第24話 誘拐

 「それはそうと、きょう、王宮で嫌な噂を聞いた。」

ブライアンが、嫌そうに顔をしかめて話し始めた。

「魔導士団の若い奴らが言ってたのだが、どうやら聖女様がいるようで、王家が探しているんだとか。」

「なに!」

「それで、まずいことに、あいつら、聖女が誰だか知らないが、団長の奥方だったらいいな、などと言っているのだ。」

「なんと!」

「団長の奥方からの差し入れの菓子食ったら元気になったぞとか言ってる奴もいて、それには薬草入りだってことだと説明してた奴もいたが、薬草でもなんでもいいから団長の奥方は優しくて美人だから聖女でいいよな、などと言っていた。」

「わ、私、余計なことしてしまいましたわ。どうしましょう。」

「グリーンバーグが王子を救出した時にキャサリンの待つところに戻ったのが怪しいと言っているそうだ。キャサリンが聖女だから王子を回復させたのではないかと。」

「ええっ」

キャサリンが怯えた顔でブライアンを見た。

「大丈夫だ、キャシー。君のことは絶対に守るから、心配するな。」

「まったくどうしてそういう無責任なこと言うかな。ラルフィー、僕が何か言いふらそうか?」

「困ったな。たしかにキャサリンは団員たちからやたら人気があるからなあ。」

「そもそもあのグリーンバーグが余計なことを言い出すからこんなことになるのだ。まったく忌々しい奴だ。斬り殺してやりたい。」

「ちょっとブライアン、物騒すぎるよ。」

「しかし、もしもキャシーを王子の嫁になど召しだされでもしたら。俺はまだ貴族だから逆らえない。」

「いや、絶対にいやです。」

不安そうなキャサリンをブライアンが抱きしめた。

「とりあえずキャサリンも一緒にいて感染したことにするか。」

「そうだな。もう、みんなで感染するのが一番いいな。」

「ではちょっと父上と話して、そういうことで準備をしてくる。君たちはちょっとここで待っていてくれるか。」

そう言い残してラルフは急いで部屋を出て行った。


 しばらくしてラルフが戻ってきた。

使用人たちは口の堅い一部のものだけ邸に残し、ほかは別邸に移して隔離することにした。

ラルフも症状が出てきたということで、ブライアンに副団長への手紙を託す。ブライアンがラルフの親友なのは周知なので、その辺は問題ない。

キャサリンは大事をとって邸で隔離。

アレックスは騎士団に戻り、情報を収集することにした。

「キャシー、少しの間城に戻って、あとでまた来るからな。邸から出ないで気楽にしていてくれ。」

「はい。本でも読んでます。なんだかかくれんぼしてるみたいで、ちょっと楽しいですわね。」

キャサリンは気楽に笑っている。

「ラルフィー、何か欲しいものあったら言って。持ってくるから。」

「ああ、ありがとう。いろいろ情報を集めてくれ。特にグリーンバーグのな。」

「任して。じゃあね。」

ブライアンとアレックスがふっと消えていき、ラルフとキャサリンが残った。

「まったくあのグリーンバーグという男は薄気味の悪い奴だとは思っていたが、あんなにブライアンに敵意を持っているとはなあ。」

ラルフが忌々しそうに言った。

「出来が良いから嫉妬されるんですもの、まあ、しかたないかもしれませんわ。」

「ブライアンは今まで嫉妬されることも多々あったが、いつも無視してきたんだが、こんなふうにちょっかいを出されたのは初めてだよ。」

「そうですか・・・いやな方ですわね、グリーンバーグ様って。」


 ラルフが父に呼ばれて部屋に行くと、父は結界を張り、幻影魔法も使って話し始めた。

「実はな、王家から忍びが来ておるようだ。儂は何もせずおとなしく寝ておるからバレてはいまい。それでな、そろそろ悪化したらよいかと思ってな。」

