第2話 依頼主は女子高生

その少女は、その美しい顔を恍惚に歪め少年を見つめていた。


その視線の先の少年は、まだ幼さが残るが大変美しい顔をしており、まるでお姫様、のような印象を与える愛くるしさがあった。

少女と対照的に、少年はバツの悪そうな表情であった。



「やっと会えたね、がっちゃん・・・。」



「久しぶり・・・。あず姉・・・。」




少年は、少し間をおいて、観念したようであった。

もう、この少女から逃れられないだろうと。







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直江康成。彼はこの世界において、日本一との名探偵と呼ばれた男であった。


頭脳明晰、冷静沈着。

地道な情報収集能力と、どんな細かい証拠・綻びも見逃さない観察眼。

犯人を冷静に追い込む話術。

様々な分野に精通もしている。


そうした武器を駆使し、ありとあらゆる難事件を解決してきた。

彼にかかれば迷宮入り等ありえない。

まさに天才探偵であった。



そんな電斗が康成の弟子となったのは、偶然の産物であった。

事件に巻き込まれ難儀していた彼を、康成の名推理が救ったのである。

そのときの交流がきっかけで、押しかけのような形であったが電斗が弟子入りした。

康成も始めは断っていたが、あまりの熱意に折れたのであった。





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直江探偵事務所。

名探偵直江康成が開いた探偵事務所だ。

市内中心部から徒歩で10分といったところにあり、アクセスは良好。

康成名義の雑居ビルの二階にあり、質素な雰囲気であるが、それが逆に依頼者が

訪問しやすくなることに繋がっていた。


現在、この事務所の主は長期の留守であった。

アメリカでの大事件に取り組むこととなった康成は、単身渡米。

電斗も付いていきたかったのだが、師匠からは事務所も留守を守るよう厳命されてしまった。


「君もそろそろこの稼業について3年経つのだから、そろそろ独り立ちを見据えてやってみる良い機会と考えてみてはどうだね。

大丈夫、私が横にいなくても君はもう仕事の一連の流れを身に着けているよ。

なに、推理に行き詰ったら気軽に連絡してくれてかまわない。」


こうして電斗は、師匠が不在の間、直江探偵事務所の留守を預かることとなったのである。

とはいえ、探偵事務所に訪ねてくる客は、康成が不在と分かると半数は帰ってしまう状況だった。

それも仕方ないであろう。

推しも推されぬ名探偵、直江康成の力を借りに来たという客であれば、若造のペーペーに見える電斗に頼もうと思わなかったのであろう。


師匠の留守番をしっかり勤め上げる!と意気込んでいた電斗であったが、来る依頼といえば迷子のペット探しや不倫疑惑のある人物の追跡調査であった。

それが探偵稼業の一番ポピュラーで大切な業務であるというのは、その通りであるが、一方で師匠のような難事件を解決したい、という気持ちもあった。



「はぁ、なにか仕事こねえかな・・・。暇だぜ・・・。」





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「すみません、直江探偵にお願いがあった伺ったのですが。」


その日直江探偵事務所に一人のクライアントが訪れた。


「はいはい~。ご用件は何ですかな。」

久しぶりのお客さんである。

また迷子のペット探しであろうか。


電斗はどんな客人であろうかと相手を眺め、少し驚いた。



その客人は、女子高生であった。

未成年の依頼人というのも珍しかったし、ましてや女子高生となると探偵稼業とは一番程遠い存在に思えた。

そして、その少女はとても見目麗しかった。

電斗は思いがけぬ来客に、一瞬固まってしまった。


「あの、あなたが直江探偵ですか?話に聞いてたよりずいぶん若いけど。」

その様子に女子高生は怪訝そうな表情で電斗に問うた。


「あ、いやね。

俺は直江先生じゃないよ。俺は直江先生の弟子。

直江先生は今アメリカの事件に取り組んでおられるから、しばらく帰ってこないんだ。」


「ええ、そんなぁ・・・。」

直江探偵が不在と知ると、少女はえらく残念そうだった。


「ま、まあ弟子の俺が留守を預かってるんだ。

ご用件なら代わりにうかがうよ?」


「あなたが・・・?大丈夫かなぁ、なんだか頼りなさそうですけど。

相手が年下の女だからって急にタメ口になるし、接客がなってないんじゃないですか?

なんだか見下されてるように感じて不愉快です。」


「お、おおう・・・。それはごめんね・・・。

そんなつもりじゃなったんだ、なんというかフランクに気楽に相談してもらえればと思ったんだけどね・・・。

(な、なんて気の強い娘だ・・・。)

これでも直江先生の弟子として一緒に事件解決なんかもしちゃっとことあるんだよ。

ホント、力になれるかもしれない。」


「はぁ。まあ、せっかく来たんだし、それなら相談させてもらいます。」


「お、おう・・・。」


この時点で電斗はだいぶタジタジになっていた。



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「ふむ、つまり、君の幼馴染の少年、犬山我路くん・・・、を探せということだね。」


「はい。」



少女は、名前を須崎あずさと名乗った。

この事務所からも徒歩圏内にある、近隣の中高一貫校に通う高校生だという。

彼女が探してほしいという少年、我路は同じ学校の中等部に通う生徒とのことであった。



「名前と、写真はこれでと・・・。ちなみに彼は君の恋人なのかな?」


「え・・・  !!!

何故、あなたにそんなこと教えないといけないんですか!?」


「え、いや、まあ調査にはできるだけ情報があると助かるからね。

何がヒントになるかわからないもんだし・・・。」



「・・・。まぁ、わたしは、自分のこと、がっちゃんの恋人だと思ってますけど。」


「ふむふむ、それでこの連休初日だというのに不在だから探してほしいと。

でも、どっか遊びに行っただけじゃないの?それかクラブの合宿とか。」


「違います。昨日から学校を休んでいたんです。

それで今日も来ないから心配になったの。合宿とかじゃないわ、そこらへんのスケジュールは数カ月先まで把握してるから。

それくらい調べてから依頼に来てます。」


「そ、そうか。(数カ月先までスケジュール把握してるって・・・、いくら彼女だからって束縛が強すぎるんじゃないか?

これ、絶対束縛が嫌で内緒でどこかで遊んでるだけだろ・・・。)」


「がっちゃんがあたしに内緒で遊んでるだけって思ってるなら間違いですよ。

彼の寮だけじゃなく、実家とか行きそうなところは全てあたりましたもの。」


「そ、そうか。(心を読まないでほしいな・・・、なんというか勘も鋭い子だなぁ、こりゃ美人だけど相手の彼氏さんも大変だね。)」

電斗がそこまで考えたとき、またあずさが自分を睨んでいることに気づき、慌てて取り繕った。


「調査にあたって、そうだね、何か彼の持ち物とか貸してくれないかな?

何か、手掛かりになるものでもあれば・・・。」


「手がかりですか・・・。

まぁ、そういうことでしたら、これならお貸しできますが」


電斗は渡されたものに、驚愕した。

それはビニールの小袋に入った、頭髪であった。


(か、彼氏のとはいえ、こんなの集めてるの?変わった子だな~。)

もはや電斗は取り繕うことも忘れ、あきれた様子になった。

またあずさが怪訝そうに睨んでいたが、電斗はもう気にしてなかった。

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