第34話 ファストフード店 2
洗濯&乾燥機が終わるまではしばらく時間がかかるので、お茶をすることにした。
その時に、キャサリンは食堂の話を訊かれて、メニューなどを話す。
ハンバーガー オリジナル、照り焼き味、バーベキュー味
サンドイッチ かつサンド、コロッケサンド、たまごサンド、ハムサンド
カレーパン、グラタンパン、ミートソースパン
ホットドッグ
「最初はこれでどうかと思ってますの。」
「おお、美味そうなものばかりじゃな。しかし、こんなのをキャサリンが作るのか?疲れるのはいかんぞ。」
「ふふふ、ご心配には及びませんわ。レスターさんたちが作ります。お見せはセビエスキ様たちが運営してくれます。」
「そうかそうか。じゃが、試食は大事じゃぞ。」
「父上、それは、試食したいとおっしゃってますね。」
ラルフがつっこむ。
「まあ、少しは役に立ちたいからな。」
ブラッドレーがそう言ってニヤニヤしている。
「はい、みなさんにもご試食お願いします。」
洗濯と感想が終わるまでの間、キャサリンはレシピを書いている。
ちょうどレシピが出来上がったのと同時に洗濯と乾燥が終わった。
皆、心配と期待で洗濯の出来具合いと動力の減り具合を見る。
「おおっ、洗濯は良い出来じゃな。そして、動力が減っとらん。何か失敗したかの?」
ブラッドレーがブライアンに訊くと、ブライアンは動力に手をかざして
「いや、心配には及びません。ちゃんと減っています。減ってはいますが、ほんの少しだけ。つまり、この動力の最大が100とすると、今回の消費量は0.5に満たないくらいです。つまり、動力は200回の洗濯で補充するくらいということになります。」
「そうか、それはいいな。動力の値段次第で庶民も買えることになるな。」
「そうですね、ただ、これまで洗濯の仕事をしていた人が職にあぶれる恐れが出てきます。それをどうするか、ですね。」
「そうだなあ・・・」
「洗濯機工場で働くとか?」
キャサリンが小声で言ったのだが、皆に聞こえて
「おお、そうだ、キャサリン、良いところに気づいたな。」
キャサリンはブラッドレーに褒められて嬉しそう。
「まあでも、乾燥したものを畳む、という作業はありますので、そうそう失業者は出ないかと思いますわ。」
「そうだな。もし時間に余裕ができたら、アカデミーに通ってもらって他に何か手に職をつけてもらうのも良いだろう。」
ウッドフェルドはそう言う。
「そうですね。スキルができればもっと良い仕事にありつける。」
ラルフも賛成。
そのラルフがブライアンに
「この動力は作るのは大変か?もっと大容量のものを作るとしたら、すごく手間がかかるか?」
と訊いたら、
「いや、原料は海水だからな。海水はタダ。生産コストも海水を採るくらいは安いものだ。」
そこにアレックスが手を挙げた。
「はい、はい。あのさ、いろいろな製品を作るのもいいけど、動力を売るってことはどうかな?」
「動力を売る?」
「そう。だってさあ、もし動力が安くできたら、例えば今まで部屋の明かりを魔法かランプにしてたのが魔法使えない人も部屋に明かりをつけられて、しかも、オイルランプより明るいとなれば、誰でも欲しいと思うんじゃない?だったらそれを商売にしちゃえばよくない?」
「そうか。動力そのものを売る、か。いいな、それ。」
ブライアンはそう言って、海水から動力を作り出すことを考え出した。
翌日、キャサリンはレシピを持って厨房に行った。
「レスターさん、お忙しいですか?」
「キャサリン様、いやいや、俺はいつだって忙しいなんてことありませんぜ。特にキャサリン様がお呼びなら。」
「まあ、レスターさんったら。」
キャサリンは笑いながら、レシピのノートをレスターに差し出した。
「まず、これだけのメニューのレシピを書いてみました。最初はソースをいくつか作っていただかないといけないので、大変かもしれません。でも、いったんソースができたら、そこからはもうあとはどんどんできていくと思います。」
「これはこれは、うわ、こんなに丁寧に。おい、野郎ども、ちょっと来い。」
レスターが呼ぶと料理人たちがわらわらと集まって来た。
