第8話 戦うしかないみたいです
勇者であるリオの手が、迷いながらも聖剣を握りしめていた。
「……俺は……何のためにここにいるんだ……?」
その問いは、誰に向けたものでもなく、ただ彼自身の心の奥底から湧き上がったものだった。
魔王を討つことが世界を救う道
それを信じて戦ってきた。だが、目の前の魔王は世界の混乱を抑えるために存在していた。
ならば、自分の戦いに何の意味がある?
「お前が迷うのは当然だ。」
私は玉座から立ち上がり、静かに言った。
「お前が戦ってきた敵は、倒すべき悪ではなかったのだからな。」
リオは苦しげに歯を食いしばる。
「じゃあ……俺は、何のためにここまで戦ってきたんだ?」
「お前は何のために戦う?」
私はそう問い返す。
「使命か? それとも——『意志』か?」
沈黙が広がる。
リオは答えを出せずにいた。
「俺は……魔王を討てと言われてここに来た……それが正しいと思っていた……」
リオの声は揺れていた。
「だが、本当にそれでいいのか……?」
私は静かに剣を抜いた。
「ならば、証明してみるか?」
リオは驚いたように顔を上げる。
「証明……?」
私はゆっくりと構えを取る。
「私は、自ら魔王になったわけではない。」
「……?」
「私は、魔王の座を継いだだけだ。」
リオの表情が強張る。
「……どういうことだ?」
「この魔王城——いや、このダンジョンそのものが、勇者を迎え撃つ試練の場だったのだ。」
私は淡々と語る。
「勇者は魔王を討つためにここへ来る。だが、それは本当に『討つ』ためだけだったのか?」
リオは息をのむ。
「魔王が存在しなければ、魔物は暴走する。世界は混乱に陥る。だからこそ、魔王は必要だった。」
「……っ!」
「そして、魔王となるにふさわしい者を選ぶために、この試練が存在したのだ。」
私はリオを真っ直ぐに見つめる。
「お前がここに来たのは、魔王を倒すためじゃない。」
「……!」
「お前が俺を倒せば——お前が魔王だ。」
リオの瞳が揺れる。
「俺が……魔王……?」
「そうだ。」
私は剣を構え直し、静かに告げる。
「お前に、その資格があるか——試させてもらおう。」
リオは息を飲んだまま、剣を握る手に力を込めた。
「……本気、なんだな……?」
「ああ。」
静寂が満ちる。
そして——
「——来い、勇者よ。」
戦いの幕が上がる。
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