第9話 誕生日に誘われて
零士さんと過ごす時間が増えるたびに、彼のことがますます気になって、何となく気持ちが落ち着かなくなっていた。毎回出かけるたびに、少しずつ彼との距離が縮まっているのを感じていたけれど、同時に、それ以上の気持ちが芽生えていることを実感していた。
俺の誕生日の日、いつも通りの朝が過ぎた。家族からの「おめでとう!」という声が響く中、思いがけないタイミングで零士さんから連絡が来た。
「今日、何か予定ある?」
そのメッセージを見た瞬間、思わず胸が高鳴った。零士さんからのメッセージに、少しの期待と少しの緊張が混ざった感情が広がった。
「特にないけど、どうしたの?」と、俺は素直に返信した。
「じゃあ、今日はちょっと出かけないか? 陽介の誕生日だろ? 悠に聞いて、一緒に過ごしたいなって思って」
その言葉に、思わず顔がほころんだ。零士さんがそう言ってくれるなんて、なんだか嬉しくて、そして心の中で少しだけドキドキしていた。
「本当に? 嬉しい! どこに行く?」
「場所はお楽しみってことで、迎えに行くから待ってて」
そう言うと、すぐにメッセージが終わり、数分後には玄関のチャイムが鳴った。零士さんが迎えに来てくれたのだ。
「おはよう、誕生日おめでとう!」と、零士さんは軽く笑って言いながら、俺を迎えてくれた。その表情にはいつも通りの落ち着きがあったが、どこか嬉しそうな雰囲気が漂っていた。
「ありがとう、零士さん。今日は一緒に過ごせて嬉しいよ」と、俺は嬉しさを抑えきれずに言った。
「今日は君の特別な日だろ? だから、楽しませてあげたいんだ」と、零士さんは軽く笑いながら、車のドアを開けてくれた。
車に乗り込むと、どこに行くのか分からないワクワク感が胸の中で膨らんだ。途中、二人で楽しく話しながら、車が走り続ける。零士さんも穏やかな表情をしていて、普段の冷静さが少し崩れて、今日は特別な日だという雰囲気が伝わってきた。
「今日はどこに行くの?」と、俺は期待を込めて尋ねた。
「着いたら分かるよ」と、零士さんは微笑みながら言った。何だか、普段よりも楽しそうな表情に見えた。
車はしばらく走った後、海沿いの道に差し掛かった。広がる青い海と、穏やかな風が迎えてくれるような場所だった。景色がとても美しく、思わず息を呑んだ。
「海か……ここ、すごくいい場所だね」と、俺は窓を少し開けて、潮風を感じながら言った。
「うん、陽介にはこういう自然の中でリラックスして欲しかったんだ」と、零士さんは運転しながら、少し照れくさそうに言った。その言葉に、思わず胸が温かくなった。
二人でしばらく海岸を歩きながら、自然の美しさに浸っていた。静かな時間が流れていく中で、俺は少しだけ零士さんとの距離が縮まった気がした。この穏やかな空気の中で、俺たちの関係も少しずつ変化していっているのを感じる。
「こういう静かな時間、好きだな」
「うん、そうだね。陽介と一緒にいると、気持ちが落ち着く」と、零士さんは笑って答えてくれた。その一言が、何だか胸に響いた。
その後、二人でランチを取ったり、海の近くのカフェでお茶をしたりと、穏やかに一日を過ごした。零士さんとの時間は、あっという間に過ぎていったけれど、心の中ではずっと温かい気持ちが広がっていた。
帰りの車の中、俺は少し寂しさを感じながらも、感謝の気持ちを込めて言った。
「今日は本当にありがとう、零士さん。すごく楽しかった」
「いいんだよ。君の誕生日だから、楽しい思い出を作りたかっただけさ」と、零士さんは穏やかな声で答えた。
その言葉に、俺は少しだけ胸が締め付けられるような感覚を覚えた。零士さんの優しさが、心の奥深くに響いていった。
「これから、もっといろんなところに行きたいな」と、俺はつい、素直な気持ちを口にしていた。
「うん、これからもたくさん行こう」と、零士さんは微笑みながら言った。その笑顔が、どこか切なげに見えた。
車が静かな夜の街に向かって走っていく中、二人の間には一瞬、言葉を超えた静かな空気が流れた。お互いに何かを言いたいけれど、言葉にはできない、そんな微妙な感情が胸に広がった。
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