ナナたん ケントくん 5

オカン🐷

 警報

ピコン、ピコン、ピコン、ピコン。

ファー、フォー、ファー、フォー。


「あれ何の音?」

「ヨッシー、警報機が作動したの」

「ええっ」

「地下のホームシアターに行って。みんなも早く」


 警報音がサイレンに代わると、ガラス扉の外のシャッターが一斉に閉じられた。


 バタバタと廊下を駆けだす。


「あっ、エレベーターはやめて階段で降りて」




「祐奈さん、いる?」

「ルナさん、一緒に来たじゃない」

「そうだっけ。ルミナちゃん、違う、えーと」

「ママ、落ち着いて」

「ウーたんはいる?」

 

 兄の祐樹の背後からヒョコっと顔を出した。


「もうすぐ扉が施錠されるから。ママ、ママは? おばあちゃんは?」


「ばあばは一番先にこの部屋に入ってたよ」

「山根シェフ、他のスタッフ若い子たちは?」

「ちょうど休憩に出たところです」

「みんないるわよね」


 ナナが不安そうに眉毛を下げている。


「ママ、ホピー?」

「ボビーにも早くって言ったんだけど『ボクはだいじょびね。たぶん黒い人たちだから見て来る』って行ってしまったの」


 カズは大学から一部の生徒が決起していると連絡があり出かけていた。

 だから子どもたちを外に出さないでプールも中止と言われていたのだ。


「こんなことよくあるの?」

「ううん、初めて。ごめんね、ヨッシー驚いたでしょ」

「いや、さすがアメリカだなあと思って」



 

 家の前の広い通りを学生たちが歩いて行く。

 その集団は車道にまで広がっていて、後続の車の通行妨害をしている。

 パトカーがクラクションを鳴らすと歩道に戻るのだが、行ってしまうと、また真横に広がった。


「パパさん、何やってんすか?」

「おお、ボビー」


 集団の中からカズが抜け出した。


「先生、行きますよ。バーガーもらい損ねたら嫌だから」

「おお、先に行っといてくれ」


 カズは手にしていた卵をボビーに手渡した。

 さっきから塀に容赦なく叩きつけられている卵だ。


「大学生たちと肩を組んだおいたん、誰? 思ったらパパさんだったよ」

「学生たちの動向を探っていたんだ。どうやらデモの目的は政治陣営のハンバーガーにつられたようだ。最後まで行ったらもらえると言われて」

「まじ? ボクも行こうかな」

「これでハンバーガーがなかったら本当に暴動が起きるよ」


 


スクリーンに向かって配置された白いソファーにそれぞれが腰を落ち着けた。


「暴動が起こったらいち早くセンサーが反応してシャッターが閉まるの。この部屋は防音だけでなく、核爆弾にも耐えられる強固な造りになってるの。だからみんな安心して」

「それでルナちゃん、手に何を持ってるの?」

「これ? あらっ、テレビのリモコン持って来ちゃった。ヨッシー、マナを抱いて逃げてくれてありがとう。もう大丈夫よ」

マナちゃん、しがみついてはなれないんだ」

「まあ、サトリさんも。エナちゃん、もう大丈夫だから」


 サトリがソファーに座らせようとすると、エナはいや、いやと首を振った。


「山根シェフ、さっきからいい匂いがするんだけど」


 長男の隼人がクンクンと鼻をひくつかせる。


「ちょうどピザが焼き上がったところで、廃棄することになるのもしゃくなので持って来ました」

 

ワゴンには大皿が3枚載せられていた。


「やったー。食おうぜ、食おうぜ」

「手を洗ってからね」

「こんなときでも衛生観念は健在なんだ」

「あたりまえでしょ」


ピザを食べ終えた頃、扉の施錠の外れる音がした。










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ナナたん ケントくん 5 オカン🐷 @magarikado

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