第7話 魔王の正体は、勇者だった‼︎


玉座の間に静寂が満ちていた。


リオは剣を下げたまま、苦悩の表情を浮かべている。


「最初の魔王……?」


リオの疑問に、フィリアは微笑を浮かべながらゆっくりと頷いた。


私は無言のまま、その光景を見つめる。


(ここまで来たのなら、いずれ知ることになる事実だ——)


フィリアは静かに語り始めた。


「今からおよそ千年前。この世界は人間と魔物が対立し、絶え間ない戦争が続いていた。でも、ある時、そんな混乱を終わらせた者がいたの。」


リオが眉をひそめる。


「……戦争を終わらせた?」


「そう。」

フィリアの声はどこか懐かしさを帯びているようだった。


「その者はかつて勇者だった。」


「——え?」


リオの目が大きく見開かれる。


私は静かに彼を見つめた。


「最初の魔王は、元々勇者だったんだよ。」


その一言が、空気を震わせるように響いた。


「勇者が……魔王に……?」


リオは呆然とつぶやく。


フィリアは頷き、語り続けた。


「千年前の世界では、魔物たちは理性を持たず、ただ暴れるだけの存在だった。彼らは無秩序に人間を襲い、村を滅ぼし、国を崩壊させた。でも、そんな世界を変えようと立ち上がったのが、当時の勇者だったの。」


リオは飲み込めないといった様子で首を振る。


「でも……どうして勇者が魔王になんて?」


「魔物を討伐するだけでは、何も変わらなかったから。」


フィリアの言葉に、リオは息をのむ。


「次々と討伐しても、また新たな魔物が生まれ、暴れ出す。そんな終わりのない戦いの中で、その勇者は一つの決断を下したの。」


フィリアは私をちらりと見た。


「『魔物を滅ぼすのではなく、支配する』——それこそが、本当の解決策だと。」


リオは言葉を失ったように口を開けたまま動かない。


「……だから、彼は自ら魔王となり、魔物たちを従え、統率することで世界の均衡を保とうとしたんだよ。」


その言葉を聞きながら、私はふと己の手を見る。


(そうだ……魔王とは、世界の破壊者ではない。支配者であり、管理者なのだ。)


千年もの間、魔王という存在は必要とされ続けた。


しかし、リオはまだ戸惑っているようだった。


「でも……それなら、俺の使命は……?」


「勇者として、魔王を討つことが本当に正しいのか?」

私はそう問いかけた。


リオは苦しそうに顔を歪める。


「……俺は……世界のために戦ってきた……魔王を討てば、世界は救われるはずだった……」


「それは、本当に『世界のため』だったのか?」


リオは息を詰まらせる。


「お前は何のために戦う?」

私はなおも問い続ける。


「勇者としての使命か? それとも——」


沈黙が広がる。


リオは拳を握りしめ、深くうつむいた。


そして——

「……俺は……」


彼がどんな答えを出すのか、それはまだ分からない。


しかし、彼が迷い始めたことは確かだった。

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