第30話 始動
さて、スタッフが揃い、目標ができ、具体的な開発予定の品が決まった。あとは実行あるのみ。
まず、全体を5チームに分けた。
ブライアンとゼレチームは魔道薬開発担当
ブラッドレーとウッドフェルドは生活用品開発担当
ラルフとアレックスは乗り物と工具開発担当
セビエスキ以下教育チーム(ロナルド、ヘザー、レスりー、メル、スーザン、シドニー)
営業担当は、ウッドフェルドの元執事のカーター、アレックスの兄のアーロン、同じくアレックスの姉のイレーネ、ラルフとブライアンの学友のコナーとセビエスキの教え子のサマンサである。
キャサリンも参加したいのだが、出産を控えているので、急に長期に休むことになると事業に支障ができるだろうということから、各チームのサブという形で手伝っていくことにした。
皆、やる気満々だ。
ブライアンがゼレと一緒に皆のところにやってきた。
ゼレが猫を抱いている。
「おばあ様、その猫ちゃん・・・あらっ!」
キャサリンが声をあげた。
「この子、脚を大怪我して1本無くしてましたわ。治ったんですか!」
「ふっふっふ、そうなんじゃよ。今までは魔女の薬だけじゃ治らなかったんだがなあ、魔法と合わせてこのとおりさ。・・・よかったのう。」
猫が嬉しそうにスリスリとゼレに身を寄せている。
「素晴らしいわ!おばあ様、ブライアン様、すごいです!」
「ここまでは順調なんだが、人間で試したいんだ。人間は猫の何倍も大きいから、どのくらいの量が必要かと思ってなあ。」
「そうですね。ラルフ様ならご存じでしょう。」
「そうだな、ちょっと訊いてみよう。」
「おい、ラルフ、誰か腕か脚を無くした団員がいたら、紹介してくれないか。」
「おお、もしかして?」
「ああ、この猫では成功した。」
「おおっ、すごいっ、すごいぞ。アレックスーっ、ちょっと来いーっ。」
「なになに?・・・あれっ?この猫」
「脚が複製できた。それで、人間でも試したいんだ。誰かいないか?」
「あーいるいる。この前の王子誘拐の時に腕を無くして騎士団辞めて、それから自棄になって引きこもってるっていう奴。」
「クレイトンか?」
「うん。ずっと邸から出ないし、誰とも会わないんだって。」
「アレックス、お前仲良かったのか?」
「良かった、ってほどでもないけど、一緒に討伐に行ったこともあるし、昼飯時に会えば一緒に行く、くらいの仲。クレイトンって、珍しく平民だろ、それでいかにもって貴族のお坊ちゃんとは付き合いにくかったみたいでさ、俺、変わりモンだから、俺とは大丈夫だったみたい。」
「そうか、ちょっと連絡してみてもらえないか?」
アレックスは勘当されたというのは名ばかりで、実家とは転移魔法でいつでも行き来できるようにしているので、話は速い。
間もなく戻ってきて、
「今からでもぜひ頼みたいって。金はいくらでも出す、ってさ。あの家は大金持ちだからなあ。」
「そうか。ありがたい。たぶん失敗はしないはずなのだが、やはり緊張するな。」
「俺も行っていい?」
「俺も行きたい。」
「ああ、先方さえよければ。」
「団長が行けば喜ぶよ。」
「しまった、そうだ、俺は行けないな。危篤だからな。アレックス、代わりに行ってきてくれ。よろしく頼む。」
「あっ、そうか。そうだね。まあ、治ったらきっと会いに来るよ。」
ゼレが
「儂は失礼しようかね。」
と言う。
「えっ、なぜですか?」
ブライアンが尋ねると、ゼレは
「魔女の薬が混ざっているなんて、気味悪がるだろうよ。」
と言う。
ブライアンは
「気味が悪いと思うなら飲まなければいいのです。そんなことで遠慮するなど、まったくナンセンスです。ゼレ様は俺の自慢のチームメートなんですから、堂々と一緒に行ってください。」
と言う。
ゼレは、驚いたような、困ったような、でも嬉しいような顔をして、そして涙ぐんでブライアンを見て言った。
「ありがとよ。・・・こんなに優しいこと言ってもらえて、わしは幸せ者じゃ。」
キャサリンがそっとゼレの背中を撫でて
「おばあ様、いってらっしゃいませ。おばあ様は私もブライアン様も本当のおばあ様のように思っているのです。自慢のおばあ様ですわ。」
