第29話 事業計画
「ではセビエスキ卿、少し我々の計画を話したいが良いかね?」
「もちろんです。お願いします。あ、それから『セビエスキ卿』ではなく、セビエスキ、またはイアンをお呼びいただけますか?私も将来平民になりますので。」
「そうか、では、イアン君と呼ばせてもらおう。」
「ありがとうございます。」
「それでな、儂らの計画だが、当面の目標は『平民の生活向上と技能向上』としてい る。」
「おお、それは素晴らしい。」
「それでな、儂らは皆、元魔導士でな、魔法がそこそこ使えるのだ。ブライアンは先週まで国の筆頭魔導士だったし、ラルフは魔導士団長だった。儂を含め他の2人も魔導士であった。そこで、魔道具を開発していこうと思っておるのだ。もうひとり、強力な味方がいてな、こちらのお方だが、ゼレ殿と言って、魔女だ。すでにブライアンはゼレ殿と共同でかなり有用な魔道薬を開発している。」
「すごい・・・」
「我々はまずどういうものを開発していくか案を出していてな、これからそれを開発していこうと思っているのだが、ひとつ、足りないものがあって、それをイアン君に相談したいのだ。」
「はい、私でできることなら、なんなりと。」
「それはな、子供たちの保育、教育なのだ。」
「なるほど。」
「これはブライアンとキャサリンとウッドフェルドが中心となって、孤児院というか、孤児のための家庭を作ろうと思っている。場所はまず王都のウッドフェルドの邸を予定している。」
「孤児院ですか・・・孤児院というと、だいたい教会が運営していますね。」
「そうだな。貴族の寄付で教会が運営しているものがほとんどだろう。まあ、それはそれで否定はしないがな、我々はもうすこし違った形の孤児院にしたいのだ。それについては、キャサリンかブライアンが説明させてもらおう。」
キャサリンとブライアンが顔を見合わせて、キャサリンが「ブライアン様、私は来年早々からしばらくできませんから、ブライアン様からお願いできますか?」と言った。
「では、私から。実は私は平民で、孤児院の出身です。私がいた孤児院はおっしゃるように教会が貴族の寄付で運営していました。そこで私は飢えずに生活させてもらえましたし、それなりに読み書きなども覚えました。ある日、魔道学校に行くように言われて孤児院をあとにし、魔道学校に入り、魔法を覚え、魔導士になり、ここまで来ました。私はたまたま魔力があったので、このような道を来ましたが、大多数の者はおとなになったら職人のもとに弟子入りするか農家の小作人になるか、女子は女中になるか、悲しいことに娼館にいく、というような道を歩んでいます。」
「それは、つまり、ブライアン殿は例外として、ほとんどの者は孤児院を出たら奴隷のように働くか、娼婦にさせられるか、というような道を歩むと言うことですか。酷い・・・」
セビエスキ卿は悔しさのあまり唇をかんだ。
「そこで、我々の考える孤児院なのですが、まず、いままでの孤児院の概念にとらわれず、ひとりひとりの子が家庭に入る、家族の一員となる、ということです。そして、読み書きと算術を学びます。少し大きくなったら、学校に通い、なおかつ宿屋の使用人たちから大工、庭師、調理師、裁縫士、刺繍士などを学ぶことも積極的に勧めていきたいと思っています。」
「なるほど。手に職を付ければ、奴隷や娼婦にならずに済みますな。」
「はい。そこで、なのですが、その子たちに読み書きと算術を教えていただける方を紹介していただけないでしょうか。」
「なるほど。それなら私のグループの者たちができそうです。貴族も平民もいますし、皆、教育も受けています。・・・いやあ、素晴らしい計画ですな。教育は国の土台となるものです。孤児たちの可能性を広げることは、国の可能性を広げることと同じです。もしよければ、今週の勉強会にブライアン殿も参加していただけませんか。そこで参加者を募りたいと思いますが。」
「はい、よろしくお願いします。」
「今のところ、孤児は何人いますか?」
「まだ2人だけです。ひとりは調理場で手伝いをしてくれています。もうひとりはもっとずっと小さい子です。2人とも、この家に住んでいます。将来人数が増えたら王都の邸にと思ってはいますが、そのへんのところはまだはっきりしていません。王都のほうが学校も多いし、良いかとは思いますが、私たちと近しいほうが精神的に良いかとも思いますし。」
