第6話 魔王の役割
——ついに、この時が来たか。
重厚な扉が開かれ、玉座の間に足音が響く。
黄金の髪を揺らし、鋭い眼光を放つ少年、勇者リオ・アーデンが、ついにここまで辿り着いた。
その隣には、小さな白いローブの少女、フィリア。
私は彼らを見下ろし、あえて堂々とした態度を取る。
「よくぞ来たな、勇者リオ・アーデン」
声は響いた。
威厳を持たせたつもりだったが、内心の動揺を隠しきれない。
リオが剣を構える。
「ついに辿り着いたぞ、魔王!ここでお前を倒し——」
「待ってください!」
フィリアが手を挙げ、リオを制した。
私は眉をひそめる。
フィリアの存在が、私の予想していた筋書きを少しずつ狂わせていく。
「え……フィリア?」
リオが戸惑いながら少女を見やる。
「ねえ、リオ。あなた、本当に魔王を倒すつもり?」
「何を言っているんだ。当たり前だろ?」
「……でも、それって本当に正しいことなの?」
リオの眉がわずかに動いた。
「……どういう意味だ?」
フィリアは、まるで私を試すかのようにこちらを見る。そして、静かに語り始めた。
「魔王の真の役割……それは、世界の均衡を保つこと。そして、魔物たちを支配し、秩序を保つことよ。」
私は動揺を押し隠しながら、黙ってその言葉を聞いた。
リオは明らかに戸惑っている。
「魔物の支配……? そんなものが必要なのか?」
「必要よ。」
フィリアは確信を持って頷く。
「もし魔王がいなくなれば、魔物たちは統率を失い、本当の意味での脅威になる。群れを成し、理性を失い、無秩序に暴れ出すかもしれない。」
リオの表情が強張る。
「でも、魔物って……そもそも悪しき存在だろ?」
「……本当にそう思う?」
フィリアの問いに、リオは息を呑んだ。
沈黙が広がる。
私は静かにリオを見据えた。
(……気づくか?)
リオの目が揺れる。
——魔物は本当に人間の敵だったのか?
旅路を思い返せば、魔物たちはただそこにいた「だけ」ではなかったか?
勇者という名のもとに、彼は剣を振るい続けてきた。
だが、それは「正義」だったのか?
「……俺は……罪のない魔物まで……?」
リオの手が震えた。
私は静かに息を吐く。
(……そうだ。お前は、ここまでたどり着いてしまったのだ。)
「俺は……どうすればいい?」
その問いに、私はすぐには答えなかった。
代わりに、フィリアが微笑む。
「ねえ、リオ。『最初の魔王』が誰だったか、知ってる?」
リオは戸惑う。
「最初の……魔王?」
「その話は、今ここでするより……もう少しだけ、聞く準備をしてからのほうがいいかもしれないね。」
フィリアの言葉に、私は静かに目を閉じた。
(そうだ、リオ。お前が知るべきことは、まだ終わっていない——)
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