ける。すべての領民が読み書き計算ができると、領の質がぐっと上がる。どこから手を付けるか、セビエスキ君も呼んでこよう。」

と、ラルフ。


 そしてラルフが部屋を出て、間もなく帰って来た。

「あれ?もう行ったの?」

アレックスが驚いている。

「いや、ミゲールに頼んだ。あいつ、最近仕事をくれって言うんだよ。何かさせてやりたいなあ。」

「まあ、それは良いことですわね。勉強の時間は大事ですけど、それ以外の時間に、何がしたいか、訊いてみてはいかがでしょう?ミゲールはブライアン様のことが大好きですから、普段は恥ずかしがって言わなくても、ブライアン様になら言うかもしれませんわ。・・・そういえば、魔力の鑑定はなさいましたの?」

「おお、そうだな。まずはそこからだ。今戻ってきたらすぐに鑑定しよう。」

ブライアンがそう言って、待ち構えている。


 そこにミゲールがセビエスキを連れて戻って来た。

すぐに部屋を出ていこうとしたミゲールを、ブライアンが呼び止めて、魔力鑑定をする。

鑑定の間、キャサリンが興味深く見ていた。

「ミゲール、お前、けっこう魔力高いぞ。土魔法と光魔法が使えるようになる。早速訓練に参加しなさい。楽しみだ。」

ブライアンがそう言うと、ミゲールは目を瞠って、

「えー、俺、魔法が使えるようになるの?ブライアン様の仕事のお手伝いできるようになる?」

と言ってブライアンに抱き着いてきた。

「ああ、まずは土魔法を身に着けよう。そうすれば、動力が作れるようになる。土魔法を使える者は、これから何人も必要になるから有難いよ。」

ブライアンがミゲールの頭をぽんぽんと叩いて、ミゲールはそうされてとても嬉しそうだ。


 ブライアンがミゲールを構っている間に、ラルフは機械の話の説明をした。そして、

「この領地が他の領に比べて豊かで、教養も高く、何より格差、差別のない場所になる。この領地が富めば富むほど、王家から目をつけられるだろう。だが、それよりも、きっと他の領から来る者のほうが多いだろう。王家対策は別に考えるとして、セビエスキ君は領主としてどのようにしていくか、計画を聞かせてほしい。」

と頼んだ。

「まずは、他の領から来た者には基本的な教育を施します。そして魔力がある者には魔法の訓練をし、相応しい仕事についてもらい、そうでないものには、魔法が使えなくてもできる仕事をしてもらいましょう。先ほどの機械の操作ができるようになれば、それぞれ仕事はいくらでもありますから、人手ができて助かります。そして、王都に行って意識改革をする者も養成しましょう。・・・しかし、王家対策が心配ですね。」

「それですが、ブライアンと俺でかなり強い結界を張ろうと思う。結界と同時に幻惑魔法も使うことで多少はごまかせるかと思うんだ。あとは、アレックスの親戚を頼ってハース国に協力してもらう。ブライアンはここの最も頼りになる存在だが、彼の弱みはキャサリンとティモシーだ。そこで、この2人をハース国に保護してもらうか、または、ここで厳重な警戒をするか、どちらが良いか、まだ決めかねている。結界や幻惑魔法は、少しは期待できるが、すぐに見破られてしまうだろう。もっとも危険なのがキャサリンとティモシーだなあ。」


 アレックスが

「ハースはね、俺の親戚が王家に嫁いでるから確かな情報のはずなんだけど、王家が王制を終わらせたいと思っているんだって。だから、けっこう簡単だと思う。あと、なんだか足元を見るみたいでちょっと嫌な気分だけど、王家に何人か重病だったり障害がある人がいるそうなんだ。その人たちを治してあげれば、きっとそれを恩に着ていろいろ協力してくれるんじゃないかな。その辺は、うちの父から話を持っていくといいかも。」

「それならさっそくハース国に話を持って行って、共に戦うようにするというのが良さそうだな。キャサリンとティモシーもハース国に住まわせてもらって、ブライアンもハ―ス国から転移でこちらに通えば問題ないだろう。」

「もう、いっそのことハースを全部まきこんじゃう?」

「それもいいかもしれないな。」

「ローザニア国はセビエスキ領と、トーレス領、それにハース国を入れて共和国のようにすれば、ハース国はかなり大きい領地の国だし、うちの王家が戦っても勝ち目はないだろう。」

