召しませ異世界転生空間4 火葬? いえ、仮想です
製本業者
宇垣ちゃんは遊びたい!
「……結局、こうなるのか」
私は
決して上手いとは言えないが、一応、陸上機の操縦はできる。しかし、この歳ではなかなか厳しい。もう初老と言ってもいい年齢なのだから。
「あらがえなかったとはいえ、せめて有言実行くらいはしないとな……」
後悔しかない。
体当たりという手段を選んだこの機体――水上戦闘機「強風」をベースにした機体は、エンジンが誉でないおかげで、むしろ整備性が良かった。
昭和二十年八月十五日。まもなく正午を迎える。
――見つけた。
私は高度を落とし、海面すれすれを飛ぶ。
この身体……宇垣纏として生きたこの人生。何の因果か憑依し、歴史を変えようと足掻いた。しかし、結果は……
『(ザー) 司令、い(ザー) 玉音放送が(ザー) 早く戻って(ザー)』
雑音だらけの無線。海面に近いせいか、余計にノイズが多い気がする。
だが、もう答える必要はない。
私は無言でスロットルを開け、加速する。
輪形陣の隙間――狙うは中央の
接近する艦橋を見据えながら、走馬灯のようにこれまでの足掻きが脳裏を駆け巡る。
――ああすれば良かった。こうすれば良かった。
まず、金剛型の改装。高速戦艦化だけでなく、副砲を廃止し、その分高角砲を増やすべきだった。
扶桑型と伊勢型は、砲塔を一基減らしてでも速力向上を優先するべきだった。
改装空母も、もっと早期に投入できたはずだ。
長門・陸奥も、機関を強化していれば、もっと積極的に運用できたかもしれない。
艦隊決戦主義の裏をかくこともできたはずだ。
改装空母――飛鷹と隼鷹は何とか前倒しさせた。だが、他は史実通り。千歳・千代田の早期改装も叶わなかった。
真珠湾攻撃。せっかく港湾施設を破壊したのに、後が続かず早期に復旧され、補給基地機能を回復されてしまった。
インド洋作戦。アッドゥ環礁基地の存在を知っていたのに、中途半端な指示しかできず、敵を取り逃がした。
珊瑚海海戦。せっかく勝利したのに、ポートモレスビー攻略は中止。結局、ミッドウェーからソロモンの消耗戦に突入してしまった。
ミッドウェー……あれは完全に油断だった。
珊瑚海海戦で損傷した加賀の代わりに、翔鶴・瑞鶴が参加し、戦力が増強されたことで慢心した。
結果は……史実ほどではないが、赤城・蒼龍は撃沈、飛龍と翔鶴も大破という大損害。むしろ史実より悪かったかもしれない。
ソロモン戦線。陸奥を投入したことで、一時的には戦力を圧倒できた。だが、結局はじり貧だった。
そして――
正直、仲は良くなかった。だが、それでも前世で英雄として知っていた山本五十六の撃墜は堪えた。
暗号が解読されている可能性を伝え、何度も再考を促した。だが、彼は最後まで押し切った。悔やんでも悔やみきれない。
皮肉なことに、私の乗っていた機体は撃墜されながらも生還。だが、元帥の機体は空中で爆散した。
「なぜ、私だけが生き残ったのか」――その時の怒りと無力感は凄まじく、荒れ狂った。
『鉄仮面が乱心?』と周囲を驚かせるほどに。
それからは、戦況は徐々に、しかし確実に悪化していった。
マリアナでは、聯合艦隊司令部との関係が切れ、敵の侵攻意図や作戦が漏れた可能性を伝えたものの、無視された。
せっかく小沢大将率いる第一航空艦隊が粘り強く戦ったが、効果は上がらず、山口中将率いる第三艦隊、角田中将率いる第四艦隊の攻撃も限定的なモノに終わった。
最終的に撤退し、サイパン島は陥落。戦略的敗北と言えた。
史実よりも奮戦したとは言え、レイテ海戦はサイパン陥落前に結局発生している。
結局、伊勢と日向を得ていた西村艦隊の奮戦で栗田艦隊のレイテ湾への攻撃は行われたが、なぜかすぐに反転。確かに効果はあったが、一時的であり、機動部隊の壊滅と相まって、結局特攻という愚かな選択に辿り着く。唯一の救いは、陸軍が乗り気で無く海軍主体で実施されていると言う事くらいか。
そして……戦艦武蔵の硫黄島特攻により硫黄島の戦いが続くなか……
広島への原爆投下は行われた。奇しくも史実通りの同日に。
そして長崎。