「そうですか・・・」
セビエスキはしばらく無言で考えている様子で、皆はそれを見守っている。やがて、セビエスキは
「ブライアン殿、その孤児院ですが、王都ではなく、この領地ではだめでしょうか。」
「この領地ですか。そうですね、ブラッドレー様、どうでしょう?」
「うむ、ここでということになると、この島のなかにするということか?それとも、領都にでも?この島は儂の私有地なので好きにできるが、ただ、仮病の件があるのでなあ。」
「いえ、領都のほうです。今、引継ぎがまだ済んでいませんので、はっきりとは言えないのですが、私は、貴族と平民というような身分の差がある世の中は正しくないと信じています。勉強会の皆もそうで、いずれこの国が王制を廃止し、皆が同じように生きていける国になるようにしたいと思っています。先日、閣下にご助言いただきましたが、事を急がず、まずは領地を理想的な地にし、そこから徐々に賛同者を増やしていくという方向で進みたいと思います。私は元々教師ですので、教育が国の基本だと言うことは肌で感じています。子供は国の宝です。孤児院や学校、職業訓練校を私にお任せくださいませんか。」
「おお、そう言ってもらえると、何より嬉しい。ありがとう。ただ」
「ただ・・・何か問題でも。」
「いや、ただな、儂はもう平民なのだ。閣下はやめてもらいたい。おじさんでもなんでもいいから、閣下はやめてくれ。」
「おじさんって。」
キャサリンがクスクス笑いだして止まらない。
「い、いや、いくらなんでも、おじさんはちょっと。・・・それでは、ブラッドレー様と呼ばせていただいてもよろしいでしょうか。」
「うむ、まあ、様もいらんのだがな。仕方ない、最初はそれでいくか。」
「それでは教育関係はセビエスキ君にお願いすることでよろしいですか?」
ブライアンが一同に是非を確認し、セビエスキ卿が教育関係の責任者となった。
「あの、私のことは、イアンでもセビエスキでも、まだ平民ではありませんが、気持ちはすでに平民ですので、そのようにお呼びいただけませんか。」
「あ、そうでしたね。はい、ではイアンと。」
「のう、ブライアンさんよ、ちょっといいかね?」
ゼレがブライアンに呼び掛けた。
「はい、なんでしょう?」
「王都とここと、いちいちお前さんが送り迎えするのもめんどうじゃろう?わしの家とここをつなげてしまってはどうかね?」
「そうですね、それも考えたのですが、魔法陣が見つかると、いろいろ厄介なことにならないかと・・・あっ」
ブライアンがはっとした顔をみて、ゼレが笑う。
「魔法陣なしで移動できればいいのじゃろ?」
「そうですね。」
「わしの家はまだあそこにあるぞ。入り方を教えれば、使えて便利じゃろう。」
「そうですね。念のため、入れる人を限定するようにしておけば王室からの忍びなどの心配をしなくても良いでしょう。それは簡単にできます。」
「そうかそうか。のうキャサリン、わしとブライアンさんはなかなか良いコンビじゃろ?」
「ふふふ。はい。ヤキモチ妬いちゃおうかしら。」
「キャシー」
ブライアンが焦る。
「これだよな。ブライアンは腹黒いくせにキャサリンのことだけは妙に純情になる。」
周りが笑っている。セビエスキだけ慣れないからか困った顔をしている。
「ゴホン・・・それではセビエスキ君、転移の方法は明日までに作りますので、明日知らせます。」
「ありがとうございます。私は魔法がほとんど使えないので、こういうのはとても興味深いです。」
「本当に魔法がほとんど使えないんですか?ちょっと鑑定してみても?」
ラルフがそう言うと、セビエスキはどうぞどうぞと手を広げた。
「いや、別に手を広げなくても。はははは。ではちょっと失礼して。」
ラルフがじっとセビエスキを見て、
「なるほど。たしかにほとんどありませんね。ただ、鑑定だけはけっこうレベルが高いです。」
「えっ、そうなんですか?それって具体的にどんなことができるんですか?」
「人であれば、その人の能力とかが見えます。物であれば、それが何なのか、どういうことに有用なのか、などがわかります。さすが、教育者向けの能力ですね。」