「状況がこちらに有利になると、こちら側につく貴族も増えていくだろう。結局のところ、いままで貴族だとふんぞり返っていた者が王側につくことになるだろうな。」

「そんな奴らは叩き潰せばよい。」

いきなりブラッドレーが過激なことを言う。

「ぶははは、いちばん落ち着いていて慎重なはずのお父上様が、いちばん過激って、ラルフィー、おまえんちって、どうなの、これ。」

アレックスが笑い、皆も笑い出す。

「何を言うか。年は取っても、悪い奴らに遠慮などせんわ。良い若いもんが、何を腑抜けたことを言っておる。」

ブラッドレーが言うと、ウッドフェルドも

「そうだ。儂らが先鋒となって、旧態依然とした腐った奴らを叩きのめしてやるわ。」

と息まく。


 セビエスキが

「キャサリン殿、前世は王制ではなく、身分の差のない世の中だったということでしたが、それは実際どのように国がまわっていたのですか?」

と、キャサリンに質問した。

「ええっと、国の民は全員同等ですので、大人は全員『選挙権』という権利を持ちます。これは、国を管理、運営していく代表者たちを選ぶために『選挙』ということをするんです。たとえば、王にあたる人、宰相にあたる人、騎士団長にあたる人、等、いろいろな分野のトップを選挙で決めます。選挙はそれぞれの役に相応しいと思われる人を自薦他薦を問わず出して、そのなかから、民がどの人が良いか投票します。これは無記名ですので、誰が誰に投票したのかわからないようにしてあるので遺恨を残しません。それで選ばれた人たちで国をまわしていくんです。権力が誰か、どこかに集中することのないよう、だいたい数年ごとに選挙をしていきます。」

「なるほど、良いシステムだな。キャサリン殿、近いうちに今の話をうちのチームで話してもらえないだろうか。」

「はい。こんな程度のことしかわかりませんけど、それでもよろしければ。」

「ありがとう。」

 アレックスが手を挙げた。

「はい!ハースに説明するかもしれないから、俺も一緒に聞いてもいい?」

「もちろん歓迎する。」

アレックスがこそっとブライアンに

「魔除けは任せてね。」

と囁いた。


 「おい、ラルフよ。」

ブラッドレーが息子を呼んだ。

「なんでしょう、父上。」

「これから、産業機械を作るにあたって、お前のチームとうちのチームと合同にしないか?おおきいところは任せるので、細かいところはうちに任せてくれ、どうだ?」

「そうですね。動力は、ブライアンチームに任せて、できるだけ早く作りましょう。」

「おおー、腕が鳴るぞ。農耕に機械が使えれば、どんなに助かることだろう。飢える者がいなくなるなど、夢のようだ。」


 解散となって、ブライアンがキャサリンをブライアンチームの部屋に招いた。

「キャシー、皆より前にまずは君に紹介したいのだが、ゼレさんのご友人がお見えなのだ。」

「まあ、ここまでお越しいただいたのですか。」

「おお、キャサリン、よう来てくれた。わしの古い友を紹介しようと思うてな。これがマヨン、これはロミじゃ。わしらはもう長い長いつきあいじゃよ。」

「マヨン様、ロミ様、初めてお目にかかります、キャサリンと申します。ゼレおばあさまには、それはもう、お世話になっております。マヨン様、ロミ様、これからおつきあいただけましたら、こんなに嬉しいことはございません。」

「やだねえ、あたしゃそんなかたっくるしいのは苦手さ。このゼレばあさんが面白いことしようっていうから、来てみたさ。なにするんだい?」

「あたしゃね、どうせみんなあたしらのことなんか、薄っ気味悪くて見たくもないだろうからさ、来るのやめとこうって言ったんだ。それがほれ、ゼレが無駄飯ばっかり食ってないでなんかしろって言うからさ、まあ、おもしろいことがあるならやってもいいよ。」

「ふふふ、ありがとうございます。あの、私たちの子供のティモシーをご紹介させていただいてもよろしいですか?」

「おうおう、ゼレがメロメロの赤子じゃろ?」

ちょうどそこへ、ブライアンがティモシーを抱いて連れてきた。

「おお、おお、このお子か。いや、かわいいもんじゃな。なるほど、ゼレがメロメロになるのもわかるってもんじゃ。」

「おかあさんがこんなに美人さんで、おとうさんもこんなに男前じゃから、ティモシーちゃんもさぞやさぞ男前になることじゃろう。」

「うむ、もう少し生きておろうかの。」

「だから言うたじゃろ。無駄飯ばかり食っとらんで、なんか役に立つことしにこいと。」

「ああ、そうじゃったな。なんかどえれえ人たちの集まりなんじゃろ?」

ブライアンが進み出て跪いて

「マヨン様、ロミ様、もしお許しいただけるのでしたら、これからゼレさんと共に、我々に力をお貸しいただけませんか。この研究所の者たちは、皆、お教えを乞いたいと願っております。」

と言うと、

「あんれまあ、おいゼレさんよ、こーんな男前さんに跪かれちまったよお。」

「いやあ、長生きするもんだ。ゼレさん、こりゃあ断れねーなあ。どっか庭の隅にでも居着くかね。」

「とんでもない。おふたりにはそれぞれ部屋を用意しますので、そちらに。」

「ひゃあー、そちらもどちらも、とんでもねえこったよ。」

「あんたら、しっかり働けよ。ワシらが魔女の評判ちっとでも良くして、他の魔女たちの評判をあげようじゃないか。」

「そうさね。これだけ長生きしてきたんだ、ひとつくらい良いことしてもバチ当たらんな。」

魔女たちは楽しそうに話をしている。


 それからブライアンは談話室にマヨンとロミを案内し、そこに研究所の皆が集まってきて、楽しいひと時を送ったのであった。

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