第37話 ファストフード店開店 ビニー
スーザンが描いた看板の下絵は、皆にとての評判が良い。
キャサリンもすごく気に入って、同じものの小さいものを描いてもらった。
翌々日の夕方、ブライアンが部屋に戻ると、ちょうどキャサリンが嬉しそうにしているところだった。
「キャサリン、どうした?何か良いことがあったのか?」
「あ、おかえりなさい。はい、これ、今ちょうどできあがったんです。」
キャサリンはそう言うと、エプロンをつけて、帽子を被って見せた。
「おお、かわいいな。キャサリンが作ったのか?疲れただろう。大丈夫か?」
「大丈夫ですわ。楽しかったし。」
「そうか。上手くできたな。皆、喜ぶぞ。」
「ふふふ、スーザンさんのところに行って、見ていただこうと思って。ブライアン様もおつきあいいただけませんか?」
「ああ、君が良ければ。」
「もちろんです。だからお願いしたんですもの。」
「それじゃ・・・ちょっと待て。」
ブライアンが寝室に行ってシーツを持ってきて、キャサリンに被せた。
「よし、それじゃ、行こうか。きっと驚くぞ。」
「はい!」
スーザンのいるチームの部屋をノックする音がして、ブライアンが顔をのぞかせた。
「スーザン殿はいるか?キャサリンが会いたいと言うのだ。」
「まあ、ブライアン様、どうされました?」
「キャサリンが君に会いたいというので持って来た。入っても良いか?」
「持って来た???・・・まあ、どうぞ、どうぞ、お入りください。むさくるしい奴らは無視してください。」
「では、邪魔する。」
「ちょっと、お茶入れてきてー。」
「なんだよ、人使い荒いなあ。」
「ああ、構わんでくれ。キャサリンを。」
そう言ってブライアンはシーツを取って、キャサリンが身体を現わした。
「ああーっ、キャサリン様、エプロンと帽子!」
「如何でしょう?こんな感じでよろしいかしら?」
「すごいっ、すごいですっ。」
「おおー。いいな。なんだかこういうのができると、その気になってくるな。」
「お気に召しましたか?」
「もちろんです。ありがとうございます!」
セビエスキもやってきて、エプロンと帽子を見ている。満足そうだ。
「じゃあ、本気にしますわよ。これからレスターさんにもお目にかけてきます。」
ブライアンはまたキャサリンをシーツでくるんで抱き上げた。
「あ、私も!」
スーザンも一緒に行くと言い、なんだかんだで結局その場にいた者全員がぞろぞろと食堂に向かった。
「レスターさん、ちょっとちょっと」
スーザンがレスターを呼び、シーツをほどいてキャサリンのエプロン姿を見せる。
「うわっ、こ、こりゃあいいや。・・・いやあ、こういうのを見ると、もっとやる気が出ますぜ。おい、野郎ども、ちょっと来い。」
中から料理人たちが出てきて、キャサリンを見て大喜びである。
「いやあ、早く開店してえです。」
「俺、もう待てねえよ。」
「おらおら、そう言ってねえで、しっかり練習しろ。ファストフードってんだからな、ちゃっちゃと作らねーといけねえんだぞ。」
「へい、頑張りやす。」
それから数日の間、手の空いている者は店の壁を塗ったり、細かな作業をし、店の内、外装共に出来上がった。
厨房は連日ハンバーガーの練習で、熱気を帯びている。
いよいよ開店の日である。
街でビラを配っていたので、そのビラについている無料券を持って並んでくれている人もいる。
カウンターにはスーザン、シドニー、サマンサ、コナー、メルがいる。
奥の厨房にはレスターをはじめ、料理人たちがハンバーガーを作っていて、その匂いが店周辺を満たしている。
「おい、この匂い、なんか美味そうだな。」
なんて言いながら足を止めて店を伺っている人たちもいる。
そこへ、アーロンが
「お待たせいたしました。セビエスキ・ハンバーガーの開店です。本日はみなさん足をお運びいただき、ありがとうございます。どうぞ、順番にカウンターまでお進みください。」
並んでいた人たちがカウンターに行き、注文する。
注文すると、ほんの1分もたたないうちに、お盆に乗ったハンバーガーが出される。
客はそれをもって、外の机に行ったり、中のカウンター席でハンバーガーの包みを広げる。
ある客は、一口かぶりついた途端、
「うめぇーっ。なんだこれ。こんなに美味えもん、初めて食ったぞ。」
「これはなんだ?芋だよな。この赤いのにつけて食うと、うめぇーな、おい。」
などと言っている。
カップルは、お互いのハンバーガーを交換しながら食べていて