「そうですか、そういえば、ブライアンがキャサリンとまた魔女の家に行き、いろいろ薬をもらってきたようですので、ちょっとブライアンに訊いてきます。」

「頼んだぞ。危篤になったほうがよいかと思ってな。」

「ははは、そうですね。では行ってまいります。」


 ラルフはブライアンと念話で話をしたのだが、キャサリンが薬をいろいろ持っているので、キャサリンから薬をもらうことにした。

「ええと、これが心臓の音がすごく弱く聞こえるようになる薬だそうです。それとこれが顔色がすごく悪くなる薬だそうで、併用すると良いということでした。」

「素晴らしいな。いや、魔女というのは大したものだ。いつか会ってみたいなあ。」

「まあ、ラルフ様まで。ふふふ。魔女のおばあ様、喜ばれますわ。」


 そして、ブラッドレー卿は医師が来る少し前にその薬を飲んで待った。

脈をとった医師は大いに驚き、王家にはブラッドレー卿危篤の報を送った。同時に医師はラルフの身体に発疹を見つけ、これも王家に報告した。

キャサリンは大袈裟に心配してみせた。


 現在、ブラッドレー卿の中には5人の病人がいる。

ブラッドレー卿とラルフ、それと執事、侍女のマリー、料理人見習いの5人である。

執事とマリーはもちろん長く忠誠を誓っているので問題なく、料理人見習いはかつてキャサリンが助けた浮浪児でキャサリンのためには命もなげうつと言っているくらいなので、これも信頼できる。

忍びの報告はアレックスが監視しているが、流行り病に関して王家は疑ってはいないようだ。


 キャサリンはブラッドレー卿とラルフにお茶を入れ、病室に運んでいる。

なにやら子供の泣き声が聞こえて窓から外を覗いてみた。すると、幼女がしゃがみ込んで泣いているのが見えた。

キャサリンは窓からあたりを見渡し、その子供に声をかけた。

「どうしたの?どこか怪我でもしたの?」

その声を聞いて、子供は

「おねえちゃん、こっち来て。」

と言った。

「ごめんなさいね、今ね、ここから出られないのよ。あなたのほうから来てちょうだい。」

子供はこくりと頷くと窓のほうに歩いてきた。ひざから血が出ている。

「まあ、怪我をしているわ。いらっしゃい。手当してあげましょう。」

そう言ってドアを開けたその時、何者かがキャサリンの口を布を持った手で塞ぎ、キャサリンは気を失った。


 ラルフはキャサリンの戻りが遅いので気になって父の部屋に行った。

「父上、キャサリンは来ましたか?」

「いや、茶を淹れてくれると言っていたが。」

キャサリンがいない。ラルフは嫌な予感がしてキャサリンを探しに厨房に行ってみた。

途中、子供の泣き声がする。見ると、外に泣いている子供がいて、そのそばの戸が薄く開いていた。

ラルフはそこから外を見回す。

「キャサリン、いるか?」

声をかけても返事がない。

子供に訊いてみる。

「おい、きれいなおねえさんを見かけなかったか?」

子供はすっかり怯えてよけい泣きじゃくった。

「怒っているのではない。そうだ、これをやろう。」

ラルフはポケットから飴玉を取り出し、子供の目の前に差し出した。

子供は飴玉を取ろうと手を出す。その手をラルフは掴んでもう一度訊いた。

「なあ、きれいなおねえさんを知らないか?」

子供がこくりと頷いた。

「どこにいる?」

「おねえちゃんは、おじさんがだっこして連れてった。」

「なに!おじさんとは、どんなおじさんだ?」

「ごめんなさい。ごめんなさい。」

子供はそう言って大きな声で泣き出した。

「怒ってるんじゃないぞ。おねえさんを探しているんだ。」

「あのね、おじさんが、おねえちゃんを外に出したらお菓子くれるって言ってね、おじさんのところに行ったら、どんって押されて転んだの。それで痛くって泣いてたらおねえちゃんがどうしたの?って」

