第4話 初デート

その夜はフロアに玲子と高木さんの二人だけだった。

残業をしていたら遅くなってしまったのだ。

パソコンの電源を切り、帰る支度をすると、高木さんがふいに玲子のもとに寄ってきた。

「はい」

見ると、ゴッホ展のチケットが一枚ある。

「どうしたんですかこれ」

「どうしたもなにも、美術館巡りが趣味の玲子ちゃんと今度、美術館に行きたくなってね」

「高木さん奥さんいらっしゃるでしょう?」

「奥さんはあいにく裁判所通いしているんだ」

「すごいですね。弁護士なんて。尊敬しちゃいます」

「俺もすごいなーと思うよ。でも、ついていけないな。彼女の強さには」

「奥さんの代わりならばいやです」

「違うよ。俺は玲子ちゃんと見に行きたい。それにこれは怪しい関係でもないんだぞ。昼間のデートだからな」

「でも、誤解されちゃいます」

「間違ったことをしてなければそれでいいさ。さあ、一緒に見に行こう」

玲子はほれた弱みで断れなかった。

週末の日曜日、高木さんと美術館に一緒に行った。

高木さんはゴッホが好きなこと、原田マハの美術小説が好きなこと、中学校まで美大を目指していたが、親の反対に耐えられず、経済学部にはいったことなどをとくとくと話した。

高木さんはスポーツマンだと思っていたので、美術に興味があったのは意外だった。

「玲子ちゃんも、最近書道を頑張ってるじゃないか。師範を取るって頑張ってるって聞いたぞ」

それは玲子の美嘉さんへの少しだけの競争心だ。

少しでも自分に武器が欲しかった。

「頑張る人は美しい。応援するよ。だが、うちの奥さんのように極めすぎちゃうと男も太刀打ちできないな」

「どういうことですか?」

「一緒にいてわかったんだよ。安らげないんだ」

「美嘉さんが?」

「完璧を求めすぎてしまって、疲れてしまう。俺も仕事で疲れているのに、相手もピリピリしていて安らげないんだ。結婚する前はお互いが向上しあう仲だとおもってたんだがな」

「それ以上奥さんの愚痴言わないでください。どうせ、そんなこと言ってて愛しているには変わりはないんでしょう?わたしみじめな恋したくないんです。帰ります」

玲子は、美術館のロビーを出ると、まっしぐらに駅に向かって走り出していた。

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