第40話 誕生

 この頃は、カレー店の開店に向けての準備で忙しい。


 キャサリンも大きなお腹を抱えて、カレー店の帽子やエプロンを作ったり、カレー作りを手伝ったりしている。

その日も帽子とエプロンができたのを皆に披露してから、厨房に行って持ち帰り用のカレーを工夫していた。


 ふと、キャサリンは違和感を持った。

良く動く赤ちゃんではあるのだが、きょうの動きはなんだかいつもと違う。

ちょっと心配になって、でも、大忙しの厨房の人たちの手を煩わせたくないので、ひとりでそっと厨房を後にした。

そろそろと部屋に戻る廊下を歩いていると、いきなりバシャーっと下半身に温水をかけられたように感じ、それと共に強烈な痛みが襲ってきた。

周りを見ても、誰もいない。

でも、歩くどころか立ってもいられない。

キャサリンは痛みで気が遠くなってきたが、必死で気を確かに持ち、

「助けてー。誰かー。」

と叫んだ。


 何度か叫んだところに、ひょいと顔をのぞかせたのはセビエスキだった。

「キャサリン殿、どうしました?」

「あの・・・急にお腹が痛くなって、すみません、ゼレさんとブライアン様を呼んでいただけませんか?」

「は、はい。ここで待てますか?」

「はい。」

セビエスキは血相を変えてゼレとブライアンのいる部屋に走り、ドアを勢いよく開けると大きな声で

「すみませんっ」と言った。

「どうしたっ?」

「キャサリン殿が廊下で具合が悪くなって、ゼレさんとブライアン殿を呼んでくれと。」

「なにっ。どこだ?」

「ブライアンさんよ、慌てるでない。産まれる時が来たのじゃろう。セビエスキ様、キャサリンさんはどこに?」

「はいっ、こちらです。」

セビエスキに案内されてブライアンはゼレを担いで走った。

キャサリンは廊下に座り込んで肩で息をしている。

ゼレが

「おお、破水したのじゃな。痛いじゃろうがな、少し辛抱するのじゃぞ。おかあさん。」

そう言うと、ブライアンに

「キャサリンを部屋まで運んどくれ。」

セビエスキには

「それからあんた、厨房から湯をたくさんもらってきとくれ。それから、手伝いが2人いる。女が良いな。呼んできとくれ。」

と指示し、ブライアンとキャサリンの部屋に急いだ。

ブライアンはキャサリンを抱きかかえ、「走ってはいかんぞ」というゼレの指示を守り、速足で部屋に向かう。

途中、ひとり、ふたりと心配して人がついてくる。ウッドフェルドも心配そうにブラッドレーと共に部屋に急ぐ。


 ブライアンはキャサリンをベッドに寝かせると、おろおろしながら、ゼレを見る。

ゼレはそんなブライアンに

「おい、しっかりせんか。おまえさんはキャサリンの手を握っていてやれ。」

と言い、やってきたスーザンとシドニーに手を洗い、敷物を敷き、両側で赤ちゃんが出てきたら受け止めるように指示した。

湯は厨房から続々と届いている。

キャサリンはあまりの痛さに気を失いそうになるが、ゼレに「しっかりせい、おかあさんじゃろ。」と言われて、必死に我慢している。

ゼレに掛け声をかけられてキャサリンがいきむが、なかなか生まれない。掴んでいるブライアンの手にキャサリンの爪が食い込み、血が出ている。

「キャサリン、頑張れ、頑張れ」

ブライアンは必死にキャサリンの顔にキスをしたりしながら励ましている。


 「ああーーーっ」

キャサリンがひときわ大きな声を出したかと思うと、赤ちゃんの大きな泣き声が部屋に響き渡った。

「おおっ、でかしたぞ、キャサリン。元気な男の子じゃ。おめでとう。」

ゼレがそう言って赤ちゃんを取り上げ、手早く産湯に使い、タオルにくるんでキャサリンに抱かせる。

キャサリンが赤ちゃんを見て、泣きながら、

「はじめまして、私の赤ちゃん。なんて可愛いの。ブライアン様」

というと、ブライアンも泣きながら

「キャサリン、ありがとう、ありがとう。愛してる。キャサリン。」

と言って顔中にキスをした。


 部屋の外ではウッドフェルドやブラッドレー、ラルフ、アレックスらが産声を聞いた途端に大歓声を挙げて皆で抱き合って喜んでいる。

感動して泣いている者も何人もいる。

しばらくして、ゼレが部屋から出てきて

「元気な男の子じゃよ。キャサリンも赤子も健康じゃ。いや、めでたいのう。」

と言って楽し気に笑った。

レスターが

「おい、野郎ども、ホールで祝杯の準備だ。」

と声をかけると、厨房の者たちは一斉に小走りに厨房に向かっていった。


 皆はぞろぞろとホールに向かう。

ウッドフェルドたち家族はまだ部屋の外で待っている。

そこにブライアンが出てきて、

「元気な男の子でした。キャサリンは良く頑張ってくれました。みなさん、応援してくれて、ありがとうございました。」

と、深々と頭をさげた。


 それから順番に、まずウッドフェルドとブラッドレーが部屋に入る。

キャサリンは疲れた顔をしてはいるが、実に幸せそうに生まれた我が子を見ていたが、2人の父を見ると微笑んだ。

「おう、おう、可愛いのう。はじめまして。おじいちゃんだぞ。よろしくな。」

ウッドフェルドがちょんと赤ん坊の頬を突っついて、そしてキャサリンを見て、

「キャサリン、でかしたな。」

と言った。

続いてブラッドレーが

「はじめまして。おじいちゃんだぞ。いっぱい遊ぼうな。」

と、やはり頬をちょんと突っついた。

「おい、おまえ、いつおじいちゃんになった。」

「いいじゃないか、おじいちゃんで。」

「まあ、そうだな。おじいちゃんは2人いてもおかしくないか。だが、抜け駆けはするなよ。」

「なんだと。そんな卑怯な真似はせん。正々堂々と遊ぶさ。」

ウッドフェルドとブラッドレーの間で、なにか協定が結ばれたようだ。

そのやりとりを見て、キャサリンとブライアンは顔を見合わせて笑っている。


 ドアがノックされ、ラルフとアレックスが

「時間です。変わってください。」

と急かした。

「なに、もう時間なのか。・・・まあ、しょうがない。疲れさせてもいかんからな。おまえたちもすぐに出て行けよ。」

「わかってますよ。っていうか、まだ会ってませんし。」

交替したラルフとアレックスは

「可愛いなあ。ちっちゃいなあ。赤ん坊って、こんなに頼りなげで、可愛らしいものなんだな。」

2人ともウルウルしている。

「おじちゃんですよー。遊ぼうねー。」

「これは悪いほうのおじちゃんですよ。僕は良いおじちゃんだからね。遊ぼうね。」

などと言っている。


 ゼレが入ってきて

「さあさあ、おかあさんと赤ちゃんは疲れているから寝かせてあげとくれ。みんなホールで待っとるよ。」

と、4人を追い立てる。


 ブライアンは残り、

「キャサリン、ありがとう。よく頑張ってくれたな。自分の子供がこんなに可愛いものだとは想像もできなかった。これからは間違いなく、命を賭けてこの子と君のために頑張る。愛してるよ。」