「それでどうした?」

「おねえちゃんがあたいの足見て血が出てるから治してくれるって言ってドアを開けたら、おじさんがおねえちゃんをだっこしてどっか行っちゃったの。お菓子くれなかった。」

ラルフが舌打ちをして、

「おいで。お菓子をあげるから。」

そう言うと、子供の手を取って、父の部屋に急いだ。


 「何っ、キャサリンがさらわれたと?」

「はい。私は急いでブライアンとアレックスに連絡を取りますので、父上、すみませんがこの子からいろいろ訊いていただけませんか。」

「わかった。よしよし、怖がらずともよいぞ。このおじさんと一緒に菓子でも食べながらおねえさんのことを教えてくれるか?」

子供はこくりと頷くと、ブラッドレー卿のそばに座った。


 ラルフは大急ぎで念話でブライアンとアレックスを呼んだ。

ブライアンはかなり取り乱しており、アレックスに落ち着くように言われていた。

「その子供はどこにいる。話が聞きたい。」

「まあまて。焦る気持ちはわかるが、まずは深呼吸しろ。今、父上が子供から話を聞いている。怖がらせてしまっては子供は何も話せなくなる。」

「そうだよ。それに、キャサリンは絶対に命は大丈夫だし。犯人はどうせ王家かグリーンバーグかだろ。」

「くそっ、グリーンバーグの野郎。」

「落ち着け、ブライアン。キャサリンは絶対に大事にされてる。」

「しかし、キャシーは妊娠しているのだぞ。手荒に扱われては、命にかかわる。」

「だからぁ、大丈夫だってば。キャサリンを聖女だと思った奴らが攫ったんだろうから、だったらものすごく大事にするって。だって、金蔓でしょ。または権力のためか。どっちにしろ、キャサリンが怪我でもしたら商品価値が下がるから大丈夫だって。」

ブライアンはそれを聞きながらも怒りで爆発しそうだ。

「おい、ブライアン、落ち着け。今お前が魔力で爆発でもしたら、俺たちみんなの将来のためにしてることが台無しになるぞ。少し鎮めろ。」

「くそ、忌々しい。」

ブライアンはそう言いながらも目を閉じ、深呼吸をした。


 「ラルフィー、ちょっと俺、グリーンバーグの様子を見てくるよ。グリーンバーグの取り巻きもちょっとだけだけどいるしね。そいつらの動きを見てくる。」

アレックスはそう言うと、ふっと消えていった。

そんな時、ドアをノックする音が聞こえた。

ラルフが開けると、料理人見習いの少年が立っている。

「あの、キャサリン様、大丈夫ですか?」

「お前、何か知っているのか?」

「あの、あの、実は俺、調理場で芋の皮むきしてて、その時子供の泣き声が聞こえてきたんです。それで、キャサリン様がその子を見てて、そしたら男が布をキャサリン様の口に押し付けて、それからキャサリン様を担いで走って行ったのを見ました。」

「なにっ、それはどんな男だったか見たか?」

「それが・・・覆面をしてたので、顔はわからなかったんですけど、背がすごく高くて痩せててこっちの手首に大きな傷があって、たぶん指の数が少なかったような。」

「手はどうやって見たのだ?」

「その手でキャサリン様の口を塞ごうとして、キャサリンさまがぐぐっと掴んだので見えました。」

「左利きで、左手首に大きな傷がある。でかしたぞ、よく見ておいてくれた。」

「声は聞いたか?」

「はい。低い声で、ちょっと訛ってて、あの、レスターさんと似たような感じの訛りでした。」

「レスターとは、料理人のか?」

「はい。」

「それなら南部の訛りだな。」

「あと、もう一人いて、その人はただ見てるだけだったんですけど。」

「どんな奴だったか?」

「それが、やっぱり覆面してて、顔は見えませんでしたけど、背が低くて太ってて、『おい、気をつけろ。』って言ってて、声が高かったです。」

「知ってることはそれで全部か?」

「はい。すいません。もっと追っかけたらよかったんですけど、俺、怖くなって動けなくて。」

「いや、そこで見ておいてくれて助かった。名前はなんという?」

「ミ、ミゲールです。」

それまで黙っていたブライアンが口を開いた。

「そうか、あのミゲールだな。キャサリンから聞いている。君は街でお腹を空かせていて、キャサリンと出会ったんだろう?キャサリンが良い子だからきっと将来が楽しみだと言っていたぞ。ありがとう。よく見ていてくれた。」