「うわあ、そうなんですか。すみません、どうやって使えるようになるか、ご伝授いただけませんか?」
「お安い御用ですよ。明日、またお越しいただければ、その時にでも。」
「いやあ、嬉しいなあ。みなさんと出会ってから、どんどん楽しくなってきた。」
ブラッドレーが
「新しい仲間が増えて楽しいが、夜も更けてきたので、そろそろお開きにしようぞ。儂は重病人なのでな、あまり夜更かしはできないのだ。」
「またそんなことおっしゃって。」
キャサリンがケラケラ笑う。
「キャシー、君のほうがもっと夜更かしできないぞ。」
ブライアンが言うと、
「そうじゃ、キャサリン、お前さんはもう休みなさい。」
ウッドフェルドが心配そうに言い、その隣でブラッドレーもうんうんと頷いている。
「はーい。」
それから解散し、各々の部屋に向かい、ブライアンはセビエスキを送って行った。
「ブライアン殿、キャサリン様はご病気なのですか?」
とセビエスキが訊く。
「いえ、病気と言うか、身重なのです。」
「おお、そうですか。それはめでたい。」
「ありがとうございます。」
「ええと、キャサリン様はラルフ殿の奥様ですよね?でもブライアン様ととても仲が良いようだ。ブライアン殿は兄上ですか?」
「ああいえ、その、いろいろと事情がありまして、キャサリンの子の父親は俺です。ラルフは表向きの夫と言うかなんというか、まあ、そのあたりはおいおい説明します。」
「そうですか。すみません、ついずけずけと訊いてしまって。」
「いいえ、いいのですよ。貴族社会は何かと面倒ですから、こういうこともあります。ラルフはアレックスとカップルです。」
「えっ・・・ああ、なるほど、そういうことですか。わかりました。貴族社会は本当に腐ってます。私も若い頃は見合いもさせられましたし、親に強制的に結婚相手をあてがわれたこともあり、そこから逃げたりして、相手の令嬢には申し訳なかったと思います。でも、やはり意に染まぬ結婚などするべきはない。」
「これからは世の中も多様性の時代になっていくのではないかな。私も筆頭魔導士などになってしまって、何度も見合いをさせられたりしましたが、令嬢たちは皆、私ではなく、私の肩書と給料などしか見ていない。女性というものに失望しました。」
「そうですね・・・でも、キャサリン殿とは円満なのですか?」
「はい。おかげさまで、キャサリンは肩書ではなく私を見てくれています。そういう女性もいるのかと、実は驚き、いろいろ葛藤もありました。でも、そういう女性もたしかに少なくともひとりはいました。」
「いいですね。羨ましいです。私はもう無理だろうな。まあ、それよりも今はこの領地をどうやって理想的なモデルケースにできるか考えるほうがやりがいがあって幸せです。」
そんな話をして、夜も更けていく。
ブライアンが戻ると、キャサリンは長椅子でうたた寝をしていた。
「キャサリン、身体を冷やしたらいけない。ベッドで寝よう。」
ブライアンはそう言ってキャサリンを抱き上げ、ベッドに運んだ。
「あ、ブライアン様、おかえりなさい。寝ちゃってましたわ。ブライアン様の夢を見ていました。」
ブライアンはキャサリンを腕枕して、髪を撫でながら
「どんな夢だった?」
「ケーキがいっぱいあって、私がどれにしようか迷っていたら、ブライアン様が全部食べればいいっておっしゃって、私は全部なんて到底食べきれないわと悩んでいました。」
「ははは、楽しい夢だな。今度王都でケーキを食べよう。」
「はい!」
翌日、早朝にブライアンはゼレの部屋を訪れた。
「ゼレ様、もうお覚めだろうか?」
「はいよ、起きとるよ。年寄りは早寝早起きじゃ。」
「実はきのうの魔法陣なしの転移について、少々伺いたいことがあります。」
「ほう、どんな風にするかい?」
「最初は個々が眼球で認証できるようにしようかと思いましたが、そうすると、新しい人を呼びたい時にいちいち前もってその人に認証を与えなければならないので面倒だと思いまして。」
「ふむふむ、それで?」
「セビエスキ殿に認証権限を与えてはどうかと。」
「そうじゃな、ブライアンさんとラルフさんと、何人かは認証権限をもっていればいいじゃろうな。」
「そうですね。では、そういう風にして、今日からゼレ様の隠れ家を使わせていただきます。」