優しく言った。
いつのまにかほとんど全員が集まって来ていて、みんなでゼレを応援する。
「そうですよ。ゼレさんは俺たちの仲間なんですから。堂々と行ってきてください。」
セビエスキも笑顔でそう言い、
ブラッドレーもゼレの肩を抱いて、行って来いとばかりにぽんぽんと背中をたたいた。
間もなく、ブライアン、ゼレ、アレックスが転移魔法で出かけて行った。
・・・と思ったらものの1時間もたたないうちに3人はクレイトンを伴って戻ってきた。
クレイトンは泣き腫らしたような目をしていて、ラルフを見つけると駆け寄って、手を取り、礼を言った。
「クレイトン、久し振りだな。うん、腕があるな。ちゃんと動くか?」
「はいっ。団長、元通りです。ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか。」
「礼は俺にじゃないぞ。」
ブライアンが、
「ああもう、さんざん礼を言ってもらったよ。」
と言って、クレイトンの肩を叩く。
「良かったな。」
ブラッドレーがクレイトンの背後から声をかけた。
「わっ、閣下!お体は大丈夫なのですか?」
「ふふふ、まあな。それはラルフから説明するよ。」
ラルフとアレックスがクレイトンを座らせて、キャサリンがお茶を運び、話し始めた。
キャサリンは、他の皆にもお茶とキャサリン特性の焼き菓子を出して、皆でこの薬似つ いて話をする。「ブライアン殿、ゼレさん、成功おめでとうございます。」
セビエスキが言うと、皆でお茶で乾杯をする。
「ありがとう。これは最初の段階で、欠損した身体の一部の複製で、見た目にわかりやすいので、商売にするには楽かもしれないんだが、さて、値段をいくらに設定すればよいか、これが難しい。俺はそういうことにはまるで疎いし、ゼレさんもだしなあ。」
ブラッドレーが
「たしかクレイトンの実家は大商人だったぞ。その辺の貴族など太刀打ちできないほどの大金持ちだそうだが、それだけの商才があるなら、価格を決めるのもできるのではないかな。」
と言う。
「なるほど、そうですね。」
そこへクレイトンたちが戻ってきた。
「おお、ちょうどいいところに戻ってきてくれた。クレイトン君、ちょっと話を聞いてもらいたいのだが。」
「はっ、閣下、なんなりとお申し付けください。」
「おいおい、閣下はやめてくれ。ラルフたちから話は聞いたんだろう?これからは儂も平民なんだから、ブラッドレーでも、おじさんでもなんでもいい。」
「あははは、お義父様ったらまた『おじさん』ですって。」
キャサリンはこの『おじさん』がツボるようで、すぐ笑って止まらなくなる。
「ははは、キャサリン、かわいいなあ。まあ、かわいいからこのまま笑わせておいて、クレイトン君、実はな、きょう君に使った薬なのだが、あれの価格をどのように設定したらよいか、ここにいる皆はまったくそういう経験も知識も無いので途方にくれておるのだよ。たしか君のご実家は幅広く商売をされていたように思うのだが、どうだろう、価格設定に関して、助けてもらえないだろうか。」
クレイトンは、とても嬉しそうに
「もちろんです。そんなことでよければ、すぐにでも、ええと、兄の一人がたぶん適任だと思うので、早速兄を呼びましょう。」
「アレックス、一緒に行ってくれるか?俺は危篤だからさ。」
「あはは、ラルフィーはそればっかりだ。」
「俺たちは行かなくても良いのか?」
ブライアンはゼレと行くべきかどうか、迷っている。
「あ、兄を呼んできます。実はさきほどこちらの事業についてご説明いただいて、俺も役に立てることがありそうだと思っていたところなんです。もちろん口外はしませんので、ご心配には及びません。」
「そうか、ありがとう。助かるよ。」
クレイトンとアレックスが出かけて行って、薬の話がブライアンとゼレに戻ってきた。
「ゼレさん、こういう薬の材料は揃えるのは大変なのか?どこかで採集するだけなのか?それとも、栽培もできるのか?」
ウッドフェルドが興味深そうに訊いた。