「あー私、こっちのほうがよかったー。」
などと言っている。
親子連れも、子供がケチャップで顔じゅう真っ赤にして食べているのを見て、笑っている。
みんな幸せそうだ。
店の隅でセビエスキが客席を見ていて、満足そうだ。
「あの、ちょっとすみません・・・」
1人の男がセビエスキに声をかけた。
「はい。なにかお困りですか?」
「あ、いえ、その、あの張り紙なんですけど。」
男が張り紙を指さした。
「求人募集って、どんな仕事ですか?俺にもできそうな仕事ですか?」
セビエスキが男をちらりと見て、
「仕事の求人のことですね。ここでは騒がしいですからちょっとこちらにいらっしゃいませんか?」
セビエスキが厨房の脇から奥の部屋に誘導した。
「ここは新しく開店した店ですので、いろいろな種類の仕事があります。どういったことをお望みか、お聞かせいただけますか?」
男はそれに答える。
「俺、料理とかしたことないんですけど、掃除とかならできます。・・・実は俺、この前スローチが責めてきた時、傭兵になったんすけど、実際の戦闘はごくわずかだったってえのに、俺、怪我しちまって、剣が使えなくなって、もう傭兵はできなくなっちまったんです。俺んちは親はもともとは隣のカーラル領で百姓やってたんすけど、貧乏で親が早くに死んじまって、それからは領を出て流れ者になっていやした。今までは傭兵で稼いだ金で弟妹を養ってたんすけど、それができなくなって、俺、平民だし、読み書きもできねえし、でも、掃除とか薪割りとかはできます。」
「そうですか。あの、もしご迷惑でなければ、ちょっと能力を鑑定させていただけませんか?」
「へい。そんなことできるんですか。どうぞどうぞ。」
そこでセビエスキは彼の魔力の鑑定をした。そして、なんと、この男はけっこうな魔力があることがわかった。
「魔法が使えますね。」
「えっ?いや、まさか。俺はただの平民なんで、魔法なんて。」
「いえ、魔力があります。訓練すれば土魔法ができるようになります。他にもいくつか能力が見えました。この店以外で働くことは考えられますか?」
「ああ、もちろんどこでも、働ければ文句は言いません。」
「では、今夜、店が閉まる頃にまたおいでください。お名前を伺っても?それと、ご弟妹はどこにいらっしゃいますか?」
「ビニーっていいやす。弟妹は・・・その・・・お恥ずかしいことなんですが、町はずれの小屋にいます。」
「では、ご弟妹も一緒にいらしてください。」
「へい。ではまた後で。ありがとうごぜえやす。」
セビエスキは念話でブライアンを呼びだし、今、店に求人募集を見てやってきた男がいるのだが、魔力があり、この店ではなく動力のほうででも働いてもらえるかもしれないと話した。
アレックスもラルフの名代で来ているので、彼が来たらブライアンとアレックスとセビエスキでもう一度面接をして、仕事を与えようということになった。
「平民を鑑定して、その最初の人が魔力があるなんて、これ、もしかしたら、魔力のある平民ってたくさんいるのかもしれないね。」
アレックスが、嬉しそうに言いながら、ラルフに報告してくると言って出て行った。
閉店の少し前、その男は子供を4人も連れてやって来た。
「あの、俺の弟妹っす。おい、ご挨拶しろ。」
子供たちはぺこりを頭を下げる。とても可愛らしい。
ブライアンは、セビエスキに紹介されると、子供たちの前に膝をついて
「こんにちは。君たち、お腹すいていないかな?」
と言った。
子供たちはこくりと頷いた。
レスターが奥からハンバーガーとフライドポテトを盆に置いて持って来た。
「さあ、遠慮しねえで、食べてみておくれ。美味いぞー。」
子供たちにそう言ってウインクすると、子供たちは我先にとハンバーガーを取り、かぶりつく。
「うわあ、美味しい!」
「そうだろそうだろ。うちのハンバーガーは美味いんだぜ。」
レスターが嬉しそうに言う。子供たちが貪るように食べているのを見て、レスターが、
「あのう、怒らねえでもらいてえんですが、その・・・今まであまり食べていなかったんで?」
「お恥ずかしいことなんですが、傭兵を辞めてから、その日暮らしで、満足に食わせてやることもできず、いっそ孤児院に行ったほうがいいかと思ったりもしやした。その時、奴ら、泣いてしがみついて、どこにもいかないって言いやがったんで。それでずいぶん苦しい目にあわせちまいやした。」
「そうでしたか。辛い思いをさせてしまいましたね。でも、もう大丈夫です。」
