第36話 ファストフード店 3
そこに、レスターとセビエスキが入って来た。
「皆さん、新しく食堂を作る場所が決まりました。街の中心にある、前は宿屋でそこが廃業して今は空いているところで、その1階に開業しようと思います。」
ウッドフェルドが
「おお、良いですな。上をまた宿屋にするなら、そこの泊り客が利用する可能性もあるしな。」
と言うと、セビエスキが
「はい。まだ場所に余裕があるので、隣にうちの研究所の店を開けても良いかと思います。」
「なるほど。たしかに、売るのは外商だけというわけにもいかんですな。それは良い考えだ。」
ウッドフェルドがセビエスキを褒めると、セビエスキはちょっと照れたように、
「ありがとうございます。」
と言った。
「それであの、キャサリン様、ファストフード店というのがどのような作りか、簡単に絵でも描いていただけると有難いのですが。」
セビエスキが言うと、レスターが
「セビエスキ様、キャサリン様の絵は・・・ククク・・・あまり期待しねえほうがよござんすよ。」
と笑っている。
「まあ、レスターさん、ひどいわ。・・・しかも、本当なだけに、ひどいわ。」
キャサリンがそう言って笑っている。
ウッドフェルドも、
「いやあ、セビエスキ君、キャサリンに絵を描かせようとは、なかなか度胸があるな。」
と言って笑っている。
キャサリンはそれを無視して、紙に店の絵を描き始めたのだが
「おお・・・」
セビエスキが言葉を失っている。
「ほらね、だからキャサリン様に絵を描けというのは、向こう見ずすぎると。」
と、レスターが笑っている。その場にいた皆も笑っている。
「いいんですっ、わかれば。」
キャサリンは気にせずに言うのだが
「いやあ、わかればいいっすけど、わからねえすよ。」
と、レスターが笑っている。
「あら、そうですか?やだわ。じゃあいいです。口で言います。お店のまんなかにカウンターがあってね、後ろは調理場。カウンターの前は、注文する人が立てる場所があって、お見せの周りに長いテーブルと椅子がずらっと並んでいて、その場で食べたい人はそこで食べるんです。」
「なるほど。こんな感じですか?」
と、スーザンがささっと描いた図を見せると
「まあ!スーザンさん、そうですわ。ご存じでしたの?まるで見てきたような絵ですわっ。」
キャサリンが感激して、スーザンの手を取って喜んでいる。
「ありがとうございます。お役に立ててうれしいです。」
スーザンも嬉しそう。
「それと、もしできれば、外にもいくつか丸いテーブルと椅子があると、外でも食べられていいですわね。」
キャサリンが言うと、スーザンがすばやくそれを絵にする。
「スーザンさん、これも素敵ですわ。素晴らしいですわっ。」
キャサリンがすごく感激している。
「テーブルの上に大きなパラソルを付けるとかわいいです。」
「こんな感じですか?」
「そうです。んふふ、パラソルの色とか柄を考えると、可愛くなりますわね。」
「室内の色も明るくして、と。」
スーザンが描いた絵は、とてもかわいらしくて、女性は誰もが行ってみたくなるような造りだ。
メルが
「スーザンにこんな才能があったなんて、知らなかったよ。子供たちに絵も教えられるんじゃないか?」
と言うと、セビエスキも、
「そうだな。やってみるか?」
と言った。
「そうですわ。素晴らしいですわ。子供たちが喜びますわ。まずはミゲールとミモザに教えてあげてくださいませ。」
キャサリンがそう頼むと、スーザンは、恥ずかしそうに
「私、別に美術の勉強したわけじゃないですし・・・できるかしら。」
とキャサリンに言う。キャサリンは
「できますとも!芸術は算数などとは違って感性のものですもの、こんなきれいに描けるスーザンさんなら絶対できますわ!」
と、キャサリンがスーザンの手を取って言う。
「じゃあ・・・はい、やってみます。」
とスーザンが言うと、キャサリンがスーザンをハグして
「きっと楽しいですわよ。応援しますわ。」
と言っている。
ちょうどそこへブライアン達が戻ってきて
