第2話 新たな記憶から

施設が崩れ去り、目の前には荒廃した空間だけが残った。静寂の中で、私は呆然と立ち尽くす。過去の記憶が消えたことで、何もかもが新しく始まったような感覚があった。それは、空っぽになった自分の心を埋めるような、逆に恐ろしい無の感覚だった。


「お前は、新しい自分を歩み始めた。だが、その道がどこへ続くのかは分からない」


あの男——一体彼は何者だったのか。私の選択を試すために現れたのだろうか。それとも、何か別の目的があったのか。彼の言葉が脳裏に残る。


私は再び歩き始める。目の前に広がる世界は、何も知らない場所だ。記憶がなくても、自分がここにいることだけは確かだ。しかし、その先に何が待っているのか、何も予測できない。それに、この新しい自分は、果たしてどこへ向かうべきなのか——。


施設の廃墟を抜けると、広大な街が広がっていた。人々は忙しく行き交い、その顔に焦燥感と絶望が見え隠れしている。どうやら、私の選択がもたらした影響は、この世界全体に及んでいるようだ。


私は周囲の人々に話しかけようとするが、誰も私に振り向きもしない。まるで、私が「記憶喰らい」に取り込まれたことで、この世界からも忘れられてしまったかのように。もし記憶がなければ、存在すらも薄れてしまうのか——。


そして、私は気づく。周りの人々もまた、過去の未練を引きずりながら生きているように見える。彼らの中に、「記憶喰らい」の影響が残っているのだろうか。あの男が言っていたこと——「選択」——は、私だけではなく、彼らにも何らかの意味を持っているのだろうか。


その時、突然、背後から声が聞こえた。


「新たな始まりを選んだのか?」


振り向くと、そこにはあの男が立っていた。


「……おまえ、また現れたのか?」


「君が選んだ道には、今度はもう戻れない」


その言葉に、私は新たな恐怖を感じた。選択したことが、自分だけでなく他者にも影響を与えるということに気づく。しかし、ここからが本当の戦いなのだ。


新しい物語が、今始まった——。

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