「魔女の薬の材料は、実は驚くじゃろうが、まったく簡単なものなんじゃよ。例えば今回のこの薬は、どこにでもある薬草で、栽培などせんでも、むしろ駆除対象になっとるくらいのものなんじゃ。」
「なんと。その薬草と魔法と、ほかにも何か特別なものが要るのか?」
「そうじゃな。呪文が要るな。」
「なるほど。そこがミソというわけだな。」
ブライアンが
「今後の商品のリストを作るので、ちょっと失礼します。」
そう言うと、ゼレを誘ってチームの部屋に行った。
ウッドフェルドがキャサリンとラルフに
「最近ブライアン君が生き生きしているな。よく笑顔を見せるようになったし、楽しそうだ。良かったなあ。」
と言う。
「そうですよね。キャサリンのおかげも大きいですけど、仕事もすごく楽しそうで、良かった。」
ラルフも嬉しそうだ。
キャサリンが
「ブライアン様にはもっともっと笑っていただいて、もっともっと幸せになっていただかなくちゃ。」
と、力を入れて話し、それをウッドフェルドとラルフは嬉しそうに見ている。
しばらくして、クレイトンとアレックスが何人かを連れて戻ってきた。
キャサリンがブライアンたちを呼びに行く。
その間にセビエスキがお茶を入れる。
ブライアンとゼレがやってくると、クレイトンたちが立ち上がって
「ブライアン様、ゼレ様、これが兄のジョーとジェームス、それから父のチャーリーです。」
「ブライアンです。こちらは同僚のゼレです。お忙しいところ、わざわざありがとうございます。」
「ブライアン様、実はうちは商社でして、いろいろな品物を扱っています。価格をつけるのは父と兄のジェームスが行っています。兄のジョーは営業の責任者です。」
「そうですか。医療関係も扱っていますか?」
兄のジェームスがクレイトンにかわって返事をする。
「はい、そこから先は私が。薬や医療器具なども扱っております。国産品も輸入物もあります。輸出はまだありません。この国は魔法があるので、あまり薬などはつくっていないものでね。」
「なるほど。」
兄のジョーが続ける。
「他の商品は輸出、輸入ともしていますので、販売先を探すことはお任せいただけると思います。その前に、例えば今回のクレイトンにお使いいただいた薬ですと、おそらくどこにもない、前代未聞のものだと思われます。その場合は特許を取ってからにするべきです。まあ、そう簡単に類似品を作ることができるとは思えませんが、念のため、ですね。」
「そうですか。それは気づかなかったなあ。やっぱり専門家の頭脳は必要だ。ありがとうございます。」
「いえいえ、それで、まずは特許を取りませんか。価格はそれからでも遅くはありません。」
クレイトンが口をはさむ。
「兄さん、それはよくわかるんだけど、腕や足を無くした人は、それはもう人生が地獄のような毎日を送っていると思うんだ。なんとか速くできないだろうか。」
「うむ。お前を見ていたからそれはよくわかるつもりだ。最重要項目としてとりかかりたいと思っているよ。・・・あ、あの、すみません、勝手に話を進めていますが、お任せいただけるでしょうか。」
ブライアンがブラッドレーを見る。
ブラッドレーは
「ブラッドレーと申します。我々は魔導士あがりや教師ばかりで、商売に関してはまったく疎いので、ぜひお力をいただきたい。よろしくお願いします。」
「父さん、ブラッドレー侯爵閣下です。」
「ええっ、閣下、知らぬこととはいえ、大変失礼致しました。平にご容赦を。」
父と兄たちが土下座せんばかりの勢いで礼をする。
「いやいや、儂は今は平民でしてな。どうか、閣下とかいうのは無しでお願いします。ブラッドレーとお呼びくだされ。」
ブラッドレーはそう言うと、キャサリンに目をやってにやりと笑って
「おじさん、でもいいのだがな。」
と言った。
「もう、お義父様、笑わせないでくださいませ。」
キャサリンがまたくすくすと笑い出した。
そんなキャサリンを見て、皆がニヤニヤしている。
「うちの嫁はかわいらしいじゃろう?」
ブラッドレーは、なかなか嬉しそうだ。皆はそんなブラッドレーとキャサリンをほっこりとした目で眺めている。
