第2話
大澤舞は小さな小さな町の生まれだ。
父と母はいなかった。事故にあったとも出ていってしまったとも聞いてはいない。ただ、居なかった。祖父母にあたる「好古」と「高代」が父と母の代わりとして、彼女を厳しく、そして、優しく育ててくれた。
「気をつけて学校に行っておいでね」
「うん、いってきます!」
広大な面積に各集落が点在するこの町では小中学生はスクールバスでの通学が当たり前となっており、毎朝、家の前までバスが来てはその時間に乗り込んで向かう。
バスは長いこと乗合バスとして使われていた車両をバス会社が寄贈してくれたもので、それゆえにボロボロだけれど、子供達はそれには何一つ文句をいうことはなく面白がって乗っていた。街中を走る最新型の車両よりも、この古く機械的な、いや、メカメカしい雰囲気が子供心を擽っていた。
「おおさわん、何読んでるの?」
「かつにゃん、今日はね……」
ご近所のと言っても車で20分ほどかかるが、その家から同級生のかつにゃんが乗り込んでくると声をかけてきた。わんとにゃん、この末尾から察することができるようにおおさわんは犬好きであり、かつにゃんは猫好きだった。互いに一度だけ不毛な戦いを行ったが、それからというもの相手を尊重しながらも、互いに牽制しあいながら細やかな布教活動を行っている。
「でも、これで学校の本はほとんど読んじゃった」
「私もほとんど読んじゃったなぁ」
2人の通う青鴉小中学校には図書室があったが、そのこの本は粗方読み尽くしてしまった。小学校5年生ともなればある程度の漢字は読めるようにはなっていたから、読める限りの本は読み尽くした。難しいなんたら全集やら、ちょっと大人びた本にも手を出してみたものの、年齢ゆえもあって世界観の想像ができずに、途中で諦めてしまっている。
町立の図書館もあるが学校よりも遠く、学校裏にある電車に乗って2駅ほどかかる。本数も少なく万が一乗り過ごすようなことになれば帰れる見込みはないし、それに学校まで迎えにきてもらうことを考えると中々に言い出せなかった。
「もう1回あの本を読んでみようかな」
「どの本?」
「えっとね……」
一度読んだ本もあれば何度も読み返す本もある、暗記してしまうほどまで読み慣れた本の内容を話しながらに2人は学校までの長い道のりを語り合うのだった。
もちろん、わんとにゃんの話は自己主張のスレスレのラインを互いに侵しながら。
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