第4話 続・有給休暇



ーー仕事中。営業課のオフィスにて。



ピコン。


ピコンピコン。


デスクに置いたスマホが、ひっきりなしに震え続ける。


「……はぁ。」


私はため息をつきながら、そっとスマホを手に取った。


【春輝】

くみちゃん、お掃除完了しました!

今日はピカピカに磨いたよ!

あとね、洗濯も終わらせた!

お昼はくみちゃんの好きなオムライス作った!でも、1人で食べるの寂しいなぁ……。


……仕事しなさいよ、この甘えん坊め。


私は画面をスクロールする。


【はると】

夜ごはんは豪華にするね!くみちゃんの喜ぶ顔が見たいから♪

早く帰ってきてね?

くみちゃん、既読ついてないけど……忙しいのかな?

お仕事頑張ってね!応援してるよ!

くみちゃん……まだ既読つかない……。

寂しい……。


(仕事中なんだから、既読つけられるわけないでしょ……!)


私はスマホを伏せて、こめかみを押さえた。


すると、隣からニヤニヤと覗き込む菜穂美の顔が見えた。


「ちょっとぉ、くみぃ? さっきからずっとスマホ鳴ってるけど、はるとくんから?」


「……関係ないでしょ。」


「どれどれ、どんな内容かな〜?」


「やめて!!」


私は慌ててスマホを胸元に抱える。菜穂美は「はいはい、わかったわかった」と言いながら、ますますニヤついている。


「いやぁ〜、ほんっとギャップすごいよねぇ。仕事中は眉間にシワ寄せたクール後輩くんが、家では甘々ってわけ?」


「……そんなに言うなら、今度見せてあげる?」


「え、本当に!? いいの!?」


「……って言うわけないでしょ!!」


「ケチ〜!」


菜穂美の茶化しに、私は深いため息をついた。


(あー……春輝のこと、好きなのに、ちょっとだけ面倒くさい……。)


ーー帰宅。玄関にて。


「くみちゃあああん!」


玄関を開けるや否や、勢いよくはるとが飛びついてきた。


「ちょ、ちょっと!? 危ない!」


「おかえりなさい! くみちゃん!」


スウェット姿の春輝は、子犬のような瞳をキラキラさせながら、両手を広げて私を出迎えた。


「ただいま……って、春輝?」


「ねぇねぇ、今日はいっぱい頑張ったの! お掃除もしたし、お洗濯もしたし、ご飯も作ったよ! 褒めて! なでなでして!」


「……はいはい、よしよし。」


私は彼の頭に手を置き、優しくなでた。


すると、はるとは「えへへ……♪」と満足げに笑いながら、私の腰に腕を回し、ギュッと抱きしめてくる。


「ちょ、ちょっと!?」


「くみちゃんの匂い……落ち着く……。」


「はいはい、わかったから、とりあえず中入ろ?」


「やだ、もう少し……。」


「ダメ! 引きずってでも入る!」


私は春輝の腕を解こうとしたが、彼は完全にしがみついてくる。結局、そのままズルズルと部屋の中へと引きずっていく羽目になった。


ーーリビング。


部屋に入ると、床はピカピカに磨かれ、キッチンには豪華な夕食が並んでいた。


「……すごい、完璧じゃない?」


「でしょ!? 頑張ったもん!」


「これは確かに褒めるしかないわね。」


私は苦笑しながら、もう一度彼の頭をなでた。


「わーい!」


春輝は満面の笑みで飛び跳ねる。こんな姿、職場の人たちが見たら絶対信じないだろうな……。


ーー食事後。ソファにて。


「ふぅ……お腹いっぱい。」


私はソファに腰を下ろし、食後の余韻に浸る。すると、はるとがトコトコと近寄ってきて……。


「くみちゃんの膝枕、ください。」


「えぇ……。」


「だってぇ……くみちゃんが会社行ってる間、寂しかったんだもん……。」


「はいはい、わかったわよ。」


私はため息をつきながら、春輝を自分の膝の上にゴロンと寝かせた。


「んん……くみちゃんの膝、気持ちいい……。」


「はいはい、おやすみ。」


私は彼の髪をそっと撫でる。春輝は目を細め、やがてスースーと寝息を立て始めた。


(……本当に、子どもみたい。)


仕事中はあんなにクールで、私にも容赦なく突っかかってくるのに。


今、私の膝の上で眠る彼は、ただただ無防備で、愛おしくて仕方がない。


この寝顔を知っているのは、私だけ。


こんな風に甘えてくる彼を受け止められるのも、私だけ。


(……ふふ、なんか幸せ。)


私は静かに微笑みながら、はるとの髪を撫で続けた。


ーー後日談


残り4日間は仕事中にずっとスマホの通知が鳴り止まなかった……。


「……やっぱり、ちょっと面倒くさいかも。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ギャップ彼氏は今日も私を愛しまくる シバコ @sinkensuisui05

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る