「まず、ソースなんですけどね、ケチャップというのをつくっていただくと、お芋を揚げただけのものにケチャップをつけるととっても美味しいです。私の父の好物ですのよ。」
「ああ、あの赤いのですね。あれは美味かった。」
「それから、そのソース、簡単に買えますか?」
「これですか?これは、なんでも遠くの島国のものなんだそうで、俺の師匠が美味いからって買ってたんで、このへんでも売っててそんなに高いもんでもありませんぜ。」
「まあ、それは嬉しいわ。これとケチャップがあると、他のソースも簡単にできます。」
「じゃあ、まずは今、このソースを作ってみやす。キャサリン様、味見して下せえ。」
「はい。お願いします。」
「キャサリン様はそこの椅子でゆっくりしてくだせえ。あ、なんだったらベッド持ってきましょうか。」
「あははは、まさか。そんなに気を使わないでください。私は大丈夫ですから。」
「そんな、もしキャサリン様の身に何かあったら、俺らブライアン様に殺されますぜ。」
「あははは、殺されるだなんて。」
「いや、マジ。ブライアン様ならやりますぜ。まあでも、ブライアン様のお気持ちもわかりやすがね。こんなにきれいでかわいい奥様なら、そりゃあなあ。」
レスターに皆が頷いている。
「いやだわ、私のほうがブライアン様に夢中なんですのよ。」
「ひゃあー、もう、ごちそうさまで。おい、野郎ども、ソースにとりかかるぜ。」
「「「「「「「「へいっ」」」」」」」」
「さすがレスターさん、それに皆さんもさすがです。これは100点満点ですわ。」
「そうですかい? おい、野郎ども、合格いただいたぜ。」
「「「「「「「「へいっ」」」」」」」」
「それじゃあ、あとは片っ端から作ってみて、お部屋までお持ちします。」
「あの、ここでお味見させていただいてよろしいかしら。お味見したがってる方たちもいますし。」
「そうで・・・げすか?お疲れにならなきゃそいつぁありがてえが。」
「ありがとうございます。では、ちょっとほかの味見希望者をお知らせしますわね。ええと、ブラッドレー様、父のウッドフェルド、ゼレさん、ラルフ様、アレックス様です。ブライアン様は今研究で頭がいっぱいだからいらっしゃらないかも。」
「げえ、そんなお歴々ですか。そりゃあ緊張しますなあ。」
「ふふふ。すみませんが、お味見じゃないですけど、お芋の揚げたのを作っていただけると、父がすごく喜ぶので、お願いできますか?」
「もちろんで。それも他のソースでも試していただけると助かりやす。」
「ありがとう。では、ちょっと行ってきますね。」
「おい、なんでここ、宴会場になってるんだ?」
「わかんねーけどよ。まあ、美味いって言ってもらえてるんだから、いいんじゃねえか?」
「だな。」
味見のはずが、いつの間にか宴会になって、大いに盛り上がっている。
「いやあ、どれも美味いなあ。絶対人気の店になる。」
「売れ残ったら絶対持って帰ってくれな。」
「売れ残らないでしょう。」
「そうか、そうだな。わははは。」
「セビエスキさんや、いかがかな?」
「はい。どれもとても美味いです。」
「そうかそうか。そうじゃろう。キャサリンの料理はどれも美味くてなあ。ブライアン君もキャサリンの料理で胃袋を掴まれたクチなんじゃよ。なあ、ブライアン君。あれ?彼はどこに行った?」
ウッドフェルドがブライアンを探す。
「お父様、ブライアン様は今動力の研究でとてもお忙しいんです。」
キャサリンがそう言うと、ブラッドレーが
「なに?研究で忙しいからここに来ておらんのか?なんだ、つまらんなあ。そんな仕事ばかりしていたら、キャサリンを盗られてしまうぞ。わっはっは」
と、言っている。
「お義父様、ブライアン様はご研究熱心なんです。そんなことおっしゃらないで。」
と、キャサリンがぷうとふくれた。
その頬をつついた指がある。
振り向くとブライアンで、キャサリンは大喜びで抱き着いた。
「ブラッドレー様、なにかおっしゃってましたか?」
ブライアンが言うと、ブラッドレーは
「ああ、そうじゃよ。あんまり仕事ばかりしていると、可愛い嫁が攫われてしまうぞ。気をつけろ。」
と、にやりと笑って言う。
