終話 コローギたちのクリスマスの夜

 外はクリスマスシーズンであった。私は木枯らしの中、コンサート会場を目指して跳ねていった。

 コンサート会場には誰もいなかった。カマキリはどこだ?クワガタはどこだ?セミは?ナナホシは?みんなどこに行ったんだ?真冬のコンサート会場に虫の姿は見当たらなかった。そこで、背後の草むらからガサガサと音がした。

「誰だ」

 そこにはほっそりしたお腹のメスコオロギの姿があった。それはグリヨーネであった。

「私よ」

「一体、どうやってここに・・・」

「カオル君が逃がしてくれたのよ。お腹が大きいから逃がしてくれたの。さっき、そこの草むらで卵を産んできたわ・・・」

 私はグリヨーネと固く抱き合った。そして、そこに空から白いものが降ってきた。

「わあ、雪だ。きれいだね」

「さあ、私の演奏を聞いておくれ」

「コンサートの始まりね」

 私は一匹のメスのため、必死に羽音を響かせた。そのクリスマスの夜のことだった。我々は雪の中で静かに息を引き取った。

 ちなみに、カオル君のクリスマスプレゼントは昆虫図鑑だったそうだ。カオル君は図鑑を見ながら目を輝かせていた。

「虫かごは空になっちゃったねー。次はどの昆虫にしようかな。たのしみー」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

コオロギ君をつかまえたよ 乙島 倫 @nkjmxp

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