始まりの裏話 学生の創造神

「えーこの様に、自分が作りたい世界にならなかった場合、その世界の核に原因がある場合がほとんどであり、ここを直すことで、世界として成立した後でも、その世界を作り直す事ができる。この手法は、今から4万世代前の……」

今日も教授はよく喋る。

私がガイア大学創造主コースに進学してはや3年、私もそろそろ大学の研究を手伝わないといけなくなってきた。

いや、元々研究したくてこの大学に来たんだけど、創造学がこんなに難しいとは思わなくて……。

「おい」

だからといって、これ以上なにもしなかったら、そろそろガイア様が怒るし……

うーむ……

「おい、講義は終わったぞ。馬鹿者。」

「はっ」

どうやら私が頭をいらないところに使っている間に講義が終わったようだ。上から教授が私のことをジト目で見下ろしている。

「お前、今日の講義の内容覚えているんだろうな。」

教授の言葉に、私は目を泳がせる。

「もちろん覚えていますとも。睡眠学習というものをしておりましたので。」

「ほう?では、言ってみなさい。」

教授の面白がっている顔に、少しばかり殺意を覚えつつも、私は覚えている単語をつなげながら、頭の中で講義の内容を推測する。

「どうした。はやく言ってみなさい。」

「えーっと、大まかな内容としては、創造理論における創造ミスの補正方法ですね。理論の軸に、約4万世代前の創造学者、リースラ創造神の核補修法を置き、そこから現代のメインの補修法である個別補修を組み合わせるという内容でした。」

私は、推測した講義の内容を教授に言う。教授は少し目を開いた。

よし、当たったか?

「ふむ、今日も素晴らしい推測だったよ、ミラ学生。」

「うぐっ」

教授もこの3年間の付き合いでわかってきたのだろう。今日も私が講義を聞いていなかったことがバレてしまった。

「まったく、ガイア様の弟子だと言うのに、一体何をしているのやら。罰として後で私の研究室に来るように。君の模擬世界の手入れをしなさい。」

「うぅ……はい。」

私が中間実技試験で創った模擬世界は、出来が素晴らしかったらしく、教授の研究室で今でも動きを止められることなく保管されている。

所詮は学生の模擬世界、保管する意味ないと思うんだけど……

そんなことを考えつつ、私は講義室を出て教授のいる研究室へと向かう。教授の研究室にはなぜか私のための研究道具があるので、特に準備をする必要もないのだ。

コンコン

「教授〜来ましたよ〜。開けてくださーい。」

私がドアを叩いて教授を呼ぶと、ドアが勢いよく開いた。

「ミラさん!」

ドアの向こうにいたのは、教授ではなく私の友達であるリリーだ。

「リリーさん。教授に呼ばれて来たんだけど……教授、今いる?」

私がリリーにそう聞くと、答えは部屋の向こうから聞こえてきた。

「ここにいるぞ。はやく入ってこい。」

「私は教授にじゃなくて可愛くて優しいリリーさんに聞いたのですが。」

「生意気言ってないではやく入ってこい。君の模擬世界で面白いことが起きてるぞ。」

そう言われた私は、リリーさんと一緒に教授のいる研究室の奥へと向かう

「見てみなさい。珍しいことが起きているだろう。」

「本当だ。なぜ私の創った世界でこんなことが。」

「え?なにが起きてるんです?」

リリーさんには、なにが起きているかわからなかったようだ。

「魔王だよ。ここを見て。」

私は、リリーさんにわかるように、世界の一部をスクリーンに映して拡大してみる。そこには、禍々しい魔力に包まれたなにかが、蠢いていた。

「魔王、ですか。なにが特別なのでしょうか。」

きょとんとするリリーさんに、今度は教授が答える。

「魔王という存在は、不完全な世界でのみ生まれる存在だ。だから、最高クラスの創造神であるガイア様やタルタロス様、エロス様の創った世界にそんな者は存在しない。逆に、あの方々以外が創った世界には、例外なく存在するものでもある。」

