第18話 凌空side

練習嫌いでも、朝が苦手でも。

青翔に編入してから欠かさず参加していた朝練に、次の日俺は行かなかった。


……行けるわけねえだろっ。


重い足を引きづりながら登校し、自分の席に座っていると。


「おはよう……」


朝練を終えた結良が、俺の隣に座る。サボったことは咎めてこない。


……行けない理由も分かってんだろう。


「朝ね、隼人の怪我が部員みんなに知らされたの……」

「……」

「事故の詳しい内容は伏せてる。部員達に動揺が広がらないように……。でも、隼人が怪我したってだけで、動揺はハンパないけど……」


俯いたまま告げる言葉に、俺はジッと耳だけを傾けた。


「広田監督、これから隼人の病院に行くって……」


手塚は学校を休んでいた。手塚の想いには、薄々気づいてた。


俺だって、結良を好きなまま手塚と付き合ったんだ、それは責められねえ。手塚が憎い、海道が憎い。

それは変わらないが。

投手ファイルの存在を教えたのも俺。彼女って権限で怪しまれずに部室に入らせたのも俺。


だから……自分が一番許せねえッ……。




今日は期末テストの最終日。3教科のテストを、なんとかやり過ごし、放課後。午後から他の部活も解禁になるため、珍しく校内はにぎわっていた。


その中、俺はひとり足早に昇降口へ向かってると。


「凌空、帰るのか」


広田監督に呼び止められた。目が合い、気まずくてさっと逸らす。監督は、事故の詳細を知ってるはずだ。そう思うと、ますます合わす顔がない。


「……」


軽く頭を下げそのまま通り過ぎようとしたとき。


「甘ったれんな」

「……っ」

「隼人が離脱した今、お前しか1番を背負えるヤツはいないんだ」

「……無理です」


なに言ってんだ……。

出来るわけねえだろ。


「おい凌空っ!」


後ろから呼びかける監督の声を無視して通り過ぎると、少し先に結良が見えた。

付かないふりをして、下を向きながら足を速めた。


「凌空……っ……」


俺を呼ぶ声が聞こえたけど、そのまま通り過ぎた。




俺にはもう、投げる資格なんてねえ……。

1番……?

冗談じゃねえ。俺のせいで隼人がつけられなくなった背番号を、どうやって俺がつけるっつんだよ。


今日もグラウンドに行くこともなく、そのまま家へ帰った。

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