終話

 2人でゆびきりげんまんをしたのが大澤には懐かしく思い出される。

 作家になる直前に校長先生は亡くなってしまった。

 大澤が手紙を出して本が出版されることを知らせると、直ぐに返事が来てそこには精一杯の祝いの言葉が記されていた。仏前になってしまったけれど初版第1冊目に恥ずかしながらサインを添えて献本をさせて頂いた。

「よくやったなぁ」

 そんな声が仏前から聞こえた気がして思わず大粒の涙を溢してしまった。

 何度も挫折を味わい、そして、何度も何度も頭を捻った。けれど、意思は揺らがなかったし、なにより、校長先生のさも当たり前のように簡単に口にした一言が、大澤にには叱咤激励のように心の中に響いた。

 だから、今も物書きをやめていないし、日々を精進して暮らしている。

「ではこの度の「ほんからす〜旅する学校図書〜」についてですが」

「実話ベースなんです、ノンフィクションに近いのかもしれませんが、今は合併で無くなってしまいましたが、その事を物語にしてみました」

 インタビューは2時間近くに及び大澤は本の出会いの大切さを、刻まれた思いを涙を交えながらに言葉巧みに語り切った。

「今日はありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございました」

 インタービューの録音機器のスイッチが切れられると、互いに一息ついてから笑い合った。

「ねぇ、ネコが出てくる話が少ないと思うんだけど」

「何言ってるの、犬が一番なのよ」

「かつにゃんは本当に変わらないね」

「おおさわんだって変わんないわね」

 2人の児童は大人になっても今日も活字の世界で生きている。

 あの日知った楽しさを多くの人に知ってもらうために。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

旅する学校図書とおじさん4人の悪巧み 八坂卯野 (旧鈴ノ木 鈴ノ子) @suzunokisuzunoki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