ミゲールはそれを聞くとわっと泣き出して、

「ごめんなさい、ごめんなさい。俺、キャサリン様が攫われたっていうのに、腰が抜けてなんの役にもたってない。ミゲールって名前だってキャサリン様がつけてくれたのに。」

と泣きじゃくっている。

ブライアンはミゲールをぐっと抱きしめて、

「そんなことはない。すごく役に立っているぞ。もしかしたら何か君の助けが欲しくなるかもしれない。その時はよろしく頼んだぞ。」

「はいっ!」

「ミゲール、まずひとつ頼みがあるのだが、さっき泣いていた子と一緒にいてくれないか。このまま帰してはあの子の命が危ない。頼む。」

「はいっ!」


 ラルフとブライアンはミゲールを父の部屋に連れていき、子供をミゲールに託してふたりをマリーに頼んだ。

「父上、なにかわかりましたか?」

「うむ、あまり情報は取れていない。犯人は2人の男。そのくらいだ。」

「こちらはかなりの情報が得られました。ひとりは背が低くて小太りで声が高い。・・・まさにグリーンバーグでしょう。」

「おお」

「あとのひとりは、背が高く痩せていて、左利きで左の手首に大きな傷があり、南部訛り。ブライアン、誰かわかるか?」

「うむ・・・わからん・・・くそっ」

「アレックスならわかるかも。」

駆けつけたアレックスは

「そいつ、たぶんミルトンだ。」

「聞かない名だな。」

「うん。ぱっとしない奴で、みんなが馬鹿にしてる。それでグリーンバーグが手下にしてるみたい。もうひとりラメリーって奴も手下だけど、こいつも出来が悪い。ラルフィーまで話が行くまでもなく、副団長がクビにしようとしてるくらい。」


 「よし、犯人はわかった。それでどこにいるか、だな。」

「グリーンバーグの邸とか?」

「実はキャサリンのいつもつけているネックレスは気配察知の標的になっている。ただ、あまり遠いとわからんのだが、グリーンバーグの家のあたりまで行って探ってくる。」

「おい、俺も行く。お前ひとりでいくと、何かやらかしそうだ。」

皆はブライアンが止めるかと思ったが、ブライアンは

「そうだな。俺が奴らを殺さないように見張っててくれ。」

と言い、皆は妙に納得した。


 グリーンバーグの邸から少し離れたところで、ブライアンは目を閉じ、しばらくして言った。

「ここの地下にいるようだ。」

「そうか。どうやって入るかな。」

「俺が透明になって入って連れてくる。」

「まて、お前、そんなことできるようになったのか?」

ラルフとアレックスが驚いている。

「ああ、実はあれからキャサリンといろいろ研究して、キャサリンの魔法向上の力を薬草を使って再現できるようにしたのだ。」

「すごいな、おまえ。」

「じゃあちょっと行ってくる。」

「あ、ああ・・・」

ラルフとアレックスは驚いて口をぽかんと開けたままブライアンを見送った。

「す、すごいな、あいつ。」

「まったくだ。なんか、この前魔導士をやめるとかなんとかという話をして以来、凄さに拍車がかかった気がする。」

「そうだね。目標ができたから、なのかな。キャサリンの影響なのかな。」

「どちらもだろう。ま、お似合いで、良いカップルだな。」


 そんな話をしているところに、ブライアンがキャサリンを抱えて戻ってきた。

キャサリンが

「ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。」

と、深々と頭を下げた。

「無事でなにより。大丈夫だったか?」

「はい。どうやら、王太子様が嫌いで第3王子を王太子にしようという人たちが、私を第3王子の妻にして、『聖女が妻だ』ということで優位に立たせたいという企みだったようです。」

「なるほど。やっぱり聖女となると王室に利用されるな。」

「王室は嫌ですわね。グリーンバーグ様には私、ブライアン様と一緒にちょっといたづらをしてきましたので、もう大丈夫だと思います。」

「なんだ?いたづらとは?」

キャサリンとブライアンが悪い顔をしてにやりと笑っている。

「なんだよ、ふたりとも、悪い顔してるぞ。」

「私の魔女のお友達、いまはすっかりブライアン様とも仲良しになって、ブライアン様がそのおばあさまから面白いものをいただいたんですって。」

「へー、なにもらったの?ブライアン。」

「なにかがトラウマになる薬だ。俺の魔法の記憶とその薬を融合させて、キャサリンを見たら恐ろしい記憶となってしまうようにした。」

「ぶははは、そいつぁーいいや。」

ラルフとアレックスはお腹を抱えて笑っている。

「魔女の薬はなかなか大したものだな。魔法ではできないようなことがいろいろできる。組み合わせて魔道具にすると生活がすごく便利になるぞ。いやあ、実に楽しみだ。早く今の仕事を辞めて、魔道具を作りたい。」