そう言うと、キャサリンにそっと口づけた。そして、赤ん坊の頬にも恐る恐る口づけた。

「ブライアン様、この子は私たちの一番の宝物ですわね。一生懸命育てます。ブライアン様のお子を産ませていただいて、ありがとうございます。私、とっても幸せです。」

しばらく2人は赤ん坊を見て、それからお互いを見て、微笑んだ。

「おばあさま、ありがとうございました。」

「よう頑張ったの。かわいいお子じゃ。きっと両親に似て、賢く優しい子になるじゃろうよ。」

「おばあさま、これから可愛がってやってくださいませ。」

「あたりまえよ。さあ、おまえさんとあかちゃんは、しばらくゆっくり休みなさい。起きたらお母さん業が始まるからな。」

「はい。おばあさまもおやすみになって。」

「はいよ。じゃあ、ゆっくりな。」

ゼレがそう言って出て行った。

ブライアンは

「俺はもう少しここにいる。君が寝るまで見ているよ。」

キャサリンの手を握って、髪を撫で、やさしく見守っている。

髪を撫でられて気持ちが良いなと思いながら、キャサリンは眠りについた。


 キャサリンと赤ちゃんがすやすやと眠っている頃、研究所のホールはどんちゃん騒ぎだった。

もちろん赤ちゃんのお誕生祝いの宴会だけれど、それに便乗して、魔力鑑定後すぐから毎日猛訓練と猛勉強をしている新人くんたちを労う意味も兼ねている。新人くんたちは、自分たちが思いもかけない人生の大転換に驚き、緊張し、やる気漲り・・・要するに頑張りまくって疲れているのだ。しかも緊張と興奮のために疲れている自覚がない。そこで、研究所の皆でそれを労わろうというわけだ。レスターたちが用意したハンバーガーやカレー、その他いろいろなおつまみと新人くんたちは研究所に来てから初めて飲む酒にかなり酔い、ある者は泣き上戸なのか、赤ちゃんが可愛いと言っては泣き、キャサリンが優しいと言っては泣き、ブライアンが素晴らしいと言っては泣いている。訓練の皆はそろってブライアンの優秀さにすぐに憧れ、そんなすごい人なのに気さくに話をしてくれると感激し、皆が皆、大ファンになっている。ラルフとアレックスも同様で、ラルフの上品さに感激し、アレックスの人懐っこさに感激し、ブラッドレーとウッドフェルドの大貴族オーラがまぶしいと、土下座する勢いで慕っている。


