第5話 まちぶせ

今日は良太は仕事が残業で書道教室に通っていなかった。

書道教室に友達ができたが、帰りにお茶をするわけでもなく、ただ、休憩室でおしゃべりする程度だった。

墨ですっている時、心が研ぎ澄まされる。

思い付きで、書道を始めたが始めてよかったと思う。

今日で、中級コース終了だ。

来週から師範コースに入る。

師範コースは長い。

長い道のりを耐えられるか?

ここが玲子の頑張りどころだ。

夜の9時に書道教室が終わり、一階に降りていくと、ビルの反対側の道の喫茶店の前で高木さんが立っていた。

高木さんがふと手を振る。

玲子にはどうしていいかわからなかった。

玲子は高木さんの方へ駆け寄った。

「どうしたんですか?なんで、ここを知ってたんですか?」

「駅前で帰ろうとしてた時ビラ配ってる人がいてね。もしかして、玲子ちゃんが通っている書道教室じゃないかって。まちぶせしちゃったよ。ストーカーだね」

「そうですよ。すとーかーですよ」

「喫茶店でお茶しないか?」

「外で待っていただいたのでお礼におごります」

「いいよ。ここは勝手に来た俺が出す」

二人は喫茶店に入った。

「もうすぐ師範なんだって?掛川君が話してたよ」

「良太って何でも話すんですね」

「師範取ったらどうするの?」

「将来、書道教室開きます。それまで書道団体で展覧会に応募しようと思ってるんです。書道は一生続けるつもりです」

「子供ができても?」

「子供ができたら、時間がないので、お休みしますけれども、でも手がかからなくなったらまた続けるつもりです」

「仕事と家事と書道の両立はどうするの?」

「結婚相手にもよりますよ。仕事を続けてほしいというならば続けるし、家事を分担してくれる相手だったら尚更うれしいし、子供ができるまで、書道教室に通わせてくれる人だったらもっと嬉しいし。でも、どうしてそんなこと聞くんですか?」

「いや、仕事も書道も一生懸命な玲子ちゃんは魅力的だなーと思って」

「辞めてください。奥さんいるんでしょう。もてあそぶのやめてください」

「俺たち今離婚調停中なんだ」

「え?一年もたってないのに?」

「俺が欠陥人間だったんだろうなー。美嘉の期待には応えられなかったよ。美嘉の方も仕事に夢中だから、すぐ離婚という形になると思う。早速俺はバツイチの男だ」

玲子は嬉しいような複雑なような気持になってしまった。

4月の風は生ぬるく伸びかけの玲子の髪を揺らしていった。

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