セビエスキは子供たちに向き合って、
「君たちの兄さんはいろいろなことができるから、これからはどんどん幸せになっていけるよ。」
と言った。
ビニー達はブライアンに伴って、研究所にやってきた。
ブライアンが、
「ビニーさん、もう一度魔力を鑑定させていただいてもよろしいですか?」
と訊くと、
「ええもう、何度でもおねげえしやす。」
それを聞いて、ブライアンはより詳しくビニーの魔力を精査した。
「どうだ?」
ラルフがブライアンに訊くと、ブライアンは
「いや、良い人材が仲間に入ってくれたよ。ビニーさん、まず、あなたは土魔法が使えます。それも、少し訓練すると中級ができるようになるでしょう。それと、これから訓練すると、電撃魔法が使えるようになります。まずは半年、訓練は大変ですが、訓練してくれますか?もちろんその間の生活費は差し上げますし、この島の中の建物で暮らしていただけます。お子さんたちは、そこで暮らしながら、読み書きを勉強したらよいでしょう。ビニーさんご自身も読み書きを学んでください。訓練が終わったら、ビニーさんには研究所で働いていただきたいと思います。もちろん掃除などではなく、技術者として働いていただきますから、傭兵の給料よりだいぶ良いと思います。」
「へ?」
ビニーはしばらくもぬけの殻のような顔をして固まってしまった。
「ビニーさん?」
ブライアンが呼び掛けると、我に返り、
「あの、それって、夢じゃないんですかい?俺がそんな訓練受けさしてもらって、子供たちも読み書き教えてもらえて、ここに住んでもいいって、そんなうまい話、夢じゃないんですかい?」
「はい。あなたにはそれだけのポテンシャルがあります。」
「ぽてんしゃる??」
「すみません、可能性があります。」
「俺なんかが・・・」
「俺なんか、ではありません。あなたは大した才能をお持ちなんです。その才能をここで花開かせるか、それとも埋もれたままで放置するかは、あなた次第です。」
「・・・・・・ありがてえ。ありがてえ。これでもう、子供たちが腹をすかせて泣くこともないんですかい?布団で寝かせてやれるんですかい?」
ビニーはそう言うと、目から涙があふれ、ブライアンに縋りついて、
「ありがとうごぜえやす。ありがとうごぜえやす。」
と男泣きに泣いた。
ブライアンはそんなビニーの背をとんとんと叩いて宥めながら、
「では、それに応じていただけますか?」
「も、もちろんです。おねげえしやす。」
「では、まずは所長に挨拶に行きましょう。その他、研究所のメンバーにも紹介します。その前に、お子さんたちをこれからしばらく暮らしてもらうところにご案内しましょう。ビニーさんも一緒に来てください。アレックス、すまないが、頼んでいいか?俺はこれからブラッドレー様のところに行ってくる。」
「いいよ。みんな、新しい部屋に行こうか。」
ブライアンはキャサリンに事の次第を話、子供たちの世話を頼んだ。
キャサリンがマリーと共にやってきた。マリーはこれから子供たちに必要なものを見繕ってくると出かけた。
研究所の脇に元は使用人たちのアパートとして使われていた建物がある。キャサリンは子供たちとそこに入った。そこにはすでに何人か研究所のメンバーが住み始めている。建物に入ると、アーロンとコナーが談話室にいた。
「アーロンさん、コナーさん、きょうからここにお住まいになるビニーさんとお子さんたちです。えーと、お名前教えてくださる?」
キャサリンの柔らかな声に、子供たちはほっとしたような顔をしている。
「マ、マイク」「ルカ」「ラリー」「アビー」
「まあ、よくできました。では、みなさんのお部屋は・・・あら、5人寝られるお部屋って、あるかしら?」
キャサリンがアーロンとコナーを見ると、アーロンが
「2部屋続きの部屋ではどうですか?2階の突き当りです。」
「アーロンさん、ありがとうございます。そうですね。そこがいいわ。では、ご案内しますね。アーロンさんとコナーさんもよかったらお付き合いくださいな。」
ビニーたちの部屋は二間続きの部屋で、ベッドが4つ入っている。
アーロンがコナーともうひとつベッドを取りに行った。
「あ、あの・・・奥様・・・」
ビニーが遠慮がちにキャサリンに声をかけた。
「はい。ビニーさん、奥様はおやめになって。キャサリンとお呼びくださいな。・・・で、なんでしょう?」
「へい。あの、こんなすげえ部屋に置いてもらって、本当にいいんですか?」
