第5話 魔王大ピンチ‼︎ 誰でもいいので助けてください!

 魔王城の奥深く、玉座の間。


 魔王は椅子に深くもたれかかり、額に手を当てていた。


(どうすんだよ、これ……)


 勇者リオがゴルドスを突破する姿


 すべての防衛策が無に帰し、勇者はまっすぐこちらに向かっている。


(……戦う? いや、勝てる気がしない。)


(それなら交渉でもするか? いやでも、人間と魔族はずっと戦争をしてきた。今さら和解など……)


(だったら逃げる? それだと魔王が逃げたってことで魔族の士気は崩壊するし……)


 どの選択肢をとってもリスクが大きすぎる。


「魔王様!」

 側近たちが進言する。


「魔王様が最強なのです! 戦えば、必ず勝てます!」


「勇者ごときに、魔王様が負けるはずがありません!」


(いや、負ける気しかしないんだが…!?俺転生したばっかだよ!?戦い方も分かんねぇよ!)


 魔王は必死に考えた。


 戦わず、逃げず、交渉もしない……何かいい方法があるはずだ。


(そうだ……姿を消せばいい!魔王である俺がいないんじゃ勇者も拍子抜けして帰るだろ)


これは名案だと思わずニヤついた。なんとも情けない魔王である。


 魔王はすぐさまローブを羽織り、魔法で気配を隠す。


 そして、玉座の間の裏手にある秘密の通路へ向かおうとした、その時――


「――待ってください。」


 突然、静かな声が響いた。


 そこに立っていたのは、一人の少女。


 長い金髪に澄んだ青い瞳。清楚な白いローブを纏った神秘的な雰囲気の少女


「誰だお前は!」


「初めまして、魔王様。」

 少女は柔らかく微笑むと、ゆっくりと魔王に近づいてきた。


「私はフィリア。聖女として勇者と行動を共にしていましたが、目的を果たすため、先に魔王様にお会いしに参りました。」


「わざわざ何の用だ? 勇者より先に俺を倒しに来たのか?」


「いいえ、私はあくまで回復要員。戦うつもりはありません。」


 そう言うと、フィリアは魔王をじっと見つめた。そして、静かに言葉を紡ぐ。


「あなたが**“本当の魔王”**なら、勇者はあなたを倒すことはありません。」


「……は?」


 魔王は困惑した。


「どういう意味だ?」


「そのままの意味です。」

 フィリアの言葉は謎めいていた。


 “本当の魔王”とは何なのか? それは自分ではないのか? それとも、何か別の意味があるのか?


「勇者リオは、ある使命を持っています。その使命が果たされる限り、彼はあなたを倒すことはないでしょう。」


「……俺を倒さない?」


 魔王は思わず息をのむ。


 勇者の使命とは何か? 自分が“本当の魔王”かどうかとは?


 何かが隠されている。自分の正体にまつわる重大な秘密が――。


 だが、その答えを探る間もなく、城内に響き渡る足音。


「……それではまた」

 フィリアはふっと微笑んだ。


「魔王様。あなたの答えを、勇者に見せてください。」


 そう言い残し、彼女はその場から消えるように立ち去った。


 そして――


ついに勇者が玉座の間へ!


「……ここが、玉座の間か。」


 扉がゆっくりと開かれた。


 堂々と歩みを進める勇者リオ。


 その目は、まっすぐに魔王を見据えていた。


(……どうする? どう答える?)


 魔王の決断の時が迫っていた――。

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