「ふふふ、あんなあばら家でも役に立って喜んどるよ。」
そんな話をしていると、ドアをノックする音と、ミモザの
「おばあしゃま、朝ごはんでしゅ。」
という声が聞こえた。
「おお、おお、。ミモザちゃんか。ありがとうな。可愛いなあ、ミモザちゃんは。」
ゼレが嬉しそうにミモザの頭を撫でて、食堂に手をつないで歩いていく。
その横をブライアンが微笑みながら歩いている。
幸せそうな光景だ。
その日はセビエスキがやってきて、ブライアンとキャサリンとゼレも一緒に王都に行った。
まず、王都でメンバーたちに連絡を取り、いつも使っていた集会場に集まった。
そこで、セビエスキが一連の話をすると、メンバーの全員が参加を希望した。
ゼレがセビエスキにメンバーの認証権限を授け、その日、セビエスキと共に、勉強会のメンバー達がブラッドレー邸に集まった。
一方、ブライアンとキャサリンは、久し振りに王都でケーキを食べるデートを楽しんだ。
「ブライアン様、すごくおいしいケーキでしたわ。昨夜の夢を早速正夢にしてくださってありがとう。」
「どういたしまして。俺も甘党だからな。楽しかったよ。」
そしてふたりはケーキをどっさりと買いこんでゼレの家に行った。
そこにはゼレだけがいて
「あら、おばあ様、みなさんは?」
「ああ、みんな喜んで興奮して領地に行ったよ。」
「まあ、そうでしたの。ごめんなさい、お待たせしてしまって。」
「いやいや、用は済んだのかい?」
「はい。おばあ様にもみなさんにもいっぱいケーキを買ってきました。これからみんなで食べましょう。」
「おお、そうか、それは楽しみじゃ。ありがとよ。」
「キャサリン、また食べるのか?」
キャサリンはふふふと笑って
「はい。今度は赤ちゃんのぶん。」
「なるほどな。」
ブライアンとゼレがそれで笑って、ブラッドレー邸に帰っていく。
ゼレが
「キャサリン、わしも長く生きてきたが、こんな幸せを味わえるなんて思いもせんだったよ。ありがとなあ。」
と、少し涙ぐんで言っていて、ブライアンとキャサリンは、実の祖母だと思ってこの人にたくさん幸せになってもらおうと目を見合わせて誓うのだった。
さて、ブラッドレー邸に戻ると、ブラッドレーグループとセビエスキグループのメンバーたちが、すっかり仲良くなっていろいろな意見を戦わせていた。
きょうはウッドフェルドは旧領地の引継ぎに出かけていた。
出かける前に、後任の貴族がどのような人かわからないが、少し良くない噂を聞いたと、ウッドフェルドは心配そうにしていたのをキャサリンとブライアンは心配していた。
旧領地から王都の邸を経由して、夜にはブラッドレー島に来ると言っていたが、果たして、夕方になってやってきたウッドフェルドは、疲れた顔をしていた。
「お父様、お疲れさまでした。問題なくお済みですか?」
「うむ、まあ、終わったには終わったがなあ・・・心配の種ができてしまった。」
「まあ、それはいけませんわね。どんなご心配ですの?」
「ああ、まあ、儂がどうすることもできないのだがな。新領主はいかにも貴族の悪いところそのまま、と言った感じの男でなあ。領民から搾り取った金で贅沢したいというのが見え見えだった。」
「そんな・・・」
「本人もだが、奥方もご子息もご令嬢も、それはもう、贅をつくした出で立ちでなあ。しかも側室が3人もいて、子供も何人かいると聞いた。」
「まあ・・・」
「カーターも同行したのだが、新領主の執事にそんなに低い税率でよくもまあいままでやってきたものだと呆れたように言われたと言っていた。」
「引継ぎの後、領民の家を回ったのだが、今までの領主としての儂はだらしがなくて甘すぎたが、これからは他の領地並に真面目に働いてもらうのでそのつもりで、というお達しが出たそうだ。皆、不安がっていた。それぞれにほんの少しずつだが、当面のしのぎにといくばくかを渡したが、見つかったら取り上げられるかもしれないと恐れておった。儂は自分だけ貴族を辞めて責任を放棄したのだと、今更ながら思い知ったぞ。これからせいぜい頑張って、魔道具で金を作って領民たちに渡せたら、と思う。」
「そうです、お父上。我々のできることは、魔道具などで儲けてそれで平民たちが幸せに暮らせるようにすることです。もしどうしても耐えられないという領民がいれば、王都の邸で働いてもらうことも可能でしょう。」