「訓練の間はご窮屈様ですけど、ここで我慢してくださいますか?それからあとは、お好きなところにお住まいくださるとして、今は研究所に近いほうが便利ですので。」
「我慢だなんて滅相もねえ。こんなすげえところに住まわせてもらえるなんざ、バチが当たりそうで。あーっ、こらっ、おめえらっ、やめろっ。壊したらどうするんでえ。」
ベッドでぴょんぴょん飛んでいる弟と妹を𠮟りつける。
「そんなに気を使わないでくださいな。疲れちゃいますわよ。」
キャサリンがにっこり笑うと、ビニーは卒倒しそうになっている。
そんな時、アビーがぴとっとキャサリンに抱き着いた。
「まあ、アビーちゃん、可愛らしいこと。」
キャサリンが嬉しそうにアビーを抱いて、頭を撫でると、アビーが嬉しそうに目を細めている。
ビニーたちの部屋は、一部屋にベッドを5つ置き、皆で寝られるようにし、もう一部屋で勉強などができるようにした。
アーロンが
「うん、なかなか良い部屋になったな。ビニーさん、みなさん、これから同じ屋根の下、よろしくお願いします。」
というと、コナーも
「わからないことがあったら遠慮しないで訊いてね。みんな、僕たちは仲間だからさ。」
と言って歓迎した。
「うっ、ありがてえ、本当に、ありがとうごぜえやす。」
ビニーが泣いて喜んでいる。
そんなビニーにアレックスが
「ふふっ、喜ぶのはまだ早いよ。訓練はなかなか厳しいものだし、勉強だって大変だよ。頑張って。わからないことはすぐに訊くことだよ。」
というと、ビニーは
「へい。頑張りやす。こんなチャンス、もう生きてる間に起こるわけねえんです。逃さないようにしないともったいねえ。」
そう言って、決意を現わした。
ブライアンがやってきて、
「いろいろ連れまわして申し訳ない。今から所長のところに行きたいが構わないか?所長と話して、そのあと研究所の皆に紹介する。」
「へい。よろしくお願いしやす。あっ」
「どうした?」
「いや、こんな形でいいのかなと思って。」
「ああ、全然かまわないよ。服が仕事するわけじゃない。」
ブライアンがにっこりする。
そして、ビニーは所長のところに会いに行った。
ちょうどその頃、買い物に行ったマリーが帰って来た。
「ただいま帰りました。みなさん、お風呂、入りましょ。そして、新しい服があるので着替えましょう。」
マリーはそう言って風呂に連れて行くのだが、皆もじもじしている。
「どうしたの?」
「あの・・・風呂って入ったことなくて。」
「え?じゃあ今までどうしてたの?」
「川入ってゴシゴシと。」
「まあ、そうなのね。じゃあ、お風呂、気持ちいいわよ。ちょっと待ってね。」
マリーはそう言うと、アーロンとコナーに事情を説明し、アーロンとコナーは一緒に風呂に入ることにした。
アビーだけはマリが手伝って風呂に入った。
「次からは一人じゃないわよ。ミモザちゃんと一緒に入りましょう。」
ブライアンはビニーと共に、ブラッドレーの部屋に入った。
ブラッドレーと共にウッドフェルドもいて、2人で何やら仕事をしている。
「所長、ビニーです。」
ブライアンがそういうと、ブラッドレーは
「おう」
と言って、手を拭きながら出てきた。
ウッドフェルドがニヤニヤして、
「おまえ、所長の威厳もへったくれもないぞ。そのへんのオヤジだ。」
と言っている。
「ああ、悪かったな。大体、所長なんてえのは便宜上付いた名だからな。ビニー君と言ったな。ブラッドレーだ。よろしく頼む。今も聞こえただろうが、儂の所長なんていうのは便宜上ついたものでな、儂も他の者たちと同じ研究員だ。だからそんなにかしこまらんでくれ。ブライアンが、君は魔力があるので、訓練して動力の研究員になってほしいと言っていたが、訓練は慣れるまで少し大変かもしれんが、じきに慣れるだろうから、心配せんで、緊張せず頑張ってくれ。」
「へ、へい。」
「何か訊きたいことはあるか?」
「ええと、あの、研究員の皆さんは魔法が使えるんで?」
「そうだな、魔法に関してはブライアンが一番すごい。元は王室の筆頭魔導士だった。あとの3人、儂とウッドフェルドとアレックスは魔導士団にいたので、やはりそこそこ魔法は使える。ほかにもジェフが魔導士団にいた。」
「ひえー、そんなにすげえお方と一緒に、俺なんかが仕事できるんですかね。」
「ブライアンに任せておけば心配ない。まあ、そう固くなりなさんな。」
挨拶はそれで終わって、そこからこんどは研究所の皆に紹介するため談話室に行く。途中ブライアンが談話室に来いとドアをノックしながら言った。