「しかし、なんですな。閣下は、ずいぶんと思い切ったことをなさったものですな。」
「閣下はやめてくれと。」
「あ、失礼しました。ええ、ブラッドレー様、ですな。」
「儂ももう若くはないのでな、やりたいことをしてからあの世に行きたいと思ってなあ。」
「なるほど。実は私もこの頃はそんな風に思うようになってきました。さきほど伺ったのですが、いや、人々が平等な世の中というのは、実に感動的なものですなあ。そんなことができるものなのか、信じられないような気持ではありますが、可能にしたい、と、私の時代では間に合わずとも、子や孫には、皆が平等な世の中で生きてほしいと思います。私なぞ、学も無ければ品もない、つまらぬ者ですが、何か少しでもお役に立てることがあれば、どうぞ使ってやってください。」
「そんな風に言っていただけると有難い。こちらこそ、よろしくお願い申し上げる。」
クレイトン家の父、兄たち、そして本人のクレイトンは、皆ブラッドレーたちの考え方に大いに感動、賛同し、メンバーに加わることになった。
父チャーリーと兄ジェームスは価格、商品管理を担当、ジェームスはその他に、事務手続きも担当する。兄ジョーとクレイトンは営業担当となった。
「これは大きな戦力だ。我々は皆オタク揃いで、その方面の知識とスキルは大きいのだが、それを商売にするという力が無かった。いや、実に有難い。よろしく頼むよ。」
ブラッドレーが大喜び、他の者たちも安堵したように喜んでいる。
「どんどんこき使ってください。クレイトンが生き証人として営業でお役に立てるなら、こんなに嬉しいことはありません。閣下、じゃなかった、ブラッドレー様たちの計画を実現させるためには資金力が必要ですからな。これは私も頑張りますぞ。」
チャーリーもノリノリだ。
既に仕事を始めていたジェームスが、
「ちょっとすみませーん。早速特許申請をしようと思っていますが、まず、会社名、または団体名を教えてください。」
と質問した。
「え?」
一同顔を見合わせる。
「うう・・・そう言われてみれば、団体名が必要だな。いや、みっともないものをお見せした。まったくもってオタク集団なので、そういうことを何も考えていなかった。」
「ははは、そうですか。では会社名を決めて登録するところからやりましょう。」
「はい」
ブラッドレーが素直に返事をした。
それを見たキャサリンが
「お義父様ったら、かわいいー。」
と言って笑い出した。
ブラッドレーは
「こらこら、もうじき60になろうという儂に可愛いとはなんだ。」
と、少し赤くなって文句を言っている。
「ゴホン・・・で、会社名ですけど、社長はブラッドレー様でよろしいですか?」
「うーむ、そうだなあ、儂は今瀕死だからなあ。まあでも実際まだ死んどらんし、この先重度の障碍者として生き延びるから、儂でいいかな。」
「そうですね、皆に異論がなければ、社長は父上でよろしいかと。」
一同が頷く。
「では、ブラッドレー様が社長で、社名はブラッドレー研究所、でいかがでしょうか。」
「うわ、かっこいい。いいねいいねー。」
アレックスがはしゃいでいる。
「ではブラッドレー研究所でお願いしよう。」
「かしこまりました。資本金、など他の必要情報もブラッドレー様、お教えいただけますか?瀕死のところ申し訳ありませんが。」
ジェームスがそう言いながらニヤリと笑う。
「ジェームス君よ、良いね、気にいった。よろしく頼むぞ。」
ブラッドレーはそう言って、上機嫌だ。
ジェームスは次に、
「当面の商品開発計画を教えていただけませんか。」
ブライアンが
「それは、まずうちのチームの計画ですが、これです。」
ブライアンとゼレが話し合った結果をジェームスたちに見せた。
「おお、まずはこのクレイトンの腕を生やしていただいた薬、これが最初の薬になるわけですね。名前は、ええと、そうだな、補綴薬、でどうでしょう?」
「そうですね。具体的には腕や脚だけでなく、指1本から耳たぶなど、身体の外面の補綴ならすべて同じ薬です。もちろん服薬量は変わってきます。」
