少女の再登場

 ユウは言葉を失った。


 目の前に立つ少女——銀色の髪を揺らし、夜の静寂の中に佇んでいる。

 彼女の瞳は、夜空の二つの月よりも深い蒼を湛えていた。


 「……君も ‘テリック・コード’ にアクセスできる」

 「宇宙を書き換える力を、君は持っているのよ」


 まるで既に決まっていたことを伝えるかのように、彼女は穏やかに告げた。

 ユウは喉の奥で何かを言おうとしたが、言葉にならない。


 たった今、信じがたい光景を目の当たりにしたばかりだ。

 夜空に二つの月——誰も気づいていない異変。

 そして、この少女はまるですべてを知っているかのような口ぶりだった。


 「……どういうことだ?」


 やっとの思いで言葉を発した。


 「俺が宇宙を書き換える? それって……どういう意味だ?」


 少女は微笑み、ゆっくりと歩み寄る。

 彼女の仕草には、不思議な優雅さがあった。


 「私の名前はイリス」

 「宇宙の ‘プログラム’ に触れる者—— ‘メタロゴス’ の一人よ」


 メタロゴス。

 聞いたこともない単語だったが、その響きにはどこか確固たる真実を感じさせるものがあった。


 「宇宙のプログラム……?」


 ユウが呟くと、イリスはふわりと手をかざす。


 ——次の瞬間、世界が変わった。


 風が吹き、夜の静寂が一瞬だけ歪む。

 ユウの視界の片隅で、街灯の光がゆっくりと螺旋を描くように変形した。

 電線が波打ち、遠くのビルが揺らめくように見える。


 「言葉によって、宇宙は自己を定義している」


 イリスの声は、静かに、しかし確実にユウの意識に入り込んできた。


 「その ‘言語’ を書き換えることができれば——宇宙の法則すらも変えられる」


 ユウは息を呑んだ。


 ——目の前の現実が、変わり始めていた。


 彼は知らなかった。

 この瞬間こそが、宇宙の境界を越える第一歩だったことを。

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