The day after Valentine's Day -暁-

窓ガラスが徐々に白み始める。

俺にとって夢みたいな日々が唐突に終わりを告げた夜も明けようとしている。

泣けもしない。寝れもしない。嘆く事も筋違い。あの日々自体がありえない日々だったのだから。

……アカネ、分かってないだろうなぁ。

急に電車で見掛けなくなって俺がどれだけ心配したかなんて。

電車で、いつも探してた女の子が急に幽霊になって現れて俺がどんな気持ちになったかなんて。

机の上に残された、お前の齧ったチョコレート。

そのままにしてあった。

俺の齧った歯型と、アカネの齧った歯型の残るチョコレート。君が確かにいたという、唯一の証拠のチョコレート。

ずっと残してたいけど、チョコだからいずれはカビてダメになってしまう。

そうなるぐらいなら全部食べたいけど……まだ踏ん切りがつかないでいる。

もう、彼女はいない。

もう、会えるとしたら本当に夢の中でぐらいだ。

それでも目が冴えきってしまい、眠れる気がしない。

寝れても逢えるとは限らないけど。可能性があるのなら。

彼女がいない世の中なら、ずっと眠り続けていたい。

そう思いながら布団にくるまってギュッと目を瞑る。

褪めた頭を疎ましく思いながら、眠気が訪れるのをひたすら待ち続ける。

……薄目を開けて机の上のチョコの姿を捉える。

彼女のチョコって、結局どんな味だったんだろう。もう知るすべはないけれど。厄介な事を言い残したもんだと思う。これ。絶対バレンタインの度に思い出すに決まってるじゃんか。そう、愚痴が零れた。ああ、でもそうか。その事で俺は特に困りもしないんだ。

そしてありがとうという言葉も自然と零れた。

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