第1.5話 選択ミス
「ええええぇぇぇぇぇぇ!?」
夜になり、静かになった大学の研究室の中で、近所迷惑な声を出したのは言うまでもなく、りょうたちを転生させた張本人(張本神?」のミラである。
そりゃないって、りょうくん……。
「ただの殺人術ならともかく、龍殺流って……チートじゃない。」
ってか、今も残ってたことに驚きだけど。
私は、仮にもガイア様の弟子だ。地球に行ったことくらいある。弟子入りしたての2000年くらいはずっとガイア様が創ったいろんな世界に落とされていた。その中の1つが地球なのだ。
龍殺しーードラゴンスレイヤー。地球には到底似つかわしくない単語だ。地球は、数ある世界の中でも、トップクラスに平和な世界の星だ。地球がある世界には、ドラゴンと呼べるものが現れたことすらない。
私がドラゴンと戦った時の話を伝えたら、それが広まっただけだし。伝えてから何千年も経つのに、ドラゴンの姿が正しく残ってることが、私には不思議である。ガイア様の勧めで、地球は星全体をくまなく歩きまわった。その中でたった2回、その前に落とされていた世界の話をこぼしてしまっただけだ(ちなみにその世界は現在も絶好調である)。
ん?そういえば、りょうくんの顔ってなんとなく、あいつの顔に似てるんだよな。確か、あいつの名前は……
私は、モニターを起動して地球の名前の検索欄に【武義正】と打ち、検索をかける。
「えっと……、なになに?現在の地球においては消えてしまったが、天界時間で今日の夕方頃までは地球に存在し、最強の武術であった殺人術の一種、龍殺流の開祖!?」
「ええええぇぇぇぇぇぇ!?」と、夜の大学で本日2度目の奇声を上げた私の精神はすでに異常なまでの焦りに支配されていた。
確か、あいつには異世界の話を軽くしただけのはずだ。その端々に語られていた私の戦闘方法を、一人で確立させたということなのだろうか。
「いや、確かに強いやつだとは思ってたよ?でも、ここまでとは思わないでしょ、普通。」
確かに、物語で言うところの伏線のようなものは会った。私と最初に会ったときも刀持った賊十数人相手に傷一つなく勝ってたし。でも現実でこんなことが伏線になるとは思わないでしょ……。あいつ、既に何かの流派に入ってるようなことだって言ってたくせに。
「どうしよう。これじゃあ、ガイア様に怒られる。」
世界には、それぞれ存在していい強さの上限がある。その上限は、それぞれの世界の核に記しており、通常は、核の情報をもとに世界のシステムが、その世界の上限を超える可能性のある存在を自動的に省いている。
通常は。
今回のような異常事態の場合のように、創造神が意図的に世界に干渉し、転生または転移を行った場合、システムはそれを省かずに演算に取り込んで世界を運用する。それが創造神の意思だと考えるからだ。
まずい。……いや、転移させるやつを1人ミスった時点で相当まずいんだけど、状況が余計に悪化してしまった。
アワアワと焦りながらも、私は必死に頭を働かせる。
次に私が取るべき行動は……手動での修復か?
「でも、どうやって……」
世界が動いてからの手動での修復は、まだ教わったことがない。無論、ガイア様なら可能だろう。しかし、ガイア様は現在かなり遠くで講義をしているはずだ。第一、これをガイア様に知られたら、相当まずい。最悪、大学を中退させられかねない。
うーむ……私自身を転移させるか?
15分ほど考えた末、私は一つの結論にたどり着いた。
自己転移。
創造神が自身の世界に直接降臨するという、数世代前の手法だ。リスクが高いうえに、必要な演算がかなり複雑なのでこの手法は、当時ですらあまり用いられることはなかった。大学の講義でも、習ったことはないが、ガイア様がしょっちゅう使っていたから、たまたま知っている。
「確か、公式があるんだっけ?」
私は、うろ覚えの公式を紙に書き出す。
「まだ、足りないな。……多分、こことここにこの式が入って、ここには……これか!。」
私は、知っている知識を総動員し、公式を導き出す。
第3世代のクルラ神の転移論からのパワーバランスの演算式
第2世代のイーシャ神による転移術の証明を応用
第6世代のクーイル神の転移式の拡張法を第13世代のウダ神による転移式の安全性を高める保護式で補正
異なる言語で書かれたそれぞれの式をガイア式異言語間演算調整法で連結……
20分後
「できた!」
私は、紙に書き出した公式に自分の情報を代入したものを悦に浸りながら、眺める。
後はこれを転移室で発動させれば……
私は、教授とリリーさんに書き置きを残し、転移室に入る。
「またあの2人に会えるなんて、楽しみだなぁ。……まずはりょうくんの力を制限してからだけど。ってか、りょうくんって男の子だったんだ。」
私は、久しぶりに会う友人に心を踊らせながら、転移術を発動した。
そうそう、後で知ったことなんだけど、私がこの時導いた式は、転移論で新発明だったらしい。
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