間違い異世界

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始まりの話 神様……、間違えたってなんですか。

 人には、それぞれ得意なことと不得意なことがある。それは小学校に入る前に、ほとんどの人が気づくことらしい。

らしい。

僕は違った。だって、僕には人と違ってある才能があった。努力する才能だ。なにかできるようになりたいと思えば、それができるようになるまで努力して、そしたらできるようになった。ある意味うらやましい才能なのだろう。そのせいか、いつしか僕はこの世にできないことなどないのだと、そう思っていた。それがいけなかったのかもしれない。



「りょうちゃん、明日は学校に来る?」

そう僕にキラキラした瞳で声を言ってきたのは、私にプリントを届けに来たクラスメイトの菜乃ちゃんだ。名字は知らない。僕は、「う〜ん」と悩むふりをしてから、「知らない。」と答える。いつものことだった。

「そっか。」

と、彼女も彼女でいつも通りの相槌を打つ。

「残念じゃないの?」

いつも同じやり取りをして、面倒じゃないのかと思った私は、彼女にそう聞く。

「別に〜?りょうちゃんの家、私の家から近いし、なんなら帰る方向にあるし担任からお菓子もらえるし、りょうちゃんのお母さんもお菓子くれるし、りょうちゃんの家でアニメ見れるし、りょうちゃん一緒にゲームしてくれるし。」

「お菓子好きすぎじゃない?」

「良いじゃん、美味しいんだし。」

「身体壊すよ。」

「家にこもってるりょうちゃんよりは健康だよ〜だ。」

「べー」と、舌を出す菜乃ちゃんに笑いつつ、僕は今日も2人でやるつもりで買ったゲームを出す。僕の家に菜乃ちゃんがプリントを届けるようになってから、僕が異世界もののアニメが好きと知った菜乃ちゃんが、これなら一緒にオンラインでできると言って渡してくれたゲームだ。その時に開いていた鞄の中には、僕にくれたゲームと同じものが、もう一つ入っていた。


「じゃあ、明日も来るね。」

「うん、気を付けて。」

菜乃ちゃんは、プリントを届けるついでに僕の家で遊んでから帰る。今日も遊んでから帰った。

「りょう、夕飯まであと少しあるけどどうする?」

「部屋でゲームしとく。」

「わかった。」

お母さんにそう言って、僕は部屋でパソコンを開く。その時だった。僕はなにかに頭を掴まれて世界を抜けた。

その時に頭に響いた声は、一生忘れない。

「あ、間違えた。」


 漫画の異世界ものでは、神様との対話が挟まるが、現実にはそんなものは無かった。おそらく2世界間の中と思われる場所で、漠然とした何かとの対話とすら言えないものはあったが。むこうが、

「なにかお望みの能力や才能はありますか?」

と聞いてきたので、とりあえずいろいろ言いつけといた。ふんだくれる相手からはできる限りふんだくる、それが僕、佐藤りょうという男子高生なのだ。


そして今、青い空に牧歌的な草原の広がる新しい世界で僕の新しい人生が、始まろうとしていたーー。

「菜乃ちゃんとゲームできなかったのは残念だけど、ここから異世界無双もの始めるぞー!」

菜乃ちゃんとゲームできなかったのを悔やみつつ、意気揚々と新しい人生に進もうとしていた私に、ツッコミを入れてくれる人がいた。

「菜乃ちゃんがいないって決めつけるのは、まだ早いのではないかしら。」

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