 そんな中、スーザンとシドニーはふたりで部屋の隅でぼんやりしていた。

「はあー、かわいかった。天使よね、天使。」

「私、指をぎゅって握られたとき、もう、この指切って差し上げますって言いそうになったわ。」

「キャサリン様が、まさに聖母スマイル。」

「そうそう、もともときれいな方だとは思ってたけど、なにあれ、きれいなんてもんじゃなくって、後光がさしてたわよ。」

「すっごく痛そうで、すっごくつらそうだったのに、ありがとうなんて言われちゃって。」

「ねー、私たちにおつかれさまなんて言われちゃってさ。」

「もう無理。尊すぎる。」

「わかる、ほんと無理。」

「それでさ、ブライアン様がずっと手を握ってて、キャサリン様が爪立てちゃってブライアン様の手から血が出てさ、それをキャサリン様が見て、ごめんなさいって。」

「あんなに痛そうな時にブライアン様を気遣うキャサリン様ってなんなの?女神様なの?」

「ブライアン様も頑張れ、愛してる、なんて言っててさ、生まれたらありがとうって泣いてらしたわよね。」

「いいなあ。あんなだんなさんほしいよー。」

「無理。あれはキャサリン様だからああいうだんなさんなのよ。」

「そっか。そうよね。お似合いよね。」

「でもさ、子供産みたくなった。」

「そう、私も。」


 「おい、おまえたち、そこでなにぼーっとしてるんだよ。」

「あーなんだ、メルか。」

「なんだじゃないだろ。」

「私たちはね、今、尊いもの見て感動してるんだから、あんたみたいな下世話な人と話すと尊みが減るからあっち行って。」

「なんだよそれ。」

そこに、

「おーい、メル。新しいワインが来たぞ。ちょっと1本くすねてきてくれ。」

と、もう酔っぱらっている声がメルを呼んだ。

「ちぇっ、なんだよ、人使い荒いなあ。」

メルはしぶしぶとチームのテーブルに戻っていく。

「あーあ、なんだか現実に引き戻されちゃったわ。」

「スーザン、そんなこと言って、メルに悪いわよ。」

「えーだって、メルはキャサリン様とブライアン様の愛の世界とは程遠いじゃない。」

「そりゃあまあねえ。でも、メルだって良い人だしさ、スーザンのこと、気にいってるみたいだし。」

「やだ。私は気にいってない。」

「そんなこと言ってー。」

シドニーは、はぁ、とため息をついた。


 「あら?ブライアン様は?」

マチルダがブライアンを探している。

「さあ、さっきまてそこでジョーたちとしゃべってたけどな。」

「ふーん。そう。」

「なんだよ、きょうは魔法のこととか勉強のこととか訊くなよ。」

「わかってるさ。うるさいねえ。あ、いた!」

「いた、じゃねえだろ。いらっしゃいました、だろうがよ。まったく、失礼な奴だ。」

マチルダは無視してブライアンのところに急いだ。


 「ブライアンさまあ。」

「ああ、どうですか?ちゃんと飲んだり食べたりできてますか?」

「はい。ありがとうございます。」

「それはよかった。では」

「あ、まって」

「はい。なにか?」

「あの、赤ちゃん、おめでとうございます。」

「ありがとう。」

「これから大変ですね。」

「そうだな。初めての経験だから、いろいろ手探りで頑張らないといけないよ。」

「いろいろ聞いてます。赤ちゃんできると奥さんって身なりに気を使わなくなったり、怒りっぽくなったりして、だんなさんはほっとかれるんですよね。」

「ははは。忙しいとそうなのかもしれないな。」

「あの、ブライアン様、寂しくなったら私、いつでもお相手しますから。」