「ならいて当然なのでは?」

「しかし!ミラ学生の創ったこの世界は、ガイア様も認める魔王のいない世界だった!これが何を意味するかわかるかね?」

そう言われたリリーさんは少し下を向いて考える。

「核に重大なバグが生じた、とかですかね。」

「……正解だ。そして、今日の講義を聞いていなったミラ学生、こういう場合はどうするのか、言ってみなさい。」

「ガイア様の創った世界から、自分の世界に近い物を選んでそこから人間を転生させます。」

「……正解だ。君たち調子いいな。というわけで、なんとかしなさい。」

「教授がやったほうが良いのではないでしょうか。大学のものですし。」

そう言われた教授は、ばつが悪そうに目を伏せて「そうしたいのはやまやまだが」と言いながら、奥から資料を持ってきた。

「私がいじるにはこの世界は難しくてな。」

持ってきた資料を見ると、私が創ったこの世界の基本資料だった。

「難しいわけ無いでしょう。学生が創った世界ですよ?」

私がそう言うと、リリーさんが困ったように顔をそむけた。

「え?なんでリリーさんも顔を背けるんです?」

教授は、ジッと私の目を見て言った。

「いや、私とリリー学生で5日間頭を捻ったが、さっぱり。」

うわ〜、何この神たち。こんなのが創造神やってる世界って、一体どうなってんだろう。

「……わかりました。地球を参考にして創ったので、地球を用意してもらってもいいですか?」

「ん?あぁ、それならもうそこにあるぞ。」

そう言って教授が指をさした方には、私が参考にした地球がモニターに映し出されていた。

用意がいいな。

私にやらせる気満々の教授たちに少し引きつつも、私はモニターを使って、今回転生させる人間を探す。

おっ、この子とか良いね。

そう思った私のモニターには、日本と呼ばれる国に住む、一人の女の子が映っていた。

え〜っと、なになに?高校生で、名前が……ナノか。良いじゃないか、この子に決めた。

私は、モニターに映るその子に照準を定めて、手を突っ込んで一気に引っこ抜く。モニターが白く光るのと同時に、私の手にはナノという女の子が……

「あ、間違えた。」

私の手にはナノではなく、リョウという男の子が握られていた。

「ん〜?どうかしたか?ミラ学生、なにか問題でも見つかったかね?」

教授の反応で私は自分の心の声が漏れていたことに気づいた。

「いえ、なんでもないです。今回は、問題が問題なので、2人転生させようと思います。」

私はごまかすため、教授たちにそう説明する。

「ほう、そうか。1人でも難しい転生を2人も……。素晴らしいではないか。ぜひ、その手際を見せてもらいたいものだな。そう思わないか?リリー学生。」

「えぇ、2人を同時に転生だなんて、聞いたこともありません。」

……私もやったことないよ!

頭の中ではそう言いつつも、もうやるしかないのが現状。私は、空中からガイア様のもとで創った、転生用の機械を取り出し、さっき引っこ抜いてしまったリョウという子をその中にいれる。

「転生特化型の機械か、転生が盛んだった頃はよく使われていたが……、エラーが多いと聞くが、使えるのか?」

「使えますよ、なんせ、昨日手入れしたばっかりなので。」

私は、教授の質問に答えながら、当初の希望通り、ナノをめがけて手を伸ばす。モニターが白く光り、私の手にはナノが握られていた。

「では、私は転生ギフトを渡すので、しばらく転生用の空間にこもりますね。」

「あぁ、では我々も本来の研究に戻ろう。」


通称神の色と呼ばれる12色、人間の世界に存在しない色で彩られたこの空間は、数少ない転生者のためだけに作られたものである。ここで、神々は転生者に転生ギフトと呼ばれる特殊能力を授ける。

「……ここは?」

世界を移動したことによるショックから回復したようで、ナノは身体をベッドから起こした。

「気がついた?あぁ、ベッドからは降りないでね。このまま次の場所に行ってもらうから。」

そういう私を、ナノは不思議そうに見つめている。

「あなたは誰なの?それに次の場所って?」

ナノは、私にどんどん説明してくる。私は、パンッと手を叩いて、ナノの前にモニターと人間のエネルギーに合わせた指輪をだす。

「そうね、色々説明することがあるから、説明聞いて不明な点はそこにまとめてて。君のイメージがそのままモニターに反映されるから、好きにまとめていいよ。」

そう前置きしてから、私はナノに今回の転生についてのあれこれを話した。

「……というわけなんだけど、なにか不明な点はあるかな?」

私は説明を終え、ナノにわからない点はないかを聞く。

「いえ、特にないです。」

「ギフトはそれで良いの?」

「はい、ゲームしてるときから、転生するならこれが良いと思ってたので。」

「そうか、じゃあ転生するけど、場所は君の友だちと同じにしておくから、仲良くね。」

私は、転生の手続きを終え、転生させようと、手元にモニターを開く。すると、ナノが、「あの!」と声を出した。

「なぁに?」

私が聞き返すと、ナノは恐る恐るといった感じで、口を開いた。

「失礼かもしれないんですけど、神様と私……いえ、って、会ったことありますか?」

「……って言うのは、人類のことかな?それとも、君とリョウのことかな?」

私がそう聞くと、ナノはさっきよりもまっすぐにこちらを向いて、

「私とりょうです。」

と言った。

まったく、勘がいいなぁ。

私はそう思いつつ、笑顔で嘘をつく。

「いいや、ないよ?私とは、会ったことがないよ。」

私は、ナノの質問にそう答えて、「転生させるよ。」と言ってモニターに表示されているボタンを押した。ナノは神の12色の光に包まれて、ベッドの上から消えた。

「……菜乃ちゃん、りょうくん、お気をつけて。」

私は誰もいない部屋で、そう小さく呟いた。

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