沖縄戦こそ発生しなかったが、硫黄島が陥落したと言う情報と共に、玉音放送の連絡。
強風を改造したこの機体以外は飛べないようプラグを外してきた。史実のように操縦出来ないなら仕方ないが、こんな形で操縦経験が役立つとは皮肉なモノだ。
思えば思い残すことばかり。
それ以上に、せっかく憑依したのに、結局はこうなった。
気がつくと、光の中にいた。
『――ああ、ああ』
頭の中に直接響く声。
それはまるで電子音と鐘の音が重なり合ったような、奇妙な響きを持っていた。
声は次第にまとまり、一つの形を成す。
目の前に、一人の……
「……女神様?」
そう、女神としか表現できない存在がそこにあった。
しかし、どこか違和感がある。神秘的でありながら、無機質な雰囲気を纏っている。
その姿は人の形をしているが、肌は滑らかすぎて人間味がない。まるで精密機械のように整えられた美しさ。
その瞳は深淵のようでいて、時折、デジタルのノイズが走る。
『――該当呼称、「女神」、不正確。訂正推奨。』
彼女は瞬きをせず、淡々とした声で続けた。
『正確には女神ではありません。この世界の管理者、すなわちシステムです。神と表現することは、許容範囲内ですが、厳密には異なります』
「えーと……じゃあ、その管理者様が何の用で?」
『――エラー検知。システムの異常発生。補正措置、実行中』
「エラー?」
『申し訳ありません。手違いが発生しました』
「手違いって……?」
『あなたが体験していた「走馬灯」は、本来、ゲーム内の体験記録であるはずでした』
「ゲーム……?」
そう言われて、ふと気づく。
確かに、宇垣に転生する前の記憶が鮮明に残っている。
それどころか、「死んだ」という記憶がまるでない。
『――確認。あなたの記憶は、本来VRゲーム内での記録であるはずでした』
「……はずでした?」
『――事象報告。あなたは死にました。VRゲームプレイ中、突入してきたトラックによって物理的損壊が発生。生存率、ゼロ』
「はぁ……?」
脳内に突如蘇る記憶。
巨大なカプセル型のVRマシン。
完全没入型システム。
『――本来、あなたは死亡処理される予定でした。しかし……』
「しかし?」
『事故による機器の爆発が、時空の歪みを引き起こしました』
「時空の……?」
『――本事象、システム管理外。規定違反なし。当初、無視する予定でした。しかし、問題が発生』
「問題?」
『あなたの残留思念……すなわち魂のデータが、通常の処理領域を逸脱し、未知の領域へと飛ばされました』
「え、えーと?」
『――簡易説明モード、起動。あなたは「輪廻のシステム」から逸脱しました』
「……輪廻の外に飛ばされた、ってこと?」
『肯定。結果として、あなたはこの世界をクリアするまで、やり直すことになりました』
「え、ちょっと待って。それって……?」
『――あなたは、大日本帝国が敗北しない未来へと到達するまで、無限にループを繰り返すことになります』
「えぇ……それ、なんてクソゲー?」
『――指摘、受理。仕様上、不適切なゲームバランスを認識。補正措置、適用』
「補正措置?」
『――ループごとに、一部のチート機能を付与します。ただし、毎回ではなく、一定回数ループごとに解放』
「……つまり、一回では終わらないってことですね?」
『――否定不能』
「ちょっと、目を逸らさないでください!」
『――ログクリア。次のプロセスに移行』
女神――いや、管理者は咳払いのようなノイズを響かせると、淡々と続けた。
『今回のチート機能を付与します。検索機能――要するに、あなたの知識を拡張するための検索AIです』
「……検索AI?」
『情報の検索、解析、統合を補助する機能。適用範囲は、あなたの認識内に留まります』
「いや、それってぶっちゃけ攻略wiki……」
『肯定。では、起動処理開始――』
突然、光が強まる。
『――行ってらっしゃい』
次の瞬間、視界が完全に白に染まった。
そして気がつくと……
召しませ異世界転生空間4 火葬? いえ、仮想です 製本業者 @Bookmaker
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます