第6話
おおさわんとかつにゃんがその車を見た時、初めは何をする車なのかわからなかった。絶対に素人が塗ったであろうペンキの刷毛の後が残るトラックは、全体がショッキングピンクで怪しさ抜群であった。
「なんだろ……」
「さぁ……」
車から校長先生が降りてきて何かを下ろし始めた。
プラスチックのジュースメーカーのロゴ入りの箱に思わず飲めるのかと飛びついたが、中身をみて、消沈しながらも再び笑顔を取り戻した。
1週間前に図書室から整理のために消えてしまった本が再び戻ってきた。でも、中には見慣れない本もあり、2人それぞれがその場で手に取って開く、他の児童や生徒も思い思いの本を手に取っては開いてあたらしい世界に触れてゆく。
「さ、ホームルームの時間を使って新しい図書室に入れますよ!」
西崎先生の声で本をさっと片付けて直ぐに手伝いを始める。
校長先生は車からメモ書きされた学校分を出し終えると、ピンクのトラックにいそいそと乗り込んで学校の外へと出かけていった。
古い図書室は使われることはなく、今は多目的室となった広い教室にその箱を上級生たちと運び込んでゆく。そこから本を選んでは図書委員の子に貸出カードを出していつものように借りてゆく日々が再び始まった。今までとは違う本に触れるたびに2人は大喜びしながら読み耽り、そしてリクエストカードと呼ばれる紙に本題ではなく読みたい内容を書くと、次の時に数冊が届いて、その中から選ぶこともできることで楽しさが広がってゆく。
別の街の本屋さんとも連携をしていて、その本が欲しい時は金属製の箱に保護者に書いてもらった注文票とお金を入れた袋を入れると郵便で届くようにもなった。
「新しいのがそろそろ来るかな」
「うん、来週には入れ替えだって言ってたよ」
2週間の入れ替えの合間におおさわんとかつにゃんはあらかたの読める本を読み尽くしてしまうほどに沢山の物語を読み耽っては互いに感想を述べ合った。
誰もが涙を溢す閉校式を終えると、そのピンクのトラックも校長先生も居なくなってしまったが、統廃合された町中の小中学校の隣にある図書館に校長先生がいて、中学生になっても2人はそこに通い続けては本を読み耽り、受験勉強に打ち込んだ。昔は訪れるものの少なかった図書館には、1週間徹夜で修繕した各学校の本を再び手に取った児童や生徒達が帰りのバスを待つ間に訪れて本を借りて帰ってゆく。
そんな光景を目にして鴻池は館長として最後の最後まで本当の閉館に至るまで働き続けたのだった。
「おおさわん、どうした?」
「校長先生」
高校2年生の夏休み、受験勉強と宿題のために図書館で過ごしていたおおさわんは、小さい頃からお気に入りで何度も読んだ本を手にして眺めていた。
「ずっと読んどった本だなぁ」
「そう、大好きな本だよ。丸暗記しちゃって、こんな物語を私も書けたらなぁって」
「やってみれ」
「え?」
「書いてみたらいい」
「無理だよ」
「無理な訳あるかい、簡単なこった」
「簡単じゃないよ」
「簡単だぞ、1+1=2みたいなもんだ」
「え?」
「紙がある+ペンがある=字を書く、それを繋げて文にする」
「いや、シナリオとか……」
「そうさ、そっから作るんだ、楽しいぞ、やってみれ」
「できるかなぁ」
「できるさ、沢山面白いものを読んだなら、沢山いろんなことを知っとる、だから、沢山書いてみて、やってみればいい」
「う……、うん」
「もし本になったらな、最初の一冊は先生の予約だぞ」
「ほんと?」
「もちろん、約束だ」
2人は指切りを交わした。そしてこの言葉の後押しを受けておおさわんは一歩一歩、物語を描き始めたのだ。
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