第39話 2号店?それとも

 キャサリンのお腹もずいぶん大きくなってきた。

この頃はお腹の中で赤ちゃんが動くのが痛いくらいだ。

ブライアンと一緒にいるときに赤ちゃんが動くと、キャサリンはブライアンにすぐにそれを言う。するとブライアンはキャサリンのお腹に手を当てたり耳を当てたりして、赤ちゃんと話をする。

「かあさまのお腹の中はあったかいか?俺も待っているからな。生まれてきたらたくさん一緒に遊ぼうな。」

キャサリンは、ブライアンがお腹の中の赤ちゃんと話をしているのを見ているのが大好きだ。なんて幸せなんだろうと、涙が出そうになる。いや、実際涙が出る。

「ブライアン様、どうしてそんなに優しいの?ブライアン様は本当にこの世で一番素敵なだんなさまです。」

キャサリンはそう言ってブライアンの膝に乗り、ブライアンはキャサリンを抱き寄せてキスをした。


 そこにドアが開いて

「あっ、し、失礼しましたっ。」

と、走り去る物音。

「あーまたセビエスキさんだ。」

「あら・・・」

そこへ、レスターが現れた。

「あれまあ、今、セビエスキさんが血相変えて走り去っていったので、何かと思ったら、なるほどね。」

と、レスターがニヤニヤしている。

「お邪魔でしたかな。」

「いや、別にいい。邪魔と言えばいつでも邪魔だが。」

「ぶははは、はっきり言ってくれますな。でもまあ、お邪魔しますぜ。」

「私、お茶淹れますわ。」

「いや、いいです。それより話聞いて下せえ。」

「はい。」


 「あのファストフード店、てーへんなんです。もう、連日満員で、それと、店員になりたいって人が押しかけるし、てんやわんやでね。ちょっと早いですけど、2号店出したいと思って。」

「まあすごい!レスターさん、すごいですわ!」

「いや、もともとはキャサリン様のレシピじゃないすか。でも、あれはたしかに美味いし、飽きないですな。」

「真似する店も出てきそうなのに、そうでもないのか?」

「どうなんでしょうねえ。まあ今は、店員になりたい人が大勢で、断るのがてーへんですよ。」

「セビエスキさんは何と言ってる?」

「たぶんそれでさっきここに来て、すげえもの見ちゃって逃げ出したんだと思いますぜ。」

レスターが笑っている。

「2号店出すなら手伝うよ。食器洗い機を使えばだいぶ良いし。」

「あっ、ブライアン様、エアーフライヤー。」

「ん?」

「揚げ物をね、油をすごく少なくできるんです。それ、身体にもいいし、油買う量も少なくできるしその機械作っていただけたらいいなあ、って思って。」

「ほう、それはいいな。健康的なものという売りにできる。」


 「レスターさん、開店はセビエスキさんに相談してください。それと、もし2号店ではなく、別の食堂をということなら、キャサリンが他にも美味しいレシピを持っているのでそれでもいいかも。」

「そうですわね。カレー屋さんもいいかも。」

ブライアンがすぐに

「あ、カレー専門店か。そりゃあいいな。俺も毎日でも通いたい。」

と言い、キャサリンが笑っている。

レスターが

「なんです?そのカレーってのは?」

と訊くと、キャサリンが答える前にブライアンが

「あれは美味いんだ。あれを出せば絶対売れる。」

と保証した。

「ふふ、ブライアン様ったら。」

キャサリンが笑っているところへ、アレックスがやってきた。

「カレーの話してるの?あれは美味しいよね。俺、カツカレーが好き。」

アレックスが言うと、ブライアンが

「カツカレー、ああ、食いたい。」

と言う。


 キャサリンが

「レスターさん、カレーって言いますのはね、あの、セビエスキ・バーガーで売ってるカレーパンあるでしょ?あれの中のものに似た味のものをご飯にかけていただくものなんです。それだけでもおいしいですし、カツとかハンバーグとかと一緒にしてもおいしいです。前の世界でも人気のメニューで、カレー専門店がありました。」

と説明すると、アレックスが

「あのカレーパンも美味しいよね。あのカレーパンでキャサリンに惚れた魔導士が何人もいたよ。」

と言った。

「そうだ、けしからん。」

ブライアンが忌々しそうに言う。

アレックスとレスターが噴き出して、

「あっははは、ブライアン、今はカレーの話ね。」

と言って笑っている。

キャサリンはブライアンの頬にチュッとキスをした。

「ゴホン、まあ、そんなわけで、カレーは美味い。セビエスキさんに相談するといいと思うぞ。」

と、ブライアンは、にやけそうになるのをこらえて言った。


 「ちょっとキャサリン様のレシピを見て作ってきます。あとで味見してくだせえ。」

と、レスターが急いで厨房に戻っていった。

「さて、じゃあ俺はそのエアーフライヤーというものを作ってみよう。」

とブライアンが部屋を出ていこうとすると、アレックスが

「なにそれ?俺も見に行っていい?手伝うよ。」

と言って一緒に行った。

キャサリンは、様子を見ようと厨房に向かった。


 キャサリンが厨房に行くと、レスターたちがわーわー言いながらカレーを作っている。

カレーパンの中身は肉や野菜を炒め、それにカレー粉をかけたが、カレーはルーを作るので、ちょっと勝手が違う。

焦がしてしまう者もいて。格闘中だ。

キャサリンが、フライパンを借りて、作って見せた。

「なるほど、このくらいにするんですね。俺のは水っぽすぎたな。」

と言う者もいれば、

「俺のは硬すぎた。」

と言う者もいた。

結局ちょうどいい具合のルーを作り、それからカレーにすると、なかなか美味しい匂いが立ち上って来た。

それをごはんにかけて試食。

「うんめえー、なんだこりゃ。」

「あー、こりゃあ売れるわな。」

「おかわりー。」

「おいおい、味見におかわりかよ。」

「だって、もっと食いたいもんよ。」

なかなか好評である。

「よし、談話室に持って行って味見してもらおう。」


 談話室には結構な人数がいたが、味見用の皿数は足りそうだ。

レスターたちは皆に試食してもらい、感想をもらおうとしたのだが・・・

「うわ、なにこれ、美味いな。もっとくれ。」

「おいしいー。おかわり!」

「俺も、もっと欲しい。」

「これだけしかないのぉ?」

そんなわけで、大好評だった。

もっと欲しいという者たちが、厨房に行けばもらえるということで、ぞろぞろ厨房に行く。


 厨房では、キャサリンがいて何かを作っている。

レスターが

「おや、キャサリン様、なにしてらっしゃるんで?」

と言うと、キャサリンが

「あら、レスターさん、勝手なことしてごめんなさい。ちょうど今できたところです。ちょっと待ってね。」

そう言うと、揚げたてのとんかつを切ってご飯の上に乗せ、そこにカレーをかけた。

「はい、お味見。」

レスターがそれを一口食べて

「ああー、もう、これ、最高。」

と言う。皆がごくりと唾を飲み込んだ。

キャサリンは皆にも味見用にカツカレーを出した。

「うわ、これは優勝だな。」

「もっと欲しい。」

「おかわりー。」

「よかった。みなさん気に入っていただけたみたいですわね。これね、本来はこうやっていただくんですのよ。」

キャサリンはそういうと、とんかつにソースをかけて

「はい、お味見。」

と出した。

「ああ、これも優勝だ。」

「こっちもいいな。日替わりで毎日食べたい。」

などと大好評であった。

「他にもアレンジできますので、レスターさん、あとでまたレシピ作りますわね。」

「ありがとうごぜえやす。」


  そんな時、セビエスキがレスターに

「レスターさん、ハンバーガーの2号店ではなく、カレー屋を出しませんか?」

と言った。

「そうですね。これは間違いなく当たる!」

「いろいろな具材で出せばいいかと。たとえば、佑肉、豚肉、鶏肉、魚。野菜、これで5種類です。これにとんかつを加えたもの。ハンバーグを加えたもの、などをスペシャルにすればどうでしょう。」

「いいですね。それでいきましょう。店名とユニフォームが要りますね。」

「おーい、スーザン」

レスターがスーザンを呼んで、スーザンがやってきた。すでに紙と鉛筆を持っている。

「はい、お店のロゴですよね。」

もうわかっているとばかりにスーザンが紙と鉛筆で構えている。

「店名ですけど、セビエスキ・カレー・ショップ」はどうでしょう?

「うーん、セビエスキ・カレーまではいいんだけど、ショップってのがなあ。」

「たしかにそうですね。なにか良いアイデアありませんかぁ?」

「セビエスキ・カレー・ランド」

「うーむ」

「セビエスキ・カレー・ハウス」

「それだっ!それでいこう!」

レスターが興奮した口調で言った。セビエスキも賛成している。皆も、それは感じが良いと言っている。

「わかりました。それじゃ、可愛らしくお家にしますね。」

スーザンはそう言うと、さらさらさらっと可愛らしい家にセビエスキ・カレーと書いてある看板を描いた。


 キャサリンがちょっと考えている。

レスターがそんなキャサリンを見て

「キャサリン様、どうかされましたか?」

と、少し不安そうに訊いた。

「ああ、あのね、私の前世でカレーってすごく人気があったんです。それで、お店によってはイベントをするところがあって、そういうのも面白いなって思ったの。」

「イベントっすか?」

「はい。例えばね、月に1回とか、食べ放題の日があったり、すごく大きな盛りのを全部食べ切った人はタダにするとか。全部食べ切った人たちはチャンピオンとして写真をお店に飾ってありました。そういうのも面白いかなって思ってね。」

「なるほどねえ。俺だったら全部食べ切った人はっていうの、挑戦したいねえ。おもしれえや。」

「食べ切れなかったらちゃんとお金払わないといけないんです。だからみんな必死。」

「へえー。それ、やりましょうや。おもしれーもん。宣伝にもなるし。」

「ふふふ、カレーって、実は材料費は安いんですよね。ですから儲けが多いので、そういうイベントしても大丈夫みたいです。」

「やりましょうや、どうです?セビエスキ様。」

「そうだな。おもしろそうだ。まずはここの皆でどのくらい食べられるかやってみて、そこから考えてもいいな。」

「わ、いいねいいね。俺頑張るぜ。」

「私も!」

皆やる気満々だ。


 そこに難しい顔をしたブラッドレー、ウッドフェルド、ラルフ、ブライアン、アレックスがやってきた。その場の雰囲気を見て

「なんだ?何か面白いことでもあるのか?」

と、ラルフが訊いた。

レスターが

「ハンバーガー店がすごく調子がいいんで2号店を出そうかって相談をしたんですがね、キャサリン様がカレーの店はどうかって言われてね、結局カレーの店を出そうってことになったんで。」

と、そこまで言うと、ブライアンが

「おっ、カレーライスか。そりゃあいい。俺は毎日でも食いたい。」

と喜ぶ。レスターが

「それで、キャサリン様が前世でもカレーの店は人気があって、大きな盛りのを食べられるか競うイベントなんかをしてたって言われて、それでうちもやろうかって話になり、だったらまずここでやってみようってことになったんでさあ。」

と言うと、

「おお、それは俺も参加して優勝するぞ。」

ブライアンがかなり乗り気だ。

「へーん、ブライアン様のようなお上品なお貴族様がどん百姓から傭兵やってた俺に勝てるわけねえすよ。」

ビニーが言うと

「なにを、孤児院暮らしの実力を見せてやるさ。」

とブライアンが言った。

その時、セビエスキチームの皆や新しく魔法の訓練を受ける者たちが

「えっ」

という顔をして、一瞬場がしーんとなった。

キャサリンはニコニコしていて、ウッドフェルドは

「おお、ブライアン君の勢いは凄いからな。」

と言って笑っている。

「私も参加したいですわ。今なら私は2人分。ふふふ」

キャサリンが参加表明をするが

「「「「「キャサリン、君はダメだ。」」」」」

ブライアンやブラッドレーたちがすぐに止めた。

「えー、どうしてですの?私もカレーは好きですのに。」

「君は何かやるとなると全力でやるからな。食べ過ぎて身体をおかしくしたら大変だ。」

ブライアンがさもあたりまえだとばかりにそう言った。

「えーーー。」

口をとがらせるキャサリンを見て、皆が笑っている。


 セビエスキがぽつりと言った。

「ここは雰囲気がとても幸せで良いなあ。私はこんなに温かい雰囲気の中で暮らすのは初めてだ。みんな、ありがとう」

ジョーが

「えっ、セビエスキ様ってここのご領主様ですよね。公爵様ですよね?」

と、隣にいたアレックスに訊いている。

「そうだよー。」

「だったら大金持ちっすよね?」

「そうだねー。」

そう言っていると、セビエスキが

「そうなんだよ。金はね、不自由したことがない。だが、父は愛妾が何人もいて家にはほとんどいなかったし、母は毎晩のようにパーティーに行ったり観劇に行ったりしていた。たまに父と母が顔を合わせば大げんかだ。親は私の誕生日も覚えていなかったよ。貴族なんてそんなにいいもんじゃないさ。」

ちょっと寂しそうに言った。


 そんな時、ミモザがちょこちょことセビエスキのほうに来て、セビエスキの膝に上り、

「ミモザがいましゅよー。」

と言って、セビエスキの頭を撫でた。

セビエスキが一瞬驚いた顔をして目を瞠っていたが、ミモザを抱きしめて、頭を撫でた。

「ありがとう。ミモザ。」

ミモザはうふふふと笑って、

「ミモザ、セイエスイしゃんと仲良しなの。ね。」

と言って、セビエスキも

「ああ、そうだ。仲良しだな。」

と言って、ちょっと涙ぐみながらもとても嬉しそうだった。


 そうしてセビエスキ・カレー・ハウスは開店に向けて準備をすることとなった。

店のロゴは家の横でエプロンをしたクマと鍋。

ハンバーガーのほうが赤を基調にしたものだったので、こちらは緑を基調にした店づくりにした。


 それからまたブライアンの怒涛の研究開発がはじまった。

ブライアンの凄いところはどんなに研究開発に没頭していても、かならず時間になるとキャサリンの元に戻り、キャサリンといちゃいちゃ時間を過ごすことだった。

「ブライアン様、無理してませんか?」

「無理?何を?」

「お忙しいのに、私のこともかまってくださって。」

「何を言うんだ。キャサリンと共に過ごすために他のことをやっているんだぞ。キャサリンと共に過ごせないなら仕事もできない。」

「ブライアン様、大好き。」

「俺もだ。キャサリン、ずっと一緒にいてくれ。」

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