「わかりました。では、補綴薬。・・・次は、こちらですか。」
「はい。こちらはまだ人間で試していません。これは、たとえば胃にできものができ、ゆくゆくはそれが命を脅かすような場合に、悪くなった胃を良い状態の胃に買えてしまう薬です。」
キャサリンが驚きの声をあげた。
「まあ、すごい!そんなことができるのですか。」
「そうだな。でも、だからといって、永遠に死なないというわけにはいかない。良い状態の臓器に換えても、臓器そのものが年を取るのは避けられないんだ。だが、人間の寿命はかなり長く伸びるだろう。」
「すごいな。そういえば、ゼレさんって何歳なの?」
アレックスが無邪気に訊いた。
「これこれ、女に年齢を訊くか?」
ゼレはそう言って笑うが、笑いながら、
「まあ、そうじゃな、細かいところまで覚えとらんが、だいたい300を超えたくらいじゃよ。」
「ひえー、300歳ですか。すっげえ。で、その、肌とかは新しく取り換えられるんですか?」
「おまえさんも大概失礼じゃな。まあいい。そうじゃな。キャサリンみたいな若いきれいな見た目になることはできるぞ。ただ、それをするには少々疲れるんでな。それでこのままじゃ。」
「でもおばあ様、とても300歳とは思えませんわ。70歳くらいに見えます。」
「そうかい?ありがとよ。まあ、このくらいなら妖怪とも間違えられんじゃろ?それで十分じゃ。」
「おばあさまったら、妖怪だなんて。」
キャサリンがまたケラケラと笑い出した。
ブライアンが
「キャシー、君はしわくちゃになっても可愛いぞ。」
と言って、キャサリンの肩を抱いた。
急にセビエスキチームのスーザンが
「あの、肌ですけど、やけどでものすごくケロイドになっちゃった肌も治せますか?」
「そうじゃな。治せるぞ。」
「あの、私の姉を治してはいただけないでしょうか。」
「おねえさんはやけどでもしたのか?」
「はい、幼いころに、熱湯を頭からかけられて・・・」
「それはかわいそうになあ。じゃあ、ブライアンさんよ、次の実験台になってもらおうかの?」
「そうですね。営業用に何人かは必要でしょうから、従業員特権で。」
「ありがとうございます!」
スーザンが泣いて喜び、キャサリンがスーザンを慰めている。
「あのう、すみません。」
今度は、セビエスキのチームのロナルドが手を挙げた。
「2番目の薬、内臓のほうの補綴薬に関してなのですが。」
そこまで言うと、ロナルドは胃を決したように
「実は、俺の兄が内臓にできものがあるということで、それを切り取ったのですが、また別の内臓にできものができてしまい、しかも今度は2つの臓器にできているということなんです。回復魔法は病そのものを治すことはできないということで、薬草に頼るしかなかったのですが、それも限りがあるようで、最近は目立って衰弱してきています。そうか、兄を実験台にしていただけませんか。兄には幼子が2人いて、このまま死んでしまっては不憫でなりません。」
ブライアンがゼレと顔を見合わせて
「それは大変だ。ぜひお願いします。ただ、もう2-3日待ってもらえますか?今実験している動物の結果を確認してからにしたい。」
ブライアンが、すまなさそうに言うが、ロナルドは
「もちろんです。待ちます。ありがとうございます。」
涙を浮かべてブライアンの手を取ってそう言った。
「話に水を差すようで申し訳ないのですが、そういうことでしたら、外面を治すほうを補綴薬1,内面を治すほうを補綴薬2としましょう。」
「そうですね。」
「それで、価格なんですけど、これは前例に無いものなので、価格は勝手につけ放題、みたいなところはあります。それでもまさかそんないい加減なこともできませんので、材料費や制作時間などを教えていただきたいんですけど、まず、材料費はどのくらいになりますか?」
「薬草は安いもんじゃよ。どこにでもある雑草じゃからなあ。どこででも採れるし、なければ栽培もできる。」
と、ゼレ。