「?」

「だからね、奥様が構ってくれなくて寂しくなったら、あたしが代わりにしてあげますよ。あたし、わかってましたよ。ブライアン様は奥様が妊娠中からたまってたんでしょ。それで特に私に目をかけてくれてたって。」

「は?」

「奥様はお嬢様育ちでしょ。わがままでしょうね。子供の世話なんかしたらいらいらしてブライアン様に八つ当たりするでしょうよ。そんな時にはあたしが気持ちよくしたげますからね。」

「君は何を言っているんだ。」

ブライアンが声を荒らげた。

「どいてくれ、汚らわしい、不愉快だ。」

皆の視線がブライアンとマチルダに集中する。

レスターが察知して中に入った。

「ブライアン様、そろそろ奥様もお目覚めかもしれやせんぜ。ここはあっしにお任せ下せえ。」

「そうか。ありがとう。」

「あ、まって、ブライアン様ぁ。」

ブライアンは腕を取ろうとしたマチルダを振り切ってホールを出て行った。

「おっと、おまえさんはこっちだぜ。」

レスターがマチルダの腕をとってホールを出ていこうとする。レスターとマチルダを見ていたセビエスキが

「私も一緒に行こう。」

と同行する。


 ブライアンはむかむかして物でも蹴とばして八つ当たりをしたかったが、キャサリンの部屋の前まで来ると、ふと気分が凪いで、静かにドアを開けて入った。

キャサリンは眠っていたが、ドアの開く音で気づいたのか、目を開けた。

「ブライアン様」

「どうだ?痛むか?」

「いいえ、大丈夫。赤ちゃんの寝息が可愛くてね、ずっと見てました。」

「そうか。ほんとに可愛いなあ。」

「きっとブライアン様に似て聡明な子でしょうね。」

「きっとキャシーに似て優しい子だよ。」

ふたりで赤ちゃんを見て、それから顔を見合わせてにっこり笑った。

ブライアンは心の中で、キャシーの優しい心に触れて赤ん坊の無垢な寝顔を見たら、汚らしいものを見た自分の目が洗われるような気がした。


 その頃、レスターはセビエスキと一緒に談話室にいた。

ラルフとアレックスも加わった。

マチルダはふてくされて座っている。

「なにさ、えらいさんが集まって、なんなのさ。あたしは親切で言ってやったんだ。世の中の男なんてね、女房が妊娠するとできなくなるもんだから溜まって大変なのさ。あたしゃわかってたんだよ。ブライアン様はいつもあたしのことをそういう目で見てたさ。だから相手してやろうって言ったんだ。それをなんだよ。まるであたしが悪いみたいに。」

ラルフが

「やめろっ、ブライアンはそんな男ではないっ。」

と、めずらしく激しい口調で言った。アレックスがラルフの手を握って止めている。

「なんだよ、わかってないねえ。ブライアン様は平民なんだろ。それがお偉い魔導士になろうと思って、わがままなお嬢様と結婚したんだろ。でもね、所詮金目当て、地位目当ての結婚なのさ。わがまま娘はどうせろくでもない閨だろうし、満足できないんだよ。あたしなら満足させてや」

そこまで言ったところで、セビエスキが今にも殴りかかりそうな勢いで怒鳴った。

「黙れっ。汚らわしい。おまえなんかになにがわかる。」

レスターがセビエスキを後ろから羽交い絞めにして止めた。

「どうした?ずいぶん騒がしいな。」

ブラッドレーとウッドフェルドがやってきた。

「これはこれは、おじさまふたりのお越しかね。ねえちょっと、この若い人たちに言ってやってくださいよ。もう、おぼっちゃんばっかりで、なーんにもわかってないんですから。」

