第5話  お家で食事を

 翌日、キャサリンは張り切って買い物に出た。


 今夜は何にしようかなー。

キャサリンはいつもケチャップもマヨネーズも自分で作って作り置きしている。父はケチャップ党だ。フライドポテトにケチャップをつけて食べるのが大好きだ。

ウスターソースも手作りできていて、なかなかおいしい。

そこで、きょうは

オードブルはシュリンプ、卵、キャビアなどのカナッペ。

メインにハンバーグにフライドポテト、マヨネーズを使ったサラダ、グラタン、というメニューにした。

デザートはいちごのババロア。


 キャサリンはいつもお客様にお料理を作る時は、使用人たちの分まで作るので、ハンバーグにしても何十個と作る。

もちろん料理人たちは手伝ってくれるけれど、かなりの重労働だ。

でも、みんなすごく喜んでくれるので、とっても楽しい。

できあがったらブライアンと父とキャサリンの分は別にして、他は使用人たちの食堂に運ぶ。

みんながわいわいがやがや楽しそうに盛り上がっているのを見るのもキャサリンは大好きだ。


 約束通り、ブライアンがやってきた。


 キャサリンはにこやかに出迎えた。

「いきなり食堂にご案内してもよろしいでしょうか?お食事して、それから私の部屋にでもいらしていただければ、お茶とお菓子でおしゃべりできるかなと思いまして。」

「そ、そうか?ありがとう。実はとても腹が減っているのだ。」

「まあ、それは嬉しいわ。たくさん召し上がってください。もしお口に合わなかったら、普通のサンドイッチも用意いたしましたので、ご安心くださいね。」

「なんと、そこまで心配りをしてくれているのか。しかし私はきょうは知らない世界の料理を食べさせてもらうのをとても楽しみにしてきたのだ。よろしく頼むよ。」

キャサリンは嬉しそうに笑ってこくりと頷いた。


 食堂で、父が出迎えた。

「お初にお目にかかります。ブライアン・デイビスと申します。本日はお招きありがとうございます。」

「ポール・ウッドフェルドです。あなたのことは、娘から聞いている。とても良いお方だそうで、今宵の食事を楽しみにしているよ。」

執事のカーターが、

「お嬢様が今オードブルをお持ちになりますので、どうぞおかけになってお待ち下さい。ワインは何がよろしいでしょうか?」

「実は私はあまり酒が得意ではないので、父上様にお選びいただければ有り難いのですが。」

「おお、そうですか。実は私は酒で身を持ち崩しましてな。そのへんのところは、キャサリンからお聞きだとは思いますが、酒は断ったのです。なので、デイビス殿だけシャンペンでよろしいかな?」

「それなら私も酒が得意でないので、果実水か水をお願いしてもよろしいでしょうか。」

カーターが

「畏まりました。」と言い、下がっていった。


 「キャサリン殿は、お父上がお母上を亡くした悲しさから酒と博打に逃れようとされたことを、とても悲しくお思いのようで、私に話された時も、涙を浮かべていらっしゃいました。お父上の、お母上に対する深い愛情を知ることができて、そういう意味では幸せだともおっしゃっていました。私はそういう経験がないので、正直言って少し羨ましく感じました。」

「そうですか。キャサリンは親思いの良い子です。少々良い子すぎるところがあるのが心配ではありますがな。」

「私ははじめてキャサリン殿とお話させていただいた時に、世の中にはこんなに優しい女性がいるのかと驚きました。」

「そうですか。それは嬉しいなあ。あの子は本当に優しい子なのですよ。きょうも、朝から起きて買い物に行って、1日がかりで料理をしとりました。あの子は我が家でどなたかにごちそうする時は、必ず使用人たちの分まで作るのです。使用人たちは彼らの食堂でキャサリンの料理をとても楽しんでくれてな。」

「それはすごいな。そんなことをする貴族令嬢がいるとは驚きです。」


 そんな話をしていると、キャサリンがカーターと共にまずはオードブルを持って部屋に入ってきた。

「お待たせ致しました。おふたりとも果実水がよいとおっしゃったということなので、これはうちの庭で取れたぶどうのジュースです。さあ、まずはオードブルからお召し上がりください。」


 食事がはじまった。


 ブライアンはカナッペをひとつ口に入れると、

「美味い!美味いな。」

と、嬉しそうに食べている。

「ほんとですか?嬉しいわ。いくつでも召し上がってくださいね。」

「そうか。ありがとう。では、全種類を制覇したい。」

「あははは、嬉しいです。」

父も

「これはとまらないな。皆もよく食べていることだろう。カーター、ここはもう良い。皆と一緒に始めてくれ。」

「ありがとうございます。では、何かございましたら、お呼びください。」


 「いやあ、本当に美味い。とまらん。」

ブライアンは美味しくて止まらないようで、もりもり食べている。

「デイビス様はよっぽどお腹が空いてらしたんですね。こんなによく召し上がっていただけると料理人冥利に尽きますわ。」

キャサリンはそう言って父と一緒に嬉しそうにしている。

「いや、本当に美味いんだ。なんというものかな?」

「カナッペと言います。乗っているものはエビ、キャビア、たまご、チキン、アボカド、セロリ、きゅうり、トマト、チーズ、などです。」

「このソースっていうのか?これが美味い。」

「そうですか。マヨネーズとか、ケチャップとか、ドレッシングなどですが、これは前の世界ではよくあるものだったのですが、ここでは珍しいものです。気に入っていただけたら嬉しいです。」

