第2話 言語の壁と世界の仕様
異文化交流、それはありとあらゆる異世界モノでのイベントの1つだ。無論、僕だって、異世界モノの漫画、小説、アニメ。その全てにおいて、その異世界の文化には、毎回ワクワクさせてもらっている。自分が異世界転生?したからには、このイベントはしっかりとクリアしたい。
「ってなわけで、村に行きませんか?菜乃さん。」
異世界転生してから1日がたった頃、僕は村に行くために菜乃の説得を試みていた。
「……いや、別に村に行っても良いんだけどね?もう少し、その…この辺を探索したいと言うか……神様からのギフトで手に入れた魔王のところまでの地図と地形を照合しておきたいと言うか……。」
菜乃は、村に行きたいと駄々をこねる僕には目もくれず、ずんずんと森の中を進んでいく。
菜乃は慎重派のプレイヤーだからな……。
そう、菜乃はRPゲームをする時には、まず安全と地形を把握するところから始める。全話の発言や行動を見ると、とてもそうは思えないという方がほとんどだろうが、彼女はとても慎重な性格なのだ。その性格のおかげで、これまであまり人と衝突したことがないらしい。
なるほど、喧嘩っ早い性格の僕と1年半も喧嘩を一度もせずに平和に過ごせていれるのは、その性格のおかげか。
「ちなみに、その作業昨日から続けてるけど、後どれくらいかかるんだ?」
僕は、菜乃の性格のありがたさをしみじみと感じながらも、前を歩く菜乃にそう聞いてみる。
「……」と、少し間をおいてから、菜乃は口を開いた。
「あと…3時間くらいかな。」
手に持っているペンを見るに、彼女は地図に書き込みをしながら進んでいるのだろう。
「そっか。日が暮れないならいいんだ。」
さすがに、2日連続の野宿と徹夜はきついからな。
菜乃が気づいているかはわからないが、昨日野宿している間、僕は一睡もしていない。つまり徹夜である。
素人とはいえ、夜になったからってすぐに眠ったのは驚いたな。しかもその後一度も起きなかったし。……いや、徹夜するのは別に構わないんだけど。菜乃に見張りをさせたら、多分逆に危ないし。
「りょうくん、あれ、なんだろ?」
ふと、足を止めて菜乃は、ある方向を右側を指さした。
「ん?」
菜乃が指さした方を見ると、そこだけ、気が切り開かれていて、なにかの巣のような物があった。
「あれは……鳥の巣か?」
にしてもデカいな。
その巣は、目測で高さ2メートル、幅6メートルはあろうかという大きさだ。それが、合計で6つ少し離れて存在している。僕らは、進もうとしていた方向を外れて、ふらふらと巣へ近づく。人間、好奇心には抗えないのだ。
「!!」
突然、僕らを巨大な影が覆った。
「これは、まずい。」
上を見た僕は、そう判断した。
昨日倒した巨大な鷹が、5体。僕らの上を飛んでいる。何もしないことを示して、もとの道に引き返せればいいが、あちらは明らかに攻撃態勢だ。それは厳しいのかもしれない。
「菜乃、なにか策とかってあったりす……菜乃?」
菜乃は、立ち止まった僕をおいて、ふらふらと巣の方へと歩いていた。そんな菜乃をめがけて、鷹の1体が飛びかかる。
「危ない!!」
龍殺流殺人術手刀の技
「首盗り」
僕は菜乃が殺される前に急いで菜乃に襲いかかった鷹を殺す。
「ギーーー!」
仲間が殺されたのを見たからか、空にいた残りの鷹が一斉に襲いかかってきた。
「あぁ、もうめんどくさいなぁ!鷹なのになんで群れてんだよ!頂点捕食者だろうが!知らんけど!」
龍殺流殺人術拳の技
「昇り龍」
僕はまっすぐにこちらに滑空してくるその巨体を迎撃する形で1体1体、丁寧に潰す。愛護団体になにか言われそうな表現だが、そこは罪の意識として欲しい。元々は殺人術なのだ、使うこと自体が咎められる。
え?一斉に襲いかかってきてるのに、なんで1体1体潰せるのかって?時間差で潰しているのさ。元々、この殺人術には範囲攻撃がない。範囲で防御する技はあるけど、攻撃はいつもいつも一対一で行うことを想定している。いや、前言撤回、ある分にはある。ただし、身体への負担がでかすぎて実践では使えない。
「ふぅ」
鷹を潰しきり、僕はそうため息をついた。正直、かなりグロい。僕も菜乃も、精神がかなり異常な方なので大丈夫だが、描写するのは避けたい。
「菜乃?」
後ろにいる菜乃に僕は声を掛けるが、返事がない。後ろを見ると、菜乃は巣をよじ登っている。
「ちょっと、菜乃!?……ふぐっ」
菜乃のあまりの行動に菜乃を止めようとした僕だが、その瞬間毒々しいほど甘い匂いが鼻をついた。
なんだ、この匂い。毒ガスか?