「ご心配には及びません。仕事もしますが、それ以上にキャサリンを愛していますので。」
ブライアンはしっかりと言い返す。
「うひゃー、すごいなあ。ちょっと、ラルフィー、ブライアンってさ、変わったよね。昔は愛とかそういうことは自分は関係ないって顔してたのにさ。」
アレックスが、嬉しそうに言うと、ラルフも
「まったくなあ。どんな令嬢にも目もくれなかった、氷の魔導士がなあ。」
と言っている。
「なんだよ、お前だって、氷の公爵令息と言われてただろ。」
ブライアンがやり返す。
「でも、俺は振られたとヤケ酒煽ってその臭いを消そうと酢をがぶ飲みしたことなんかないぞ。」
「ば、ばか。黙れ。」
ラルフとブライアンの応酬に、知らない者たちは興味津々である。
でも、なんとなくほのぼのとしたラブストーリーなのを感じた皆は、生暖かい目でブライアンとキャサリンを見ていた。
味見パーティーが終わり、こんどはレスターがセビエスキチームとジェームスに持っていった。
皆で、その感想はどんなだろうと言っていたら、レスターが戻ってきて、
「全部合格しやしたよ。これから値段をつけるそうで、場所やら外側はセビエスキのだんながしてくれるそうです。」
「レスターさん、おめでとうございます。これから忙しくなりますね。」
「楽しみだな。俺たちも食べに行くからね。」
アレックスが言うと
「えっ、食べに、ですかい?手伝いに、じゃなくて?」
と、レスターがとぼけた顔をしてそう言って、皆が笑った。
ブラッドレーが
「さて、これでうちは薬の販売と食堂は準備できそうだな。あとは、動力の見通しができたら儂らの家電品がスタートできる。おい、ラルフよ、そっちの状況はどうだ?」
と言うと、ラルフが
「うちは大物ですから、ちょっと時間がかかります。でも、動力ができれば、あとは外側の設計は大体できていますから、そう時間はかからないかと。」
と、答えた。
「なんだかブライアン頼み、みたいだよねえ。」
アレックスがため息をついた。
「しょうがないさ。ブライアンはうちの頭脳なんだから。」
「でも、責任重すぎない?」
「ブライアンなら大丈夫だよ。むしろ遣り甲斐があって楽しんでると思うぞ。それに、なにかストレスがあってもキャサリンがいるからし。」
ラルフが言い終わるのと同時に、ふいにブライアンが現れた。
「その通りだ。このくらいで負担に感じる俺ではない。しかもキャサリンがいるかららな。」
キャサリンの肩を抱いて、ブライアンがそう言った。キャサリンはブライアンの肩にもたれてにこにこしている。
「ああそうねー。もうなにも言えません。」
アレックスが笑いながら言った。
ラルフが
「それで、ブライアン、何か進展はあったのか?」
と、期待している顔で訊いた。
「うむ、うまくいけば、動力を売ることと、電化製品を売ることと、両方できるかもしれん。まあ、実験しないといかんが。」
「そうか。コストはどのくらいだ?」
「それなんですが、原料の海水はタダです。が、海水から動力にするところで人手が要ります。海水を汲みだす作業と海水を煮つめて濃度を濃くする作業、そこから動力を作る作業に人出が要ります。まあ、それで電化製品などによって職にあぶれた人たちの再就職先にできるのではないかと思います。」
「すごいな、ブライアン。再就職先までできるなんて。」
「まずは実験だが、少々大掛かりな機械を作ることになるので、少し時間がかかる。」
「手伝うぞ。」
「ああ、助かる。」
「実は、俺らの製品ができると、馬車が要らなくなると思うんだ。そうなると御者や馬の世話をしている人たちの職が無くなるからどうしようと思っていたところだ。いや、これは助かるな。」
「そうか。ということは、すぐにでも人手は確保できそうだな。」
「お馬さんたちの仕事がなくなりますわねえ・・・まさか殺したりしませんわよね。」
「キャシー、馬の心配まで。」
ブライアンが愛おしそうに抱きしめる。(なんて可愛いんだ。たまらん・・・)
「大丈夫だ、馬にも働いてもらうよ。」
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