「ははは、ブライアンに魔道具のスイッチが入ったようだな。まあ、キャサリンがそれで幸せそうだからいいな。」

「はい、私もいろいろ作るのが楽しみです。」

「さて、父上とキャサリンのお父上が心配なさっているから、はやく報告に行こう。」


 4人は心配そうにしている父たちのところに笑顔で戻った。

「おお、キャサリン、無事だったのだな。」

ウッドフェルド卿はそう言うとキャサリンを抱きしめた。

「はい、お父様、ご心配おかけしてごめんなさい。」

「ああ、心配したぞ。今度はもっと気をつけなさい。」

「はい。」

そこに、2人の子供を連れてマリーがやってきた。

「お嬢様、この子たちがぜひお嬢様に謝りたいと。」

その言葉の終わらないうちに、2人の子供がキャサリンに駆け寄ってきた。

「おねえしゃーん、ごめなさい。あたい、お菓子くれうって言われておねえしゃんにうしょついたの。」

女の子はそう言って泣きじゃくっている。

キャサリンはその子を抱きしめて、

「いいのよ、気にしないで。あなたはちっとも悪くないわ。悪いのはあのおじさんたちだからね。それで、お菓子はもらえたの?」

「ううん。くれなくてね、転ばされただけだった。」

「まあ、なんて悪い人たちでしょう。」

「でもね、おじいしゃんがお菓子くれたの。」

「うっ、お、おじいさんとな。」

ブラッドレー卿はおじいさんと言われたことにショックを隠せずにいる。

「父上、優しいおじいさんと思われたようでよかったですね。」

ラルフがにやにやしている。

「うるさい。まだそんな年ではないぞ。でも、この子は可愛いからよいのだ。」

ブラッドレー卿はそれでもデレデレしている。

「ねえ、お名前教えてくれる?」

「あたい、名前なんかないよ。」

「まあ、そうなの。じゃあ・・・ミモザちゃんはどうかしら。ちょうど今、きれいなミモザが咲いてるわ。ほら、あの黄色いお花よ。」

「うん、あたい、ミモザになる。」

ミモザは嬉しそうににこにこしている。

ミゲールが

「よかったな。俺もキャサリン様に名前つけていただいたんだ。」

その2人を見ていたブラッドレー卿が

「そうしていると兄と妹のようだな。どうだ、ミモザ、これからここで暮らさんか?いまはちょっと事情があって出かけられぬが、しばらくしたら、自由になるぞ。」

ミモザがミゲールを見、それからブラッドレー卿を見、キャサリンを見、皆を見回して

「いいの?ごはんくれる?」

「もちろんだ。お腹いっぱいになるまで食べるがいい。」

「ミモザ、お前はちいさいけど、なんでもできることは手伝うんだぞ。」

「うん、わかった。なんでもしゅる。」

「あの・・・キャサリン様、俺、謝らなきゃいけないんです。」

ミゲールがとても申し訳なさそうに言い出した。

「あら、どうしての?」

「実は俺、キャサリン様が攫われるとこ、見たんです。助けにいこうと思ったんだけど、腰が抜けていけなくて。ごめんなさい。」

「いや、お前はちゃんと見ていて、それをすっかり話してくれたではないか。とても助かったぞ。気にするな。」

ブライアンがミゲールの頭を撫でた。

「そうでしたの。ミゲール、ありがとう。すごいわ。」

「そんな、ほめないでください。俺、キャサリン様は俺の命の恩人なのに、役立たずで。」

「ばか、そんなこと言うと、ほら、見ろ、キャサリンが悲しそうな顔をしているではないか。お前はこれからいろいろ学んで立派なおとなになる、それがキャサリンへの恩返しなんだ。」

「そうですよ。これからいっぱい助けてもらうことになるかもしれないから、よろしくね。」

ミゲールが泣いて、涙がとまらない。

そんなミゲールをミモザがよしよしと頭を撫でている。

「まあ、すっかり良いおにいさんといもうとになったわね。」

そんなふたりを皆は微笑んでみているのであった。

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