「ん?キャサリン、何か良いことがあったのか?」
と訊いた。
「ブライアン様、あのね、スーザンさんが私の代わりに絵を描いてくださったんです。それが、ね、こんなに素敵なの。それで、これから子供たちに絵を教えることになりましたのよ。素晴らしいでしょ。」
と、キャサリンが興奮気味に話した。
ブライアンが嬉しそうにキャサリンを見ていると、ウッドフェルドが
「キャサリン、おまえさんも教えてもらうか?」
と、ニヤニヤして言った。
「あら、そうですわね。お願いしようかしら。」
キャサリンは本気で考えていて、そんなキャサリンを皆が微笑んで見ていた。
それからスーザンを囲んで、皆でファストフード店の内装の色やら柄やらを話し合っている。
「色は目立つのがいいと思うぞ。」
「そうだな。赤か?」
「食べ物は赤が良いと聞いたことがあるぞ。」
「じゃあ赤だな。」
「そうだわ!スーザンさん、あのね、昔の記憶ですけど、ファストフード店って、店員さんたちが全員同じ帽子をかぶってましたの。帽子は髪の毛が入らないようにって衛生の目的もありますけど、お店の装飾の一部のような働きもありました。帽子と揃えたエプロンもしてて、かわいかったです。」
「なるほど、こんな感じでしょうか?」
スーザンが見えのカウンター、テーブル、パラソル、椅子を赤にし、店員の帽子とエプロンも赤にした。
「素敵!」
「いいな、意外と派手過ぎない。男が行っても恥ずかしくないな。」
メルが
「スーザン、君の絵だと良く見えるぞ。たいしたもんだ。」
とスーザンを褒め、スーザンが嬉しそうに赤くなっている。
シドニーがキャサリンに目配せして、小声でキャサリンに言っている。
「メルって、前からずっとスーザンのことが好きなんですよ。」
キャサリンは小声で
「がんばれー」と言っていた。
「包装紙も赤が入っているといいですわね。全部手で食べられるものばかりですから、カトラリーは要らないので楽です。あ、そうだわ。お店に大きなゴミ箱を置いておき、食べ終わった方はそこに包装紙を捨てて行ってもらうようにします。それと、お盆に置いて渡して、食べ終わったらそのお盆をゴミ箱の上に置いてもらう。持ち帰る人には袋にいれて渡す。そんな感じです。」
「なるほど、では包装紙や袋を注文する必要がありますな。」
セビエスキが言うと、すかさずメルが
「俺、それやりますよ。」
と手を挙げた。
シドニーとキャサリンは顔を見合わせてにっこり。
看板を描こうとしていたスーザンが
「あ!お店の名前!」
と言った。
「そうだ、店の名前を決めてなかったな。」
セビエスキが言うと、
「これにはブラッドレーは使えんだろう。もっとこう、洒落た名を。」
ウッドフェルドが言うと、皆は考え込んでしまった。
「あの、私の知っているファストフードの名前は地名に料理名が着いたのがありました。例えば、セビエスキ・ハンバーガー、みたいな感じです。」
キャサリンがそう言うと、
「えっ、いいじゃんそれ。きっとハンバーガーってここの名物になるから、その時に領の名前が入ってるとここが発祥地だってわかるし、ハンバーガーが有名になった時に、セビエスキが発祥の地なんだって、なんか自慢できるしさ。」
アレックスが賛成した。
皆、それに納得して、
「そうだな、それがいい。将来きっと支店ができるから、わかりやすいのが良い。」
コナーたちもそれに大賛成。
それで、店の名はセビエスキ・ハンバーガーと決まった。
看板には大きなハンバーガーの絵とセビエスキ・ハンバーガーの名前。
スーザンが頑張って良い看板を描いている。
キャサリンが
「スーザンさんの書いた看板の絵とおなじものを帽子の前と、エプロンの胸のところにつけたら可愛いですわ。」
と言うと、スーザンが嬉しそうに、恥ずかしそうに頷いた。
スーザンが
「私、頑張って良い看板描きます!」
と、力を込めて言って、皆はその可愛さにほっこり胸があたたかくなるのだった。
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