毒ガスは、何も火山地帯や人間の兵器だけが出すものではない。厳密には、人間が定義する毒ガスを出すのは兵器だけだが、間接的に毒と言えるやつは、人間以外の生物も出す。例えば、ハエなどの小虫をおびき寄せるために食虫植物が出す甘い匂いや腐ったような臭いがそうだ。
しかし、この周辺にはそんな植物は見当たらない。まさか、あの巣が出しているとは言うまい。……いや、まさかな。
まさかとは思いつつも、僕は菜乃の口を自分の手で塞ぎ、抵抗する菜乃をそのまま元いた森へと引きずって行く。
「すぅ」
少し口を開いて周囲の臭いを嗅ぐ。さっきのような異常な臭いはしない。
やはり何らかの生物による意図的なものなのか?にしても不自然だが。
バシバシ
菜乃が僕の身体を叩いたので、僕は「ごめん」と謝りながら菜乃を放す。
「ふぅ、死ぬかと思った。」
菜乃が悪びれもなくそんな事をいうので、僕は「それはこっちのセリフだよ。」と抗議しておく。
「僕がいなかったら、今頃菜乃は動物の餌だよ。」
僕はそう言いながら、さっきまでいた場所を指差す。そこには、ゴロゴロと巨大な鷹の死骸が……
「あれ?ない。」
「どうしたの?」
菜乃は、僕がなにもない場所を指さして戸惑っているのをみて、少し心配そうに声をかけてくれる。
「いや、さっきまであそこに昨日と同じ鷹の死骸が、5体分転がっていたんだけど……。」
「そういえば、昨日もだったよね。りょうくんが倒した鷹、いつの間にか消えてた。」
そうだ。昨日殺した鷹も、いつの間にか消えていた。
「誰かが持っていったんだろうか。」
「いや、普通に世界の仕様だよ?菜乃ちゃんには説明したはずだけど。」
「そうなのか。なら良かった。どういう意味合いがあるのかは神様とやらにいつか聞けたら良いな。」
「神様ならここに居るじゃない。今聞きなさいな。」
「それもそうだ……って誰だあんた!」
「「おぉ、りょうくんがノリツッコミしてる。」」
少し普通に話が進む程度に馴染んでこの場にいて気づかなかっが、僕と菜乃の間に挟まるような形で、そこにはいかにもな異世界美少女がいた。
異世界美少女と表現させてもらったのは、彼女が地球にはいない緑色の髪の毛で、染めている感じがまったくないからだ(つまり、生え際まで緑だ)。
「おい、菜乃。こいつ知り合いか?」
僕は、美少女越しに菜乃の耳に口を近づけ、菜乃に聞く。
「うん、平たく言うと、この世界の神様だよ。この子。」
「おーい、お2人さん。丸聞こえだぞ。りょうくんはともかく、正体を知ってる菜乃ちゃんは少しくらい失礼だと思う素振りを見せなさいな。仮にも君たちを助けに来たんだから。」
自分の頭越しに繰り広げられているひそひそ話に神(仮)は、不満そうに唇を尖らせて、そう指摘する。
「そのあなたを最初に助けてるのは、私たちでしょう。」
「まだ助けてもらってないし……どっちかって言うと、今のところ菜乃ちゃんよりもりょうくんに助けてもらってるし。」
「生意気言ってないで、用があるなら、さっさと仰ってくださいな。」
拗ねる神様をなだめながら、菜乃はそう促す。もっとも、拗ねる原因をつくった僕は、神様のことをジロジロ観察しているのだが。
「さっさと仰れとは、君も態度でかいな〜。ま、いいんだけど。要件はね、君たちを助けに来たのさ。この、天界1の美少女である私がね。」
うん、いらない。冒険じゃなくなるもん。
「よし、菜乃。行きましょう。こんな神様ほっといて。」
「そうだね、先に進みましょう。ただでさえ、マッピングに時間がかかっているんだから。」
「無視しないで!?仮にも神様だよ!?天罰下るって!」
後ろでギャーギャーとうるさいので、僕は後ろを向く。
「あのね、僕達は冒険がしたいんですよ、わかります?」
「だから、その手伝いをしようって言ってるんだよ。」
「あなた、神様でしょ?」
「うん」
「「チートじゃないか!楽しくねぇよ!」」
あまりに強いゲーマーの気迫に、神様が「ひょぇ」と小さく悲鳴を漏らす。
神様を脅してる……後で天罰とかくだらないだろうか?
「い…いや、別に私に戦闘力とかそういうのは……あるか。」
「あるんかい!」
今のない流れだったろ、途中まで。
「いや、戦闘面じゃなくて、もっと文化的な方だよ。わかんないかな?」
「文化的な方?」
「……もしかして、言語?」
わからなかった僕とは違い、しっかり学校に行ってた菜乃はわかるらしい。いや、僕だって知ってたよ?今回、まだ見せ場がない菜乃に譲っただけで。
「そう、菜乃ちゃんに渡してなかったな、って。」
「じゃあ、それ渡してとっとと帰れ。」
「うん、無理だよ!?能力をギフトみたいな感じで渡せるのは、転移前までだからね!?もう転移しちゃってるから無理だよ!?」
「じゃあ、どうするんだよ?」
「私もついていきまーす。」
「「……」」
「どう?嬉しい?嬉しいよね?だって、天界1の美少女だよ?」
絶句する僕達の周りを、自称天界1の美少女の神様は、くるくると周っている。
「まあ、チートじゃないなら良いけどさ、菜乃に何を渡しそびれたんだよ?」
「態度がデカいな〜、間違って転移されたくせに。」
「お前にな?」
「細かい女は嫌われるんだよ?」
「僕は男だから関係ない。」
「んで、何を忘れたかと言うとですね、言語能力だね。」
「おい、流すな。」
「何を渡し忘れてるんですか。」
僕達2人が突っ込んだところで、結果は変わらないらしい。同じような問答の末、10分後には、神様が僕達のたびに同行することが決定してしまった。
チートだけは避けたい!
次の更新予定
毎週 土曜日 22:00 予定は変更される可能性があります
間違い異世界 Parsy.Store @kosuketuba
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