第15話

 遅めの昼ご飯を食べている時だった。


 ふいにスマホの通知音がして、聡美は慌てて画面を見た。



 (――来た!!)


【今日の出来事】の更新通知だ。



『まったくガッカリさせられる。期待した自分がバカだった。分かっていたのにね。ほんとサイテー』


 どこかの公園だろうか?

 歩道を歩いているような画像だった。

 フィルターでぼやけているが、聡美の目にはそう見えた。


 話しかけられて仲良くできると期待したんだろうか?

 結局そうはならずガッカリ――そんなところだろう。


 聡美はしばらく画面を見つめていたが、尾高の事を思い出して慌ててスクリーンショットで保存した。

 それをそのまま、尾高の方へ送信する。


 >今来たよ。スクショ画面送る。


 聡美のメッセージには、なかなか既読がつかなかった。

 きっと仕事が忙しいのだろう。

 そう思い根気よく待っていると、一時間ほどで返事が返ってきた。


 >>見たけど、何も見えないよ?


「え?」


 聡美は自分の画面を確認した。

 スクショした画像はちゃんと写っている。


 >こっちは見えるけど?


 >>俺の方は真っ暗なんだけど?



 そう言って、返ってきた尾高のトーク画面のスクショには、聡美が送ったブログの画像が何故か真っ暗で何も見えない。


(え?なんで?)


 >>ブログのアドレス分かる?検索してみるよ。


 聡美は、【今日の出来事】のアドレスをコピーして送ったが、結果は聞くまでもなかった。


 >>ページが見当たらないって出たよ(笑)本当にそんなブログあるの?


 尾高は冗談ぽく聞いてくるが、聡美は笑えなかった。

 返事をしないまま、ぼんやりしていると、着信音がして聡美はハッと我に返った。


《聡美?大丈夫?》

 尾高の心配そうな声が飛んでくる。


「あ……えぇ――うん、大丈夫」

《あんまり気にしちゃダメだよ。そんなブログなんか見ないで、テレビでも見てなよ。ね?》

「そうね……」


 ごめんね――そう呟く聡美に、尾高が穏やかに笑った。


《今日、帰りが少し遅くなりそうなんだ。気にしないで、先に寝てていいから》


 うん、分かった……そう言って聡美は通話を切ると、放心した様にスマホの画面を見つめた。










 








 その事に、気づいた瞬間。

 聡美は得体のしれない恐怖に身震いがした。

 真っ暗なスマホの画面が、無機質に黒く開いた穴のように見える。

 まるで、自分を見ていた、あの子供たちの目のようだった。

 そこには何の感情も無い。



 暗い穴があるだけだ。


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