「君の前の世界にもし私が行ったら、1日中食べてばかりいそうだな。」


 「では、失礼して次をお持ちしますね。」

キャサリンは厨房に立って行った。

「いやあ、本当に美味いですな。キャサリン殿は料理上手だ。」

「そうであろう?実は、私は前世のことを聞いたのはごく最近なのだ。変わった料理を作るなと思ってはいたのだが、どこの料理かなどはたいして気にもとめていなかった。まさか前世の記憶があるなどとは、そういうことがあるのだな。驚いたよ。」

「我が国ではそういう考え方はありませんが、人間は魂があって、その魂は永遠のもので、体は死んでも魂は次の体に宿ると考えているところもあるようです。それだと、キャサリン殿の経験されていることの説明がつきます。」

「なるほど。その記憶がある人もいれば、ない人もいる、というところだろうか。」

「そうですね、実は私はそういうことに対して少し調べてみたいと思うようになりました。」


 そんな話をしているうちに、カーターがスープを持ってきた。

「キャサリン様は少ししてから他の料理を持っていらっしゃいます。まずはこのスープをお召し上がりください。かぼちゃの冷たいスープです。」

「ほう、冷たいスープなのか。初めてだ。」

「これは儂の好物でしてな。美味いですぞ。」

「ああ、たしかに。美味い。冷たいのでさっぱりしていて、いくらでも飲めそうですな。」


 ちょうど2人がスープを飲み終わった頃、キャサリンがワゴンを押してやってきた。

「お待たせいたしました。ハンバーグステーキと言います。牛肉を細かく挽いたものを固めて焼いたものです。付け合せはじゃがいもと玉ねぎを揚げたもの、人参を甘く似たものです。じゃがいもとたまねぎはケチャップをつけて召し上がるか、または塩を振ってお召し上がりください。」

「おお、デイビス殿、儂はこのじゃがいもが大好物なのだ。とても美味いですぞ。」

「サラダのなかにちいさな種のようなものがありますが、これはひまわりの種を揚げたものです。私はこれが大好きなんですの。ふふふ。」

「ひまわりというのは、あの、大きな黄色い花のことか?」

「はい。あの種は美味しいんですのよ。」

「本当だ、美味い。」

「もうひとつ、こちらはグラタンと言います。小エビと玉ねぎ、それにパスタというものが牛乳をベースにしたものと一緒に焼いてあります。」

このあとはデザートになりますので、お腹がいっぱいになるまでお好きなものがあれば追加をお持ちしますので、たくさん召し上がってくださいね。」

「ありがとう。どれも美味いな。たしかに、お父上のおっしゃるとおり、このじゃがいもも美味いし玉ねぎも美味いし、この肉も美味いし、ええと、これはなんといったかな?これも美味いな。」

「グラタンです。」

「ああそうだ。グラタンだったな。私はこの肉がいちばん好きだ。それと、ケチャップというのがとても美味い。何につけても美味い。パンに塗ってもうまいだろうな。」

「ケチャップがお好きですか。ふふふ、これは前の世界でも人気がありました。」

「グラタンにケチャップをつけても美味いだろうな。」

「そうですね。それは気づきませんでした。ケチャップを持ってきますので、試してみましょう。」

キャサリンはケチャップを持ってきて、グラタンにかけてみた。

「あら、合うわ。」

「うむ、美味いな。」

ふとみると、父がグラタンにじゃがいもとたまねぎを乗せて、それにケチャップをかけて食べている。

「こうやっても美味いぞー。」

「まあ、お父様ったら、可愛らしいことをなさって。」


 最後にいちごのババロアでこの食事は終わった。

「これも美味いな。なんというものだ?」

「ババロアと言います。私、これが大好きで、よく作るんです。きょうはいちごですけど、いろいろな果物でつくっても、チョコレートなどで作っても美味しいんですよ。」

「うーむ、チョコレートのも美味そうだな。」

「デイビス様は甘いものがお好きなんですねえ。」

「男らしくないだろう?でも、美味いものは美味い。好きなものは好きだ。」

「そうですわ。甘い物好きな殿方ってかわいらしいです。」

「そ、そうか。」

ブライアンは少し顔を赤くした。


 食後のコーヒーも終わり、

「いや、邪魔したな。キャシー、とても美味かったよ。ありがとう。すまんが年寄はこのへんで失礼する。あとはまあ、常識的な時間まで若者で楽しみなさい。」

「お父様、ご心配なく。デイビス様は良い方ですわ。」

「そうだな。儂もそれはよくわかったよ。では、またお会いしたいものだ、デイビス君。」

「はっ、ありがとうございます。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る