 マチルダがまだ何か言っているが、アレックスがブラッドレーとウッドフェルドを部屋の外に連れ出して説明し、ブラッドレーとウッドフェルドはそのまま戻らず。アレックスだけが戻って来て、ラルフとセビエスキとレスターに、マチルダにいくばくかの金を持たせてクビにするように助言されたと伝えた。それを受けて、ラルフは金を用意し、セビエスキと共ににマチルダに引導を渡す。マチルダは少し抵抗したが、ある程度まとまった金額であったことから、意外とあっさりと出ていくこと、以後絶対に研究所とかかわらない、等の誓約書にサインをした。


 ブラッドレーとウッドフェルドは、

「いや、とんでもないのがいたもんだ。」

「ブライアン君が気の毒だったな。」

「レスター君が良い仕事してくれた。礼を言わんとな。」

などと話していた。


 セビエスキは、教育の重要さをあらためて感じ、チームでそれを話し合うことにした。

「学習は、読み書きだけではないと、きょうの事件で再認識した。これから皆はどう対処していこうと思うか、忌憚のない意見を聞かせてくれ。」

「品性下劣というんですか、そういう者も多いと思います。そういう者には体験実習が良いかと。」

「どのような?」

そこで皆が詰まった。

「ひとつは同僚との交流から、いろいろな体験を聞いて、自分の人生を振り返ってみる、みたいなことでしょうか。」

「なるほど、そうだな。それは大事なことだ。」

「あの・・・私はきょうスーザンと一緒にキャサリン様のお産のお手伝いをしたんですけど、キャサリン様は、お産の強烈な苦しみの中でも、周りを気遣い、労ってくださいました。私、それに接して、なんていうか、心が洗われるような気がしました。キャサリン様はごく自然にそういうことをなさっているので、なおさらその威力がすごかったです。もう、女神様に会ったのかって思ったくらい感激しました。めったにできる経験ではありませんけど、ああいう経験をしたら、すごく勉強になると思いました。」

「貴重な経験をしたのだな。だが、いつでもできることでないのがなあ・・・」

「そうだ!前に、キャサリン様が王都邸の使用人たちが再就職先に困らないように、王都邸を宿屋にするとかいうことを聞いたことがありますが、そこの体験学習はどうでしょう。または。孤児院を開いてそこで体験学習とか。」

「それなあ、つまりはキャサリン様だ。キャサリン様とのふれあいの時間が良いってことだな。」

「そうか、たしかにそうだな。」

「でも、ご出産のすぐあとだし、 ご負担になるようなことは・・・」

「じゃあ、キャサリン様が赤ちゃんとお庭を散歩なさるときにご一緒させていただくっていうのは?」

「あ、わかります。そばにいるだけで、オーラに触れるだけで、なんだかこう、あったかい気持ちになれるから、いいかも。」

「子供は純真だからいいですね。ここにも2人いますよ。ミモザちゃんとミゲール君。あの子たちと一緒のクラスは心が和む。」

「マチルダは授業の時どんなだったか?」

「サボり魔でした。魔法の訓練は役に立つからいいが、勉強は必要ないと言ってました。」

「あの、今回のマチルダは酷かったですけど、世の中にはあんなふうなどうしようもない奴も大勢います。それらを再教育なんてできないでしょう。特におとなは無理だと思います。だから、まず魔力鑑定の時に『こういう場合は契約解除』って説明しておいけばいいってだけじゃないかと。教育と言っても、全員をまともになんかできないでしょう。木を見て森を見ず、にならないよう、ある程度は割り切っていくべきではないかと思います。」

ロナルドの言葉に全員がはっと気づいた。

「俺も賛成。あとは、宿泊所に管理者を置いたほうが良いと思います。今後、盗みを働くものも出てくる可能性は大いにあります。」

「結局おとなは世間からそれぞれが学ぶしかないかもしれません。今回集まった者たちは、ほとんどが百姓、ほかには職人です。無学ではあるけれど、生活の重みは知っているので、あまり心配はいらないかと。」

「ひとり娼婦がいたが、彼女はどうだ?」

「彼女は大丈夫ではないかと思います。訓練も勉強も熱心です。ただ、自分の身の上を恥じているように見えるので、その辺のフォローは必要かと思います。それこそ、キャサリン様にお任せするのが一番かもしれません。」

「そうですか。まあ、キャサリン様は産後間もないからな。頼めば引き受けていただけそうだが、しばらく様子をみよう。それでは。ジェームスさんに規約と契約書を頼んで、あとはそれぞれ教官が注意を怠らずに頑張ろう。」

「「「「はい!」」」」

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