第16話
「聡美!」
そう呼びながら手を振る友人に、聡美は笑顔で手を振り返した。
「ゴメン!待った?」
「大丈夫、そんなに待ってないよ」
頭を下げる友人に聡美は首を振ると、むしろ自分の方が申し訳ないという顔をして俯いた。
「
「まぁね。だってオチビがいたら、ゆっくり食事なんかできないじゃん」
有希はそう言うと、聡美を促して予約していたランチの店に入った。
店内は満席だったが、2人は予約席に通され、すんなりと食事にありつけた。
「で?どう?体調は落ち着いた?」
聡美の2年先輩で、職場の同僚でもある有希は、既に結婚して5歳と2歳の娘がいる。
妻としても母親としても、頼れる先輩だった。
「やっと食べられるようになったよ。けど、今度は食欲が凄くて、抑えるのが大変」
「あぁ、分かる!太るよね。でも今だけだから、気にせずちゃんと食べるんだよ」
お腹の子に栄養送らなきゃ――そう言って有希は嬉しそうに笑った。
が、すぐに真顔になると、心配そうに聡美の顔を覗き込んだ。
「大丈夫なの?尾高さん、心配してたよ」
「……」
聡美は俯いたまま、黙り込んだ。
職場で一番仲が良かった有希に、自分のことを相談したのだろう。
よければ話し相手になって欲しい――そう言ったのかもしれない。
「うん……まぁ、大丈夫よ」
苦笑いを浮かべながら答える聡美に、有希は言った。
「妊娠中は精神的に不安定だったりするからさ、いつもは気にならないことが気になったりするんだよ。音とか匂いとか。ホルモンのバランスのせいだから気にすることないよ」
「うん……」
何となく浮かない顔をする聡美に、有希はしばらく黙っていたが、少し声を落として聞いた。
「変なブログがあるって話を聞いたんだけど……」
「……聞いたの?」
「尾高さんがね、聡美が変なブログに憑りつかれてるって――言ってたよ?」
「憑りつかれてるって……」
大袈裟な、と苦笑したが、聡美はそのまま黙り込んだ。
「もしよかったら、見せてくれる?」
そう言われたが、聡美は自分のスマホを掴むと、首を振った。
「誰かに見せようとすると消えちゃうの。画面をスクショして送ったのに、送った相手には見えないのよ。でも私の方にはちゃんと見えてるから、それを直接見せようと思ったら、今度は私の方も黒くなってて見えないの。そんなことってある?」
「本当?」
有希は聡美にメッセージの履歴を見せてもらったが、そこに残っているスクショ画面は真っ暗で何も映ってはいない。
「お気に入りに入っていたのに、見せようとするといつの間にか消えてるし。なのに勝手にお気に入りに登録されたり、更新通知を寄越してきたり――」
「……」
「なんか本当に変なのよ、この人。しかも写真がどう見ても私が知ってる場所だし!」
「ねぇ聡美—―」
「変なフィルターかけて誤魔化してるけど、絶対近くに住んでるのよ。私の生活圏内に住んでるんだわ!」
「ちょっと」
「もしかしたら、私の事知ってるのかも!?どこかで見てるのかも!?それで毎日様子を伺っているんだわ。誰にも見えないような細工して、勝手に更新してくるのよ!」
「ねぇ聡美」
「いつか家の前に来たらどうしよう!?ねぇ何かされたらどうしよう!?いつか本気で現れそうで、私本当に怖くて――!!」
「聡美、ちょっと落ち着いて!」
有希に制止され、聡美はハッと我に返った。
店内のいる客が、じっとこっちを向いている。
急に大声でまくしたてる聡美を、みな不審な目で見つめていた。
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