第13話 弱点
「と、言うことがあってね。そのあと、なんやかんやあって、今でも関係が続いてるのよ」
美咲さん特製のスープを飲みながら彼女は話している。師匠の意外すぎるほどアクレッシブな一面を知ることができたので、かなりの収穫だ。私の知る師匠とはまるで違う。
「あの頃は大変だったですねぇ。お嬢様が主に私達の行動にとっかかってくるせいで、もう何回シメられたかわからないくらいにはシメられましたね。生徒会連中が思った以上に強かったですから」
それを聞いて私は戦慄した。言ってしまえば、このレベルの戦闘力を持った連中がゴロゴロいる学校。まあそんなところなんて一つしかないのだが。でも、それはそれで面白そうだなとも思った。学校というものに行ったことがないからだ。正直、羨ましいくらいだ。
「…いい場所なんですね。学校って」
「ええ。いい場所よ。みんな面白い子ばかりで」
彼女はどこか懐かしむような視線で空を見上げる。その瞳には、私の見たことのない何かがあるような気さえした。
「ところで、今更なんですがなんで私を助けたんです?あなた達にとてもメリットがあるとは思えませんが」
「あら、愚問ね。メリットなら確実に一つあるじゃない」
そう言われても、私にはそんなこと検討もつかない。彼女や師匠にとって、私は戦闘面でかなり劣っている。頭も同期の影師より回らない。そんな私を活かすメリットは、これだけ見ると無いように思えた。
「…彼女は、あなたが思っているよりも強くないわ」
私には、そのようにはとても思えなかった。彼女が、弱いはずがない。
「は?なんでそんなこと___」
少し食い気味で目の前のお嬢様が話す。
「たしかに彼女、木口優火は戦闘という意味では強いわね。ずば抜けていると言ってもいいわ。何なら王都でも指折りと言っていいほどの実力者よ」
「じゃあ何で___」
「でも精神という意味では、まだまだ弱いと言わざるを得ないわ。一年前の惨劇、覚えているでしょう」
忘れるはずがない。死者、行方不明者100名以上、重軽傷者3000人以上という被害をもたらした、王都史上最悪のテロ事件。そして、私の仲間と友人を奪い、大きな喪失感をもたらした事件。
「彼女はあの事件のとき、自身の甘さが原因で自身の部下を失っている。だから、仲間を失う恐怖と後ろめたい感情が消えていない。そんな状態だと、どうしても魔力出力は落ち込んでしまう。魔力出力は、本人の精神状態に依存して変動するから。それに加え、精神的な傷は、付け込まれるととことん痛いのよ。絶望や怒りは、本人の魔力の状態不全につながるし、普段ほどのキレもなくなる。格下相手にすら遅れを取ることもあるわ」
私は何も言い返せなかった。そしてそれは、私のことのようにも思えた。思えてしまった。
「だから、あなたには生きてほしい。そう思うの。彼女には悲しんでほしくないし、それによって失踪や、自殺に走ってもらっても困るのよ」
「…わかりました。そういうことだったんですね」
真剣そうに聞いていた私に、彼女は少し頬を緩めて話す。
「まあ、というのはあくまで後付けの仮説に過ぎないし、彼女はそんな弱くはない____と思うわ。理由なんて、あいつを悲しませたくないってだけだし。ただ、さっきの情報は覚えておいたほうがいいわ。」
「…ひねくれてますね。ロザリアさん」
「ええ、そうね。ああ、あともう一つ」
「?なんですか」
ロザリアさんが私の方を指差す。その眼にはなぜか哀れみが含まれていた。
「背後には気をつけたほうがいいわよ」
___注釈
・一年前の死者、行方不明者の内には、間章のときに会った組織におり、影時のスカウトした人物も含まれています。
・建前で使ったあの説明は、優火の感情云々以外は事実です。
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