第3話 顔で判断しよう
壮絶?な戦いが終わった後、ギャラリー達は何事もなかったように歩みを再開してゆく。私も家族からのお使いを果たす為にその場を去って行く。彼らがこの後どこへ行くのか、自分達の予定を差し置いて観戦するほどの価値あるものだったのか、私にはわからない。今日が日曜日だから時間に余裕があったのだと考えることにしよう。がしかし、平日の昼間に戦う魔法少女とそのギャラリーを見たことがあったのを思い出した。もしかしたら、彼らは皆仕事や予定など存在しないのかもしれない。あるいは彼らは戦いの背景としての役割を与えられた機械のようなもので、心や意思を持っていないのではないか。そんな事を考えている間にも目的地へと歩む足は止まらない。はずだったのだが、私の歩みは思わぬ刺客によって止められてしまう。それは赤信号やカルガモの親子などではない。私の歩みを止めたのは高校生とおもしき少女だった。ただし普通の少女ではない。美人なのだ。顔がいいだけでなくスタイルもいい。
勘違いしてほしくないから言っておくが、私はなにもその子の見た目が好みだからとかその子に惚れたからとかでは断じてない。美人である事がわかるから立ち止まったのだ。
前回この世界には、主要人物とモブキャラクターが存在していると言ったと思う。ではそれらを見分ける方法をご紹介しよう。方法はいたってシンプル、
話を戻すとしよう。今私の前方には推定名前持ちが何やら困った様子であたふたしている。こんな美人が困っているのに誰も助けようとしないのは、この世界の住民が不親切だからとかいう単純な理由などではない。きっと
目的地へと再び歩みを再開し、少女の横を通り抜けようとしたところで彼女はこちらに視線を向けてきた。
「あの...すみません。その..道に迷って、」
なんとあろう事かこの小娘、よりにもよってこの私に助けを求めて来やがった。小娘の厚かましい態度に少し苛立ってしまったが、この程度何の問題もない。こんな経験はなにも今回が初めてではない。彼女のような推定名前持ちに助けを求められる事は今までに何回もあった。そしてその尽くを無視してきた私にかかればもはや罪悪感など存在しない。
私は少女を無視して歩き続ける。これで彼女は諦めて
「あの〜すみません。きいてますか〜」
ない?!
この女、少しはやるようだ。だがなぁ、私は歩みを止めないし話を聞いてやるつもりなどない。ついてくるのは勝手だが、そんな事をすれば余計道に迷うことになるだろう。早めに諦める事をおすすめするよ。
5分後
「ねぇ、聞こえてるよね。もしも〜し。」
「あのぉ、私も道に迷っててぇ。」
増えた。
(なんなんこいつら。ずっとついてくるじゃん。きんもぉ。)
とりあえず目的地であるスーパーに到着したが、どうやらこの女どもに付きまとわれた状態で買い物をしないといけないようだ。最悪な気分で入口を通ったところで、ふと後ろを見てみると、歩道と店の敷地の境界線あたりで二人が待機している姿が見えた。買い物が終わるまで、店の外で待っているという事だろうか。
(待たなくていいから、諦めて帰れよ。)
暫くして
買い物を終えて店を出るとそこにはまだ彼女達がいた。しかもまた一人増えてる。それは本当にどういう事?私が買い物している間に仲間を呼んだの?何で?
「いい加減にしてちょうだい。」
いい加減にして欲しいのは私の方だ。が、どうやらこいつらは諦めるつもりが無いらしい。それならば私が諦めざるを得ない。さて、諦めるとは言ったがなにもこいつらを助けてやるつもりは無い。私はこいつらが諦めてくれるのを待つ事を諦めることにした。私は彼女達を出来るだけ視界に入れないように周囲を見回し、この状況を解決する為に必要な人間を探す。
(いた。)
それらしき人物を視界にとらえ、その人のもとに走って行く。当然、女達も私についてくる。その人物、おそらく成人しているであろう男性に話しかける。
「すみませんが彼女達を助けてあげてください。」
「え?なに、どういう事?」
急に背後から話しかけられ驚いた男性は、こちらに振り向き困惑した顔で聞き返してくる。私はその疑問に答える事なくその場を去る。
「ちょっと、待ちなさいよ。」
女達が私を追ってくるが、そこを男性がブロックする。
「えぇっと。邪魔して申し訳ないのだけど、
君達はどうしたんだい?」
「私達道に迷っていて、あの男の人に道案内をして欲しかったのですが、ずっと無視されているんです。」
「だから追いかけているのです。」
「なるほどぉ。それなら僕でよければ案内できるけど、それじゃあ駄目かな?」
「本当ですか。ありがとうございます。」
「君達は、どこに行きたいのかな?」
「私は駅に行きたいのですが。」
「私はここらで有名な喫茶店があると聞いて、行ってみたくて。」
「えっと、私はその....この辺りで予約しているホテルに。」
「ちょっと待って、何で皆んな目的地バラバラなの?」
さて、あれから暫く走っていたがおそらく彼女らは、追って来ていないだろう。きっとあの男が彼女達の相手をしている事だろう。あの場に
(これで安心して家に帰れる。)
問題が解決してホッと一息ついたところでビニールに入っている食材に目をやる。走っている時は気づかなかったが、今になって食材が傷ついていないかが心配になってきた。卵なんかは、割れていたら大変だ。食材をビニールから取り出してしっかり大丈夫か確認していると、どこからかとても小さな声が聞こえてくる。
「だれ--たす--」
どうやら近くの路地裏から声がしているようだ。私はその声が気になって路地裏に入るなんて事はせず、すぐにその場を離れることにした。おそらくまた面倒ごとだろうからだ。すると何ということだろうか、路地裏からボロボロの服を着た今にも死にそうな女の子が、地を這い全速力で私の目の前に現れた。私は驚きのあまりその場に立ち尽くしてしまった。そんな私の事などお構いなしに少女は私の目を見つめ口を開く。
「誰か...助けて。」
誰かではなく、明らかに私に向けて話している。何でこうも変なのに絡まれるのだろうか。もう、いい加減にしてくれ。
一般人の自語り ヤナギさん @YANAGIsan
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