第38話 魔力鑑定
セビエスキはあらかじめ領内に全員に魔力を鑑定するという告知をした。もちろん、拒否はできるようにしたが、大半の者は積極的に受けたいと申し出ている。
いよいよアレックス、アーロン、コナーの3班に分けて魔力鑑定に回る日になった。魔力があるものはブライアンのところに送ることになっている。
アレックスがにこやかに会場に姿を現わした。
「みなさーん、おはようございます。これから順番に魔力を鑑定させていただきまーす。といっても、皆さんは、僕がみなさんの手を取りますので、ただじっとしていてくれれば良いです。では、1番の方、こちらへどうぞー。」
「えーと、お名前とお住まいを教えてください。」
「ジョーってもんです。サブレ村から来やした。」
「はい、では、手を貸してください。」
「へい、き、汚ねえ手ですんません。」
「とんでもない、一生懸命働いてるきれいな手じゃないですか。ではちょっと失礼しますね。」
アレックスがそう言ってジョーの手を取り目を閉じた。ジョーも目を閉じている。
しばらくして、ジョーが真っ赤な顔をして苦しそうにしている。
周りが、
「おい、ジョー、大丈夫か?」
という声でアレックスが目を開けると、ジョーが真っ赤な顔で苦しんでいる。
「ジョーさん!どうしました!ちょっと、目を開けて、息してください。」
そう言われてジョーは
プハー、ゴホゴホゴホ「く、苦しかった」
「ジョーさん、普通にしててください。ちゃんと息もして。もう少しかかりますけど、楽にしてくださいよ。」
アレックスが笑ってそういうと、ジョーは、少し安心したように、リラックスした。
さらにもうしばらくたって、アレックスは真面目な顔でジョーに言う。
「ジョーさん、鑑定が終わりました。が、ジョーさんには少しお待ちいただくことになります。私の鑑定ではジョーさんには土魔法の強い魔力があることがわかりました。ぜひ研究所で詳しく鑑定させてください。」
アレックスのその声に、会場が大騒ぎになった。
ジョーは目を丸くして、口をパクパクしている。
アレックスはジョーの背中をポンポンと叩き、
「大丈夫ですか?」
と、微笑んだ。
「あ、あ、あの、俺なんかが魔法がつかえるんすか?」
「今はできないでしょうけど、訓練したら使えるようになるでしょう。」
「訓練・・・俺なんかができるんすか?」
「大丈夫ですよ。最初の内はちょっと大変かもしれませんけど、いったんコツを覚えれば、あとはそう難しいことではありません。」
「おい、ジョー、すげえな。お貴族様みてえだぞ。」
「おめでとう、ジョー、なんかすげえみたいだから、そのうちおごってくれ。」
みんながくちぐちにジョーに祝いの言葉をかける。
アレックスは微笑ましい光景を嬉しい気持ちで見ていたが、気持ちを新たに、
「では次の方、どうぞ。」
と、次の者の鑑定をはじめた。
「リンさんでしたね。リンさんにもやはり魔力があります。ただ、あまり強くはありません。これは回復魔法が使えるようになるでしょう。あちらでお待ちください。」
次々に進んでいくが、驚いたことに、ほとんどの者に魔力があった。
そこで、弱い魔力の者は自宅に帰ってもらって、比較的強い魔力の者だけブライアンに送ることにした。
「弱い魔力の方にも、訓練を受けていただきます。また追って連絡いたしますねー。」
その日が終わり、アレックスは中級魔法までできそうな者15人をブライアンに送った。
アーロンとコナーも同様である。
多くは土魔法と浄化魔法、水魔法、光魔法、風魔法,電撃魔法である。
弱い魔力の者たちは、回復魔法、火魔法、収納魔法、土魔法、氷魔法である。
「この結果は驚きだな。」
「今まで魔法は貴族のものと思っていたが、それは貴族が特別な存在であろうという策略だったのかもしれない。いや、そうなのだろう。汚い手を使ってきたものだ。」
ブラッドレーが忌々しそうに言う。
「民の大部分を無学で奴隷に近い状態に置いて、貴族は搾取して楽に暮らす。なんとまあ、汚いことだ。」
ウッドフェルドも吐き捨てるように言った。
「しかし、それに気づかずにいた俺たちも悪いですね。」
ラルフが言うと、
「全くだ。長年民を騙して自分らだけ良い思いをしてきたのだ。民の前で土下座して謝りたいよ。」
ブラッドレーが同意した。
「さて、これまでのことはこれまでのこととして、これからのことを考えませんか?」
ブライアンが提案した。
「まずは、今までビニー君がやってきた訓練のクラスを拡大して、魔法の種類ごとに訓練をする。それと、読み書き計算のクラスは引き続き行う。それと、弱い魔力の者たちにもそれぞれ訓練と学習を勧める。」
「領民のすべてが読み書きができるようになると、領の民度がぐっと上がり、住みやすくなっていきますな。」
セビエスキが期待を込めて言う。
「この領は港があるので、外国貿易もできる。読み書き計算ができるようになれば、ブラッドレー研究所の営業部門や開発管理部門で働く人も多くなるだろう。そうすると、農業は大規模農業にすると、効率よくできるようになる。」
ブライアンも言う。
「楽しいねえ。セビエスキ領、万々歳だね。」
アレックスはいつもそのように明るく楽しく言うので、皆の気持ちが明るくなる。
「今までは儂らのアイデアで物を作ってきたが、これからは領民たちが生活に基づいた必要なものを考えてくれるだろうから、それを作っていくのも楽しそうだな。」
ウッドフェルドが期待する。
魔力が多い者たちは、ビニーのように部屋をあてがわれて、そこで訓練をする。家族のいる者は、家族ごと住む者もいれば、家族は残してひとりで参加するものもいる。なぜか男性が多く、女性は少数だ、
「どうして女は魔力が少ないのかしら?」
キャサリンが不思議そうに言う。
「うーむ、魔力が少なくても出来ることがいろいろあるからなのかもしれんなあ。」
ブライアンが、自信なげに答える。
「まあ、私は魔力少なくていいわ。他に楽しいこといっぱいあるもん。」
「そうだろう?それだよ。だから魔力がいらないんだ。俺なんか魔法取ったら何もないぞ。」
「何もないって、この頃は新しいものを創るのを考えてるブライアン様ってすごく楽しそうですわよ。」
「うん。とても楽しい。考え出すと止まらない。」
「ね。私、そういうブライアン様見てるの大好き。」
キャサリンはそう言ってブライアンの膝に乗り、ブライアンはキャサリンを抱き寄せてキスをした。
ブライアンがブラッドレーチームのドアをノックした。
「ちょっとよろしいでしょうか。」
「もちろんだ。どうしたね?」
「儂と2人がよいか?それとも誰かと?」
「では、ウッドフェルド様、ラルフ、アレックス、キャサリン、そしてゼレさんも一緒でも?」
「よし、招集をかけよう。」
まもなく全員が集まった。
「実は、俺ははじめは平民も使える道具をつくる、ということを考えて、それから研究所の職員などに平民を迎えるなら極力魔法を使わない方法で考えてきたんですが、魔力鑑定をしてみたところ、ほとんどの人が弱くても魔法が使えることがわかりました。となると、魔法を使う仕事でもいいじゃないか、と思うようになりました。」
「そうだな。俺もそれは考えていた。」
と、ラルフ。
「ゼレさん、魔女というのは大勢いるのですか?」
「そうじゃな。わしは魔女の友人は2人いるが、まあ、魔女は忌み嫌われとるからな。おまえさんたちくらいじゃよ、わしとまともにしゃべってくれるのは。まあ、そんなだから、みんな隠れて住んどる。探せばいるかもしれんが、わからんなあ。」
「おばあさま、そんなことおっしゃるのは悲しいですわ。私はおばあさまのこと、本当のおばあさまだと思ってお慕いしておりますのよ。」
キャサリンがゼレの手を取って言うと、ブライアンも頷いて同意している。
「ここにいる者は皆ゼレさんを家族同様に思っとるよ。でもまあ、ゼレさんの言うように、偏見は大きいからなあ。残念だ。」
ウッドフェルドも悲しそうだ。
ブライアンが
「もし魔女の方々をこちらにお迎えできれば、いろいろなものを共同で開発できて良いのだけどな。ひいては魔女の地位向上にもなっていくだろうけど。」
と言うのを受けて、ゼレは
「そうじゃな。わしもな、まあ、魔女なんてこんなもんじゃろうと思っておったんじゃが、補綴薬で泣いて喜んだジェフさんと家族を見ると、魔女も役に立つんだから何かもっとすればいいと思うようになったさ。ちょっと友に連絡とってみるかの。」
そう言うと、ふっと消えた。
「はやっ」
アレックスが言うと、ラルフが
「ゼレさんって年の割に頭脳年齢が凄く若いよな。見習いたいよ。」
と感心している。
「さて、魔女のほうはゼレさん待ちということで、魔法のほうだ。例えば動力だが、土魔法が使える者がかなりいる。ビニーだけでなく、訓練次第でかなり伸びるだろう。そうなると、動力だけを売る場合も魔法を使っても行けると思うんだ。今回は子供たちは鑑定していないので、もし子供も鑑定すればかなりいるだろうしな。」
じっと聞いていたブラッドレーが口を開いた。
「いいじゃないか。こうなったら、魔法でも呪いでも何でも使って、良いものを創っていけば良いと思うぞ。魔法も使わなくなったら廃れるかもしれんが、使っていればずっと続いていくだろう。」
「そうだな。まあ、考えるより動いたほうが良い。やってみて、失敗したら、またやり直せばよいだろう。」
「おお、お年寄り2人のほうが俺たちより度胸があって、なかなか物分かりが良い。」
「負けたね。」
ラルフとアレックスが言うと、ブラッドレーが
「おいこら、お年寄りと言うでないわ。」
と怒った。
「では、魔法も使って効率よく作ることにしましょう。」
ブライアンがそう結論付けた。
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