「そうですわ。あそこで宿屋とレストランをしてもらえば、けっこう雇えるんじゃないでしょうか。頑張りましょう、お父様。」
「そうだな。ここで嘆いていても始まらん。やるしかないな。」
「はい!」
「お父上、おそらく魔道薬はかなり高く売れると思います。偽聖女のための物はローザニアだけでなく、いろいろな国で売れるでしょう。かなり高額でも売れると思います。他にもゼレ殿に協力していただいて、目が見えるようになる、手足を複製できる、などの魔道薬もよく売れると思います。まだ話をしていませんが、アレックスに話してハースにも営業したいと思います。もちろん他の国にも。その売り上げを元に、他の物を作っていけば良いかと思います。」
ウッドフェルドはブライアンの手を取って
「ブライアン君、きみは実に頼りがいのある婿じゃ。キャサリンに優しくしてくれるばかりでなく、仕事の方でもすごく頼りになる。キャサリンも儂も運が良い。感謝して余りある。」
と、少し涙目で言った。ブライアンはそれに対して
「お、俺なんかがそんなに言っていただくなど、身に余ります。キャサリンと出会えただけでも幸運すぎるのに、お父上まで。俺は親はいましたが捨てられた孤児ですが、今こうやって新しくお父上ができ、ゼレ殿は祖母のようだし、幸せで怖いくらいです。」
「ブライアン様・・・」
キャサリンが思わずブライアンにもたれかかって甘えた。
そこに、アレックスの陽気な声が聞こえた。
「じゃじゃじゃーん、みなさん、平民のアレックス・トーレスが参りました。以後よろしくお願いします。」
「おおっ、早かったな。」
「ふふふっ、例の作戦を使ったのさ。」
「そうか、良かった。」
ラルフとアレックスが喜び合っているところに、ブラッドレーが
「作戦とはどんな作戦じゃ?」
「それはですね、父上、アレックスは勘当されたのです。」
「勘当?!」
「はい。勘当されれば自動的にもう貴族ではなくなります。それと、まあ、不名誉だからと騎士団にも退団届を出し、すぐに受理されました。」
「勘当の理由は?」
「同性愛者ってことで。」
「わははは、世間の悪い慣習を逆手にとって、うまくやったな。」
「ありがとうございます。本当に、こんなにあっさり上手くいくとは、我ながらびっくりです。」
「じゃあ、このケーキはお祝いですわね。どうぞ、いくつでも召し上がって。」
キャサリンがケーキの大きな箱を差し出した。
「あれ、王都に行ったんだ。ケーキデート?」
「はい。」
「いいねいいねー。じゃあ、これと、これと、これと。」
「お前、そんなに食うのか。」
「いいじゃん。めでたいんだからさ。あ、そうだ。こどもちゃんたちはもう食べたの?」
「まだです。呼んできますわね。」
しばらくしてキャサリンが涙目で子供たちを連れて戻ってきた。
「キャシー、どうした?何かあったのか?」
ブライアンがすぐにキャサリンの表情が暗いのを見て心配そうに訊いた。
キャサリンが
「大丈夫です。ただね、ケーキ食べましょうって言ったら、この子たち、ケーキが何か知らなかったの。なんだかそれで悲しくなっちゃって。」
そう言って泣きそうになる。
「そうか。大丈夫だよ。これからいろんないいものを覚えさせような。」
ブライアンがキャサリンの肩を抱いてそう言った。
ミモザが
「きれーい、これって食べられるの?」
と訊いてきた。
アレックスが
「おう、ぜーんぶ食べられるぞ。いっぱいあるからな。いっぱい食べような。」
そう言って、ミモザの皿にケーキを乗せてやった。
ミモザは不思議そうに見て、それからアレックスに差し出されたフォークのケーキをぱくっと食べた。
その途端、
「おいしいー。甘ーい。」
と言っておそろしい速さで食べた。
「おい、落ち着いて食べろよ。お腹痛くなるからさ。いっぱいあるんだ。無くならないさ。」
おとなたちはその様子を見て、キャサリンだけでなく、皆、切なさと怒りの感情が混ざったような顔をしている。
ブラッドレーが
「この子たちのためにも、頑張ろうな。」
と言い、皆、大きく頷くのであった。
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