過去を覗く 三
そんな過去話を話しながら、私と由花は神社近くの橋まで足を運んでいた。
今日は昨日の反省も生かして、昨日よりも厚手のパーカーと、足を出さないパンツを履いてきたので、寒さ対策はバッチリだ。
反対に、由花はマフラー以外の上着は私と同じような物だが、下は生足ではないとはいえ短めのスカートを履いている。
これが田舎っ子と都会っ子の違いかもしれない。私のところも都会ではないのだけれど。
「その後だよね。ジミ様がタイムカプセルを埋めようって言ったの」
私の話が終わると、由花は今回の本題であるタイムカプセルに話の筋を戻す。
とは言ってもここからあの、ジミ様らしい適当具合だったのですぐに終わる話だ。
「そうそう、ジミ様が突然──『タイムカプセルをやろう』って言い出して」
「私たちがなんでって顔をしたら子供みたいに『昨日漫画で見たから』とか言って」
子供だった私たちが反論するわけもなく、その時に家にあった思い出の品とか、未来での目標とかを書いた紙を入れたりした。
『開けるのは十年後』
そう言ったジミ様の姿を思い出す。何故十年後なのかは、聞いたような気もするが、よく覚えていない。由花に聞いても「覚えてない」そう言った。由花が覚えていないのなら、私が覚えているわけがない。まぁジミ様のことだから、どうせキリがいいとかそういう理由だろうけれど。
ジミ様はそういう人だった。
あの年の大晦日以降、私はジミ様に会っていない。
この町に来るたびに、神社に足は運んでいる。それなのに存在が嘘だったかのように、ジミ様とは出会えない。
「ジミ様、もう一回会いたいなぁ」
それは由花も同じようで、橋を渡りながら由花はあの日に焦がれるように神社がある山を見る。
「パッと出てきてくれたりしないかな」
言って、由花が私より少し先に足を進めてスカートを翻す。同時に長く伸びた髪もなびく。
「パッと『十年ぶり』とか言いながら」
自分で言っていてありそうだなと思う。
腕を振り上げて、なんの気なしに、ずっとそこにいたかのように笑う姿がありありと想像できる。
「ジミ様らしいかもね。そっちの方が」
「だよねー」
一度しか会っていない。それなのに、私の心に何か残していったジミ様は、一体なんなのか、清水のおばちゃんに聞いても、いつもはぐらかされてしまって、私と由花がその正体を知ることはついぞなかった。
だけど、一つだけわかったことといえば、ジミ様はおばちゃんの友達だったということ、それは両方から聞いたことだ。
ジミ様は清水のおばちゃんのことを『唯一の話し相手』と言った。
清水のおばちゃんはジミ様のことを『唯一残った腐れ縁』と言った。
今思えばこれは、お互いがお互いにした照れ隠しのようなモノだったのだろうと思う。素直に親友と言えばいいものを、子供の前でさえ照れ隠しをするのは、何だか見ていて安心ができる。
大人になっても、言い合える仲に少しの憧れと、敬意を持って私は前を歩く友達の方へと足を進めた。
そうこうしている内に神社に到着した。
神社の社も境内も鳥居も、ジミ様と出会った頃と何も変わらない。ボロボロになっているとか、ところどころに錆びつきが見えるとか、そういうこともない。
鳥居を潜り、右手側を進んだところにあるちょっとした森のような場所まで足を進める。森とは言っても季節柄、緑色は少なく景色は同じようなものが続くが、道が全体的に拓けているので、由花に着いていけば迷うようなことはない。
由花は久しぶりに森に入った私とは違い、慣れた足取りで進んでいく。
「この木だよ」
目的地である周りで一番大きな木の麓に着くのに、鳥居を潜ってからさほど時間はかからなかった。由花の足取りや口振からして、時々は見にきているのか、目的地を見失うことなく来れたのも大きい。
私は、森には入るけれどわざわざこの木に向かって歩くことはなかったので、位置は結構曖昧だったこともあり助かった。
「ありがとう」
と、何の気なしに言うと由花は首を傾げた。何にお礼を言われたのか、わからない由花の髪が風に靡かれた。
「私なんかしたっけ?」
風が過ぎ去り、眼鏡にかかった髪を耳の後ろにやりながら、距離をグイグイと詰めてくる。私は後退りながら言う。
「いや、由花がいてくれてよかったなって」
距離を詰める足が止まった。そして、私から顔を逸らすように木を見る。
「私も……」
「ありがとう?」
小さな声で呟かれた言葉の意味が咄嗟には理解できなくて、とりあえずお礼を言ってみた。私がいてもいなくてもこの道中の苦労は、変わらないと思うのだけれど。
その反応が正解だったのかどうか、その後の由花の反応的に読み取ることができなかった。
由花は、木を数秒眺めた視線を木の根元に移し、私が疲れて手放して地面に置いていたシャベルを持ち上げた。
「さ、さぁやるぞー」
と、謎のテンションで謎にテンションを上げる。それでも楽しそうな由花に釣られて、私もテンションが上がる。
「おー!」
なんて普段なら絶対に言わないことを口に出しながら、穴を掘り始めた。
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