醍終ワ

「何かあったのかな?」


 尾高はそう言って緊急車両が向かう先を見た。

 交差点の向こうがやけに騒がしい。


「事故でもあったかな?」


 不安そうに呟く自分の手を、ギュッと握る娘に気づいて、尾高は笑顔を向けた。


「ママ、遅いね。何やってるんだろう?」


 いつまでも待ち合わせ場所に来ない聡美に、多少の不安を抱きながら尾高はそう呟いた。


「もう行こう」


 娘がそう言って急かすように手を引っ張る。


「ダメだよ、ここで待ってないと。いなくなったらママが迷子になっちゃうだろう?」

「平気だよ」


 娘がそう言って手を引っ張る。


「多分もう来るよ。もう少し待ってようよ」

「大丈夫だよ」


 強引に手を引いて歩き出す娘に、尾高は苦笑すると


「待ちなさい、陽央美。ほら、危ないから――そんなに引っ張らないで」とつられて一緒に歩き出す。


「きっともうすぐ来るよ」

「来ないよ」

「来るよ」

「来ないの」




 陽央美は、父親の手を引いたまま小さく笑う。





「ママは、もう来ないの――」






【完】


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Reach for the sky sorarion914 @hi-rose

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