「魔法は上級の回復魔法が使えればできます。上級の回復魔法が使える人は、まあ、何人もいますね。俺も、ラルフも、アレックスも使えます。魔力はそれほど必要ないので、1日当たりこの3人でその気になれば100以上作れます。実際そんなには売れないでしょうけど。」
と、ブライアン。
「そうですか。補綴薬1も2も同じくらいですか?」
「そうですね。」
「わかりました。あ、それから保存は?」
「常温で大丈夫です。」
「1瓶当たり作成時間は?」
「10分もあれば。」
「なんだそりゃ。夢のような薬だなあ。」
誰かが呟いた。
「さてと、それでは価格ですが・・・いやあ、困ったなあ。父さん、どうしましょうねえ。」
「うーむ、変な話だが、ある程度高くないとありがたみがなくなるしなあ。かといって、あまり高いと上級貴族などしか買えなくなるのもいかん。」
「先々の世の中の改革には金がかかりますから、それを見越して、ある程度利益を出しましょう。平民には分割払い、ということも可能にして、それも無理な人には、仕事を斡旋して無理のないように払ってもらう。」
「わかりました。ではそれで価格を決めます。」
「とりあえず、ブライアン・ゼレチームは、この2つから行きます。」
「はい、よろしくお願いします。」
「では、次にブラッドレー様チームかラルフ様チーム、お願いします。」
「儂らはまだ試作品もできておらんので、今日のところはすまないが後日持越しだ。」
ラルフが
「うちもです。すみません。」
「わかりました。では、まずはブライアン・ゼレチームで始めて資金を作っていきましょう。」
「特許を申請して、会社を立ち上げて、営業できるようになるまで、どのくらいかかりますか?」
ブライアンが質問する。
「ああ、1日でできます。今から行ってきてもいいし、明日でもいいですよ。」
「そうですか。大至急というわけではないので、今からじゃなくて構いません。まあ、そういうことだと、今日中に10個くらいはサンプル用として用意しておいた方が良さそうですね。」
「そうですね、お願いします。営業のチームの方はいらっしゃいますか?」
「「はい!」」
スーザンとシドニーが手を挙げた。
「私は、可能であれば、姉を治していただいて、その治った姉と共に営業に行きたいです。」
シドニーが
「実は私は営業担当になろうと思っていたのですが、ロナルドが変わってほしいと言うので、私は教師の側にまわり、ロナルドが営業になり、彼の元気になった兄と共に営業をしたいと言っています。」
「なるほど、それはいいですね。実際に経験した人が一緒に営業に回れば、説得力があります。ではお二人はジョーたちと計画を立ててください。」
「教師担当チームがあるのですね。」
セビエスキが説明する。
「はい。うちの領内に学校を作ります。今はまだ2人しか子供はいませんが、大人向けの読み書きと算術を教える教室は、すぐにでも開校したいと思います。」
「ああ、なるほど。」
「そして大人の生徒には、いろいろ希望を聞いて、職業訓練も行おうと思っています。」
「では、学校を作るならば、その名称も必要ですね。校長はセビエスキさんで、学校名は・・・?」
「セビエスキ・アカデミーはどうじゃ?」
ブラッドレーからの意見だ。
「せっかく私の名を冠した名をお考えくださって有難いのですが、生徒の将来を考えると、ブラッドレー・アカデミーのほうが良いかと思います。研究所と同じ名で、将来有能な技術者が育つ可能性を考えると、自分の出身校に誇りを持つという意味でも、それが良いのではないかと。」
「そうだな。たしかに、うちのチームは将来技術者がたくさんいるようになる。父上のチームもそうでしょう。」
ラルフがセビエスキに賛成する。
「なるほど、言われてみればそうじゃな。うちのチームにも多くの技術者が必要だ。ではブラッドレーアカデミーとしよう。」
ブラッドレーも納得した。
「承知しました。それで登録します。学園町がブラッドレー様、副学園長がセビエスキ様、ということで登録してよろしいですか。」
「よろしく頼む。」
「承知しました。」
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