談話室に行くと、既に皆集まっていた。
子供たちもアーロンたちと一緒に来ていて、皆でお菓子を食べている。
皆、とても温かく迎えて、ビニーは涙が止まらなかった。
ブライアンがキャサリンに
「苦労したんだな。」
と、ぽつりと言った。
キャサリンはそっとブライアンの背を撫でた。
それからのビニーは凄かった。
魔法を教えてもらう時はとても熱心で、それ以外に早朝も深夜もひとりで練習している。読み書き計算の勉強も、なかなか大変だろうに、熱心に練習している。ブライアンに、そんなに頑張りすぎるなと再三注意されていたが、それでもやめずに努力をしていた。
ある日、魔法の発動の練習をしていた時のこと。
「土がレンガの塊のようになることを頭のなかでイメージして、手をかざして念じてみてくれ。」
「へい」
ビニーが何度も試すのだが、何も起こらない。
「俺、やっぱりだめなのかも。もう何日も経つのに、全然何も起こらない。」
ビニーは悲しそうな顔でそう言った。
ところがブライアンは
「いや、まだだ。あきらめるな。」
と言う。
「よけいなことを考えず、ただ土の塊のことだけを考えてみろ。」
「へい」
そして、それをあと1時間、ビニーが手をかざすと、土がポゥっと光り、少し固まった。
「うへっ、ブ、ブ、ブライアン様、見て下せえ。」
「うん、できたな。やったな、ビニー!」
ブライアンとビニーは抱き合って喜んだ。
「もう少しこの土が形になるように願ってみろ。」
「へい」
今度はもっと固まった。
何度がして、とうとう土がレンガのように固まった。
「ブライアン様、俺、俺、うれしいっす。」
ビニーが泣きながらその場にへたりこんだ。
「よく頑張ったな。」
ブライアンがそう言ってビニーの背中を撫でている。
しばらくして、ブラッドレーの研究室にビニ- とブライアンが土の動力を抱えてやってきた。
「ビニーが作った動力です。これで試運転してみてください。」
ブライアンが嬉しそうにいうと、ブラッドレーとウッドフェルドも嬉しそうに、早速動力をいろいろな機器につけて試運転し始めた。
「こ、これはなんでやんすか?」
「これはな、扇風機と言ってな、暑い日に風を起こす機械だ。」
「へえー、あ、ほんとだ。涼しいっすね。こりゃいいなあ。暑い日に外で働くのはてーへんだから、こういうので涼みながらやれば仕事もはかどるってえもんだ。」
「そうだろう?それから、これはな、この機械で洗濯ができるのだ。こうやって汚れた服を入れるだろ、そうすると、きれいになって乾燥してできあがるのだ。」
「へえー」
「それからこれは食器洗い機だ。使った皿などを入れると綺麗になって出てくる。」
「へえー」
「おい、へえーしか言いようがないのか?」
ブラッドレーがそう言って笑っている。
「で、で、でも、俺なんかの頭じゃ想像もすかねえっすよ。」
ブライアンが
「その想像もつかない機械が、ビニー君の作った動力で動くんだ。嬉しくはないか?」
と言うと、
「そうで・・・げすね。」
「君がいるからこの機械は動くんだ。凄いと思わないか?もう『俺なんか』じゃないぞ。」
「いや、凄いと言われれば凄いですけど、でも全部ブライアン様やブラッドレー様が考えたことでやんすから、俺なんか何も」
「いくら考えたって、動力作る人がいなければどうしようもないんだ。誇りをもってこれから一緒に頑張ろう。」
「へいっ」
そう話しているうちに、洗濯物ができあがった。
「どれ・・・おお、きれいになっておるぞ。ほら、見てみろ。」
「へえー、すげえ。」
今度はウッドフェルドが
「食器も洗いあがったようだぞ。・・・どれ・・・おお、きれいになっとるなっとる。」
大満足の笑み。
「うっへー、凄いっすね。こんなのがあったら食堂なんかも人手が減って大喜びだ。」
ビニーは感心することしきりである。
「これらが動いているのは、君が作った動力によるんだよ。これからこの動力をもっと上質で持久力も高いものにしていくが、それの貴重な戦力のひとりが君だから、訓練を頑張ってくれ。」
ブライアンがそう言うと、ビニーは
「もちろんです。頑張って早く一人前になりたいっす。」
と、こぶしを作って言った。
「楽しみだ。頑張ろうな。」
ブライアンが言うと、ビニーはとても